第十五話『新人集会』
「あ、どうもおはようございますラニィ嬢。今日も大変麗しいですね?」
バンと勢いよく扉を開けて部屋に入ってきた人物。
昨日の歓迎会で見た時よりも比較的軽装なゴスロリを身につけているラニィ嬢に、軽く頭を下げて挨拶する。
紫色のツリ目で、銀髪サイドテール。
服装は全体的に黒と紫の装飾で彩られた、ゴシックロリータ系統のものを着ているゴスロリ少女。
そんなテンプレ的毒舌お嬢様を供給してくれる神美少女であるラニィ嬢は、軽く(鋭角程度まで)頭を下げている俺を見て、顔を顰めながら口を開いた。
「ふん……あんた、ようやく起きたのね。新人のくせに寝坊するとか高が痴れるわ」
そんな風にして、昨日と同じく毒舌をプレゼントしてくれたラニィ嬢。
その腰には、相変わらず鉄の鞭……魔動鉄鞭だったか?が備え付けられている。
しかし、昨日と同じなのはその鉄の鞭だけであり、身に着けているゴスロリ服装は昨日とは違いゆったりとした動きやすそうなものを着ているようだ。
入ってきた時の楽しそうな顔から察するに、きっとどこかへ出かけていたんだろうな。うむ、眼福である。
あぁ、だがそんなことよりも先程の罵倒……あれは良かった。
そして、それに付随するラニィ嬢の蔑むような瞳も!
思い出すだけでご飯300杯はいけるな。
再来年ぐらいまでの生きる活力を貰ったよ?ハイオク満タンどころか溢れ出てるよ?
俺はこの貰った活力の恩をいつか返すことが出来るのだろうか……きっと返すためには、ラニィ嬢に一生尽くさなければなるまいて……!
俺はそんなことを考えながら、ちらりともう一人の同期へと目を向ける。
「……」
服の上からでも分かる強靭な肉体、漂う圧倒的強者の風格、傷のついた歴戦の戦士の様な顔に荒々しい赤髪をオールドバックにしたナイスガイ。
似合う言葉は、超人、無敵、最強。
きっと何人か殺してるだろう熟練の殺し屋のような鋭い眼光をしている、新人?冒険者のガイ君である。
「えっと、こんにちは。ガイ……さん?
いやー、今日もいい天気ですね……!」
そんな彼に対して、少し目を伏せながらも挨拶をする。
昨日の歓迎会の時にあまり喋れなかったので、どの様な性格をしているのか全く分からない。
だから、少しだけ、ほーんの少しだけ苦手意識があるというのが本音である。あと普通に目と体格差が怖い。超怖い。
そんな訳でおっかなびっくり声を掛けた俺だったが……
しかし、どうやらその恐怖は杞憂だったようだ。
「どうも、アタ……俺はガイだ。宜しく」
彼は静かにそれだけを言うと、その大きな手をスっと差し出して握手を求めてきた。
「あ、これはどうも……田中 吉平です。よろしくお願いします」
「……(コクリ)」
ふむ……自己紹介から始める、か。
もしかしたら、彼の方も俺と同じ気持ちだったのかもしれない。
まだあまり話したことの無い相手、知らない性格の同期、歓迎会で軽く自己紹介した程度の間柄。
そんなふわふわとした関係性ではなく、今一度しっかりと自己紹介をし合い握手を交し、交流を深める。
もしかしたら、これでようやく同期として認められたのかも……
うーーーーむ。
漢だ……!漢の中の漢だ!
怖い人かなと思っていたが、どうやら寧ろ真逆のような人のようである!これから是非とも宜しくしていきたい!
そんなことを考えて、俺は差し出された手とガッチリと握手を交わした。
「ハイハイ。自己紹介はそこまでにして、とりあえずご飯食べましょご飯!わたしお腹空いて死にそうなんだけど?」
俺たちが固い握手を交わしていると、ラニィ嬢がパンパンと手を叩いてそう声を掛けてきた。
俺はそれを見てすぐさま身を翻すと、グッと親指を上げた。
「ラニィ嬢、そうですよね!もうお昼時ですもんね?
自分もちょうどお腹が空いてきたような気がしてた所なんですよ!」
嘘である。
先程飲んだリュウコさん製お茶で、胃がぐちゃぐちゃにやられている真っ最中である。
出来れば何も胃に入れたくないというのが本音だ。
「あ、じゃあ僕なにか作りますね。
皆さんはそこのテーブルで少々お待ちください」
しかし、そこは最強天使ウィルちゃん。
自分から率先して料理を作りに行くその姿勢、確定マジ天使であるがちょっとマジで胃が……
「きっぺいくん、どうかしましたか?」
「あぁ、いや!なんでもないよ!
