プロローグ『スカイダイブ』
不定期更新!
蛍光灯がパチパチと音をたてる部屋で、手にした禍々しい色の錠剤を口に入れた。
コップに入った水を口に含み、ゆっくりと流し込んでいく。
───ばたり、と乾いた音が部屋に響いた。
「ぐ……がぁ……ゴボッ……」
自分が自分で無くなるかのような感覚のあと、ゆっくりと意識が無くなっていく。
《 ーーーー緊急システム起動 》
脳内に響く甲高い声。
しかしそれは機械的で、何処か不安にさせるような感じがした。
そんな機械的な声を聞きながら、着々と薄れていく意識。
しかし……
《 ブレインスキャン・・・正常な動作を確認 》
「があぁぁぁッ!?ゴハッ……ぐは……!」
意識を失いかけた途端に脳に走る痛み。
痛くて反射的に声をあげようとする。
だが、声を出そうにも声が出ない。まるで、内臓という内臓に水でも入ってるかのようだ。
《 身体を確認・・・正常 》
「ーーーッ!」
身体中に電流が走る。その表現が1番正しいだろう。
身体に絶え間なく与えられる激しい痛み痛み痛み!
いつまでも続くかと思われる痛みが?!痛い痛い痛い!!?!
《 イデアシステム・・・正常 》
呻き声すらももう出せない。
ひたすらに辛く苦しい。もうやめてくれ……助けてくれ……
《 身体の魔力回路・・・正常 》
瞬間、ふっと気が遠くなる。
身体中から力が抜けていく。
《 精神の異常を発見・・・修正しました 》
そして、何もかも分からなくなって、まだ意識があるのは気合でしかなくなっていて……
《 終システムを起動します 》
まだだ。
《 次元移動の適応を開始 》
まだダメだ。
《 魔力の供給を開始 》
見届けるまでは……
《 座標を入力・・・失敗 》
まだ……
《 安全の為保護システムを起動します 》
だめ……………な……
《 次元移動の適応・・・完了 》
……
《 魔力の補給・・・完了 》
…………
《 転移成功率・・・85% 問題なし
コピーを作成……成功しました 》
あれ…………
《 転移まで・・・5・4・3・2・1・開始 》
何を……みとどけるんだっけ……
俺は……たしか……
ひくれを……
《 ……いってらっしゃいませ マスター。 》
その言葉を合図に。
俺の意識は途絶えた。
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唐突な浮遊感と共に目が覚める。
「へ……?うわぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァあぁァァァァァ!!?」
見渡す限りの広大な緑、美しい!……なんて思う暇もなく、突如として落ちていく感覚。
四肢がバラバラになるんじゃないかと思うくらいの力が、唐突に身体中にかかってきた。
まぁそれも当然だろう。
……だって、雲ぐらいの高さから落ちてるんだからな!!
この俺、中肉中背フツメンの田中吉平ピチピチ2○才にとってしても初めての体験だ!やったねッ!うれしくないよ!?
「どうなぁぃぁぁてぃんだぁぅいァうぁあーーーッ!」
空中で叫ぼうとしたが、成程、これは難しい。
口を開けた瞬間に顎外れるんじゃないかってぐらいの空気が入ってきた。軽く死にかけた。
これからの人生に生かそう。雲ぐらいの高さから落ちてる時は歯を食いしばるってな!
……生かせるか!阿呆がッ!!!
「……ッ!」
危ねぇ……
空気抵抗に負けて体がきりもみ回転しかけたので、慌てて姿勢制御を行う。
少しの時間をかけて、取り敢えず手と足を広げて大の字になることで安定した。
上手くいってよかった。内心バクバクだった。
多分きりもみ回転なんてした日には揺れで脳が終わる。ゲロまみれで死ぬのはごめんだ!
……だが、大の字になったことで現実を直視しなければならない。
それは、下を向いてしまったことにより、死へのカウントダウンがしっかりとわかる事だ。
どういう事だって?
地面が近づいて来てるってことだよ!!!!
あぁ。終わった……
鳥でもないし、ジェットパックを搭載してる訳でもないし、ましてやどこかの鉄腕ロボットでもない俺には、ちゃくちゃくと近づいて来ている緑色の大地を前にして、自分でも知りもしないどこかの神様やら正義のヒーローやら奇跡やらに祈りを捧げることぐらいしか出来なかった。
グッパイ、今世。
こんにちは、来世。
願うとすれば、来世にサブカルあらんことを……
ていうか、こういう時って走馬灯とかあるって聞くけど、全然思い出浮かばねぇや!
見えるのは等速で迫ってくる地面だけだははっ!
そんなくだらないことを考えながら、俺の体はすごい勢いで地面に叩きつけ
……られなかった。
目を瞑り、きたる衝撃に備えていた(決して怖かった訳ではないよ?)俺は、いつまでたっても衝撃