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キャラバンに乗って旅する異世界!  作者: 一人記


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第十話『おたから!』

 


「おーい、きっぺい。席無いならちょっとこっちこーい!」


「……?団長?」


 何らかの直感によって、俺が思考の海に落ちている真っ只中。


 そんな時、最近になってよく聞いているキザ声、星の知恵団長であるシェロランさんの声がどこかから聞こえてくることに気がついた。


 どうやら俺を呼んでいるらしい。

 時間的にさっき別れたばかりなんだが、何の用だろうか?


 そう思い、周囲を見渡してみる。

 すると、食堂に入ってすぐの位置にあるカウンター席から、団長がこちらに向かって手招きしているのが分かった。


 俺はそれを確認して、手招きに誘われるように団長の元へ歩いていく。


「こんにちは団長。何か用ですか?」


 カウンター席に座り木のグラスに入った黄金色の液体、おそらくお酒を飲んでいる団長に声をかける。

 すると、団長は軽く手を挙げてにやりと笑った。


 相変わらずウザ……いいキメ顔である。


「おう、ようやく来たか新人。

 お前全然反応しないから無視されてるかと思ったぞ?」


「いや自分そんなことしませんよ!?

 さっきはちょっと考え事をしてただけで……」


 何度も呼ばれているとは気が付かなかった。

 やっぱり最近、考え事をしていると時間感覚が狂うっていうか……なんか調子悪いんだよなー?


「そうか、ならいい。俺の寛大な心で許してやろうじゃないか。

 ……ほんとに無視してたら、お前に一生トイレ掃除を任せてやろうと思ってたけどな!」


「そんな陰湿な嫌がらせやめてくださいよ……

 それよりも何の用ですか?」


「まぁまぁ、とりあえず座れ。別にすることも無いだろう?」


「まぁ、特に無いですけど……」


 団長に目線で示されたカウンター席、団長の隣りの席へ腰を下ろす。

 団長はそれを見て、カウンター席の向こう側にいたクランの団員……いや、紹介されてないから従業員の方とかだろうか?


 とにかく、その紳士服を着たバーのマスター的な人に声を掛けて、俺に飲み物を頼んでくれた。黄金色のやつである。


「ありがとうございます」


「あぁ、気にせず飲め。宴会っつったらやっぱりコレだろ?」


「……自分は飲めるのでありがたいですけど、初対面の人に初っ端からお酒はどうかと思いますよ?」


「大丈夫大丈夫、俺だって流石に人は選ぶさ」


 団長はそう言って、持っていた木のグラスをこちらへ傾ける。

 いつの間にか新しい酒を頼んでいたようで、グラスの中には黄金色の液体が並々に注がれていた。


 俺はそれに対し軽く苦笑した後、カウンターに置かれている自らのグラスを持ち、そのまま団長のグラスへとあてがう。



 ───カン。と、木のぶつかる小気味よい音が辺りに響いた。



「……こっちのビール、お酒は飲んだこと無かったんですけど、普通においしいですね?」


 口全体にじんわりと広がる苦味。

 そして、しゅわしゅわとした喉越しの良い感覚。


 あまり冷えていないためかグッと煽る気にはなれないが、しかしその点さえクリアすれば現代のビールに勝るとも劣らない出来である。

 やっぱり、どの世界でも人間はお酒を研究するものなのだろうか。まぁ酔わないとやってられないこともあるからなぁ……


「どうやら気に入って貰えたようだな?」

 

「えぇ。おいしいお酒はいつ飲んでも楽しめますからね。こっちのが口に合わなかったらどうしようかと思ってました」


「そうかそうか、"おいしいお酒はいつ飲んでも楽しめる"か。

 それは言い得て妙だな!」


 団長が楽しそうに笑い、持っていたグラスを一気に傾けた。

 イケメンに似合わない大胆な飲みっぷりである。何か特別なことでもあったのだろうか?