えーーと……何か手伝うことあるかウィル?」
せめて料理を手伝いながら、胃に優しい食材を……!
「いえ、大丈夫です!
お心遣いありがとうございます、きっぺいくん!」
そう言うと、慣れた手つきで下ごしらえを開始するウィルちゃん。あぁ……行ってしまわれた……!神よ……!
「じゃあ、まずは……」
天使ウィルちゃんが手始めに手をつけたのは、黄色の薄っぺらい皮が何枚も重なっているような球形の野菜……玉ねぎのようなものだな。
他の材料や金属製の鍋を取り出した所を見るに、スープとかだろうか?スープなら胃にも優しいかも……!
しかし、ウィルちゃんがナイフを持っていると指とか切らないか心配だ。後ろからちょっとだけ観察してみようかな。
最初に取りだした玉ねぎモドキを、まな板?の上に乗せて準備完了。ナイフを玉ねぎモドキへと持っていくウィルちゃん。
あ、そういえば、玉ねぎって皮を剥く前に上下に切込みを入れると剥ぎやすくなるんだが、この時に1、2枚皮を残してそこからベリベリ剥ぐのがポイントで───
「ふふんふ〜ん」
……うん、知ってるみたいだ。
手際も凄くいいし、全然心配する必要はなさそうだな。
俺はウィルちゃんの方から目線を離して、自分が座っていたテーブル席へと戻っていく。
「あー、ウィルの料理楽しみだわ〜。
普通の食材しか使ってないのに、わたしが作る物より何故か美味しいのよねー。ガイもそう思うでしょ?」
「……(コクリ)」
「あんたそのキャラ辞めたら?喋らないの面倒臭いんだけど?」
「……(ふるふる)」
ふーむ。あそこの2人は割と仲が良いらしい。
無口と毒舌、普通なら相反しそうなふたつの属性だが、意外と噛み合っているのだろうか?
……おっと、こんなことを考えている場合ではない。
俺も皆との会話に混ざり一刻も早く交流を深めなければ!
「お二人共、何の話ですか?」
「ん?いや、コイツが外ズラ装ってるから───」
「なんでもない。ウィルの飯が美味いという話だ」
「へぇー、そんなに美味しいんですね!楽しみだな!」
そうかそうか、ウィルちゃんの手料理は美味しいのか!
あの無口なガイさんが情熱的に語るぐらいだもんな、そりゃもう美味しいに違いない!
ていうか、そういえば手料理じゃん!
確定マジ天使美少女ウィルちゃんの手料理が食べられるという時点で実質勝ちである。そう、約束された勝利がここにある!
「……まぁ良いわ。
そんな話するより、今は聞きたいことあるし」
俺とガイの話を聞き、ラニィ嬢が少し不服そうな顔をしながらも、無理やり納得するようにそう呟く。
そして、俺に向けて少々不躾な感じで口を開いた。
「ねぇ、あんた 〟古代魔導語〝 読めるってホント?」
そのラニィ嬢の言葉に対し、俺はキョトンとして頭を傾げる。
古代魔導語……古代魔導語……?
えーと、なんだっけ?
確かどっかで聞いた覚えがあるんだが……
うーんと、えーと……なんだっけ?
そんな俺の反応が煩わしかったのか、ラニィ嬢がイライラした様子でばっと立ち上がった。
そして、シェアハウスの扉側を指さしながら口を開く。
「もう、アレよ!星の知恵の食堂にあった大きい布の!」
「……あー!あれだ、あの星の知恵のお宝の文字だ!」
覚えてる覚えてる!
確か……
「"七つの迷宮を踏破せし時、世界の理を究明す"でしたっけ?
俺覚えてますよそれ!なんか知らないけど読めました!」
「なんか知らないけど読めたって……
あんたアレがどれだけ凄いものか分かってる……?」
「いや、全然知らないです」
その俺の言葉を聞いて、呆れたように頭を抱えるラニィ嬢。
反応を見るにどうやらあれは相当すごいお宝らしい!
あれだろうか、やっぱり七つ集めると願い事叶えてくれる人が出てくる系のあれだろうか!?シェ〇ロンだろうか!ジ〇ニィだろうか!?