「……ふぅ。

 さてと、きっぺい。それでお前を呼んだ理由についてだが」


「随分といきなり本題に移りますね?」


「あぁそう……いや、お前にはこのクランの宝を見せてなかったなと思ってな」


 ……この人完全に酔ってるな。

 俺の話もあまり聞いてないし、明らかに思考がぐちゃぐちゃだ。


 まぁでも、ちゃんと呂律は回ってるし大丈夫かな。

 とりあえず暇だし話を続けてみるか……気になる単語も出てきたし。


 そんなことを思い、団長との話を続けていく。


「えっと、宝ですか。このクランにそんな物があるんですか?」


「あぁ、ある。本当に特別な、このクランのお宝だ。

 アレを手に入れるのに俺の先代、先々代……いや、もっと前の団長たちが命を懸けて───」


 あ、やばい。これは長くなるやつだ!

 酔っ払い特有の武勇伝的なアレだ!


 すぐに方向転換させなければ俺の時間がやばい!

 話を、話を流すんだ俺!え、えっと……何か……!


「あ〜、団長?そのお宝ってやつはどこにあるんですか?

 自分すごく気になるな!案内してくれませんか!?」


 本格的に話し始めた団長へ、慌てて声をかける。

 すると団長は俺の言葉を受けて、少し考えた素振りを見せ……


「お宝か……食堂の壁に飾ってあるアレだよ。あれ。ほら見てみろ」


 そう言って、嬉しそうにどこかを指さした。


「……あれは、横断幕?」


 団長が指さした先にある食堂の壁……

 俺が自己紹介をした、お立ち台的な場所の後ろにそれは掲げられていた。


 作られてから相当時間が経っているのだろう。

 傍から見てもわかるほど経年劣化している汚れた白の布地に、ぐにゃぐにゃと波打つ様な不思議な文字が綴られている。


 ───なぜ目に入らなかったのか。


 そのぐらい大きい、本当に横断幕のような布製の何かが、そこに掛けられていたのだ。


「あれはな、俺が団長になる、前の前の世代から引き継がれた物なんだ。

 これを得るために先代たちは数々の海を渡り、様々な地を探検し、命を賭けて俺たちに繋いできた。

 このクランにとって、それはそれは大切なお宝なんだよ」


 俺はその団長の話を聞きながら、無意識的にその文字を目で追う。


 "ﬡᘿɦτℓ‐ਹʟ զг∡ꪇ ηєℓ‐ꛃⅠ⋖ Δɦτє∡ꪇ︎︎︎︎︎︎'ӄɦτ Δɦτℓ‐ δϵℓ‐૦ռℓ‐ਹʟ ɮꛃηզгє૪ਹʟΔɦτδϵ, զг∡ꪇ ﬡᘿ૪ɮɮ Ψ.૪δϵƈ∡૦ռℓ‐є Δɦτℓ‐ ΔєꪇΔɦτ ∡ᠻ Δɦτℓ‐ ﬡᘿ∡єɮΨ."


「で、この宝に書かれてる言葉ってのが───」



「"七つの迷宮を踏破せし時、世界の理を究明す"」



 なぜかは分からない。


 自分でも、正直に言って読めるとは思っていなかった。



 ───しかし、その文字を見た瞬間。



 本当に何故かは分からないが、見たことの無いその文字を理解し、つい口に出し読んでしまった。



「そうそう、七つの迷宮を……って?!あ゛!?


 ───ッおまえ、今、いま?!これ読んだのか?!」


 えっと……団長めっちゃ狼狽えてるな?

 驚きすぎて、俺に掴みかかる勢いだもんなぁ……?


 てことは、わからんけどなんかやっちゃったっぽい?

 でも、俺も正直読めるとは思ってなかったしなぁ……驚くのも無理はない、のか?


 うーむ、わからん!

 ……まぁとりあえず適当に返事しとくか!


「ハイ。なんか自然と読めましたけど、これ誰でも読める魔法の文字とかじゃないんすか?」


「そんな文字ねぇわッ!こ、これ古代魔導語だぞ?!

 500年間生きてる俺でも読めねーんだぞ?え?マジかよ?!」


 へぇ〜、この人500年も生きてたのか……やっぱりエルフは長寿なんだなぁ!異世界の定番的設定だ!燃えるな!


 ……にしても古代魔導語!かっこいい!特に響きがかっこいい!

 何それ、そんなかっこいいやつを俺は読めるの?何となく読めちゃう感じですか!?


 もしかして、古代魔導語読めるチートですか?!


 ……い、いや待て俺。落ち着け、おちちちつくんだ……!

 ここであまり騒ぎ立てるものでは無いぞ俺ぇ!


 なんてったって俺はプロ異世界ニスト。

 この状況においての最適解は手に取るようにわかるぞ!


 そう。今ここで騒ぎ立ててしまうのは、それは二流異世界転生主人公がやることだ。

 自らの力に奢り昂ってしまい、要らぬトラブルに巻き込まれてしまうのが目に見えている!


 しかし、俺のようなプロ異世界ニストは違う!

 どんなにすごいチート所持疑惑が上がっても、あくまでも冷静にクールに対応するのだ!


 そう。チート所持予備軍として、きちんと……


 きちんと"鈍感系主人公"として話を進めなければッ!


「いや、なんか普通に読めますけど……?

 あれ?もしかして自分なんかやっちゃいました?」


「……読めてたまるか!

 この文字を解読するのにどれだけの学者が挫折したと思ってるんだ!?」


 はぁ〜……!

 一度言ってみたかったセリフ『俺なんかやっちゃいました?』がこんなに早く使えるとは……感無量である!異世界最高!


 しかし、学者でも読めないような文字なのか古代魔導語。

 なんで俺読めるんだ?本格的に分からないな?


「お前、なん、ほんとに読めるのか?!最初から知ってたとかそういうやつじゃなくて?!」


「いや、でもなんか知らないけど解かりますよ?普通に」


「普通にっておま……!

 ……はぁ。このままいっても押し問答だな。


 ……ほら、ガヤ共も一旦散れ。とりあえず後で話すから」


 団長はそう言って、騒ぎを聞きつけて周りに集まっていた数人を追い払い元いた席に着いた。


 ふぅ……どうやら落ち着いたようだ。良かった良かった!


 これはプロ異世界ニストとしての経験が生きたな!

 今後も"鈍感系主人公"を貫いていこうじゃないか!頑張るぞー!


 とまぁ、俺が未来の自分に"鈍感系主人公"という活路を見いだして、ひとり目を輝かせている……そんな時。


「……ほら、お前もいっかい座れ。まだなんも食ってないだろう?」


 さっきまで俺が座っていたカウンターに、美味しそうなご飯が運ばれてきたのだ。

 言葉から察するに、きっと団長が用意してくれたのだろう!

 素晴らしいエルフだ!天才!神!最強!……笑みはウザイけど!


 ご飯のラインナップは、唐揚げの様なもの(おそらくは空鳥(スカイバード)揚げ)とト目トサラダ。

 そして、生ハムみたいな肉の薄切りが山積みになった、とても豪快な肉料理である!どれも美味しそうだ!ト目ト以外!


「おー、美味しそうですね!いただきます!」


 俺はお腹が空いていたのもあって、子供のように喜んで席につく。

 そして、目の前に並べられている美味しそうなご飯たちを、思いっきり口に運び始めた。


「どうだ?お味は口にあ───」


「こ、これは……!?」


 まず口に運んだのは空鳥(スカイバード)揚げ。


 口に入れた瞬間に溢れる肉汁と、程良く柔らかくそれでいて肉厚な空鳥(スカイバード)のお肉……

 揚げに使われている油も最小限に抑えられており、カラッとしていて香ばしく何個でも食べられてしまう!


 さらに、空鳥(スカイバード)揚げだけじゃ飽きてしまいそうな所をカバーするのが、この薄切り肉と新鮮なト目ト!


 薄切り肉は塩漬けされているようで、塩っけが強くて味を変える意味ですごく美味しい。

 空鳥(スカイバード)揚げに巻き付けて食うと、また違った味わいになってより美味しいときた!控えめに言って最高である!