俺はワクワクする心を抑えきれずに、ラニィ嬢をキラッキラな瞳で見つめる。
きっと説明してくれるんだろうなという期待を込めながら、ラニィ嬢の紫色の瞳をじーっと見つめ続けた。
そんな俺の目が鬱陶しかったのか、はたまたラニィ嬢の優しさかは分からない。
「はぁ……分かったわよ、説明してあげるわ。
でも、次聞いた時に説明したこと忘れてたら絶対許さないから」
しかし、ラニィ嬢は溜息をつきながらもそう言って、星の知恵のお宝について詳しく説明してくれるのだった。
「───ほうほう……つまり、めっちゃ古い時代のめっちゃ偉い人がやばいぐらい難しい文字で記した、凄い秘宝の隠し場所のヒントってことなんですね?」
「……(こくこく)」
「あんた相当ザックリ簡略化したわね……まぁ、それで概ね合ってるから良いけど」
ラニィ嬢の説明が終わり数十分。
俺の完璧に纏められた説明を聞き、何故か頭を抑えているラニィ嬢を見ながら先程の説明を思い出す。
その概要はこうだ。
まだこの世界が生まれたばかりの古時代。
当時何も無かった世界に、七つの塔が出現した。
曰く、〟真理の迷宮〝。
その迷宮から、川が生まれ、土地が生まれ、空気が生まれ……
そして人類の祖となる生命が産まれおちたのだとか。
しかし、生命は未だ未発展で危険だった世界に降り立ったことで、道半ばで死に至る者が絶えず、あまりの困窮に悪へと身を堕とす者まで居たという。
生命は悪に落ちた者とそれ以外とで諍いを始め、争い、その数を減らしていく。
それはとても醜いものであり、誰もが悲しみにくれる日々を過ごしていた。
すると、そんな彼らの元へ、ある数人の生命が姿を現す。
彼らは自らのことを『賢者』と呼び、世界各地で生命達の争いを沈め、教え、導いていく。
そして、〝古代魔導語〟という現在の魔法の根源ともいえる力を用いて、世界を安寧の地へと創り換えたのだった。
で、その賢者のひとりが記したのが星の知恵のお宝で、あの大きな布が迷宮にあるお宝の鍵?になっているとかなんとか……
これでもざっくりと纏めているので、ラニィ嬢の説明とは少しだけ誤差があるかもしれないが……まぁだいたいこんな感じだったはずだ。
「しかし、そんなすごい文字をなんで自分が読めるんですかね?」
「知らないわよ。
……ていうかそれを聞きたかったから質問してるんだけど?」
「と、言われましても。ただ感覚で意味が解るとしか言い様がないと言うか……」
何となく文字を見ると脳に意味が浮かんでくるという、意味がわからない例えしかないという感じなんだよなぁ……
でも、多分これ言ったら馬鹿にしてると思われるだろうしなぁ……
そんなことを考えて、俺はなんて説明したものか頭を抱える。
しかし、ラニィ嬢はそんな俺をまくし立てるように口を開いた。
「どういうことよ?
それってどんな感覚で解るのか説明しな───」
「はい、皆さんご飯出来ましたよー!」
だが、ラニィ嬢に迫られている俺を見兼ねてか、ウィルちゃんが完成した料理をテーブルの上へと置いてくれる。
「わぁ、やったわ!いただきます!」
すると、それを見たラニィ嬢は嬉しそうに手を合わせてご飯を食べ始めるのだった。
良かった、興味の対象が料理に移ったらしい。
ラニィ嬢は一度興味を持つとガツガツ来るタイプだということを覚えておこう……
「ん〜、やっぱりウィルの料理美味しいわ!」
「……(こくこく)」
「褒めてくださってありがとうございます!さぁ、きっぺいくんもどうぞ!」
「あ、あぁ。ありがとう!いただきます……!」
ニコニコと笑顔を浮かべるウィルちゃんに見つめられながら、俺はゆっくりとフォークを手に取った。
そして、少しだけ恐怖しながらも、目の前に置かれたパンと玉ねぎのスープを口に運ぶ。俺のお腹よ!耐えてくれッ!!!
「……ん、美味い!?」
しかし、胃から返ってきた反応は予想外のもの。
玉ねぎモドキと唐辛子?のピリリとしたスープが胃を包んでくれて、リュウコさん茶でどろどろしていた感覚が消え失せたのだ!
「ふふっ、まだまだあるので沢山食べてくださいね!」
「あぁ、沢山食べさせてもらうよ!」
「ウィル、わたしにもおかわり頂戴────」
そうやって皆と昼ご飯を食べながら、時間がゆったりと過ぎていく。
余談だが、この後スープを食べすぎてお腹がパンパンになり大変だったことを記しておこうと思う。
間を空けてしまい大変申し訳ないです……!
これから少しずつ投稿ペースをあげていきますのでよろしくお願いします!