 極めつけはト目トだ!

 俺がずっと目玉だと思っていた部分はどうやらト目トの種子だったようで、ぶにぶにとした白珠の中から沢山の小さな種が現れた。

 さすがにそれは怖くて手が出なかったが、その外側についている赤い果肉……


 それがトマトのように酸っぱくて、みずみずしい!

 とにかくみずみずしい!もう赤い皮が酸っぱい水を包んでいるようなものである!

 俺は食感が苦手でトマトが得意では無いのだが、これなら幾つでも食える上、その酸っぱさがとにかく肉料理と合うのだ!


「これは、うまい!とても美味い!」


「それは良かったよ……」


 うおー!いくらでも食えるぞー!

 胃袋が限界を迎えるまで……限界を超えるまで食いまくるんだー!


 そんなことを考え……いや、考えることすら忘れて料理を口に運んでいく。

 その度に、口の中で幸せが広がっていくのが解った。


 美味しいものを食べる事、これこそが世界の真理である。


 それが、その事が今、理解出来たのだ。


「で、今後のお前の処遇なんだが……」


「どうぞ。追加の空鳥(スカイバード)揚げです」


「うわぁ、ありがとうございますマスター!

 ザルザさん達もありがとー!」


「おい、俺の話を聞いて……」


「「「沢山食えよー!」」」


 お肉を持ってきてくれたマスター、そして料理を作りながら遠くで見守ってくれているザルザさん達。


 最後に、俺を助けてくれたネココさん、クランの皆!


 様々な人のおかげで、俺は今、幸せを味わえているんだ……!


「しあわせだー!俺はいましあわせだー!」


 そう、俺は生きているのである!

 この異世界で、しっかりと足つけて生きているのだ!


 これからこのクランで、たくさん修行して、たくさん仕事をして、たくさん戦って、どんどん成長していくんだ!



 これから……



 ───これから、俺の壮大な異世界生活が始まるんだ。



「ははは……楽しみ、だぁー……」



 そんなことを口にして、俺はゆっくりと夢の中へ誘われていく。



 深い、深い夢の中へ……



 ゆっくりと、ゆっくりと……



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……おい?おい、きっぺい?」


「ぐー……ぐー……」


「……寝てるな? それはもうぐっすりと寝てるな?

 まじかこいつ、さっき酒飲めるって言ってたのにめちゃくちゃ弱いじゃないか……


 師弟子ともども酒に弱いとか、大丈夫か……?」


 俺の隣に座っているきっぺいが、いきなり机に突っ伏した。

 なにかの発作かと思い慌てて介抱に入るが、確認してみればどうやら寝ているだけらしい。


 こいつ、リュウコと全く同じ属性持ちだったか。

 途中までケロッとした顔で飲むのに、いきなりガタがくるタイプだ。


「いや、そんなことより古代魔導語が読めるという事実だよ……知られたら、絶対"魔同"の奴らになんか言われるよなぁ……?


 はぁーーー、どうするかなぁ……?」


 ……ていうかこいつ、ついに俺の話を聞かず寝やがったな。


 こっちが頭抱えてる時に、気持ちの良さそうな寝顔しやがって。


「はぁ……ネココ、きっぺいを部屋に運んでやってくれ」


 いつの間にか隣に立っていたネココに対し、俺はそう言って酒を飲み始める。

 やらなければならないことは沢山あるのだが、沢山あるからこそ飲んでないとやってられないのだ。


「はい、わかりました。

 ……団長、あまり飲み過ぎないようにしてくださいね?」


「あぁ……わかってるよ」


 きっぺいを抱えて歩き出したネココから、去り際にお小言を言われてしまった。


 しかし、それはいつものことである。


 俺はネココに対し軽く手を挙げて答えると、木のグラスに注がれた酒を思い切りグッと呷った。



 喉を撫でるような小さな刺激と苦味が、渇いた体を潤していく。

 



「くくっ……"おいしいお酒はいつ飲んでも楽しめる"か」




 言い得て妙だよ、全くな!



 

ちなみに作者はお酒飲んだことないです

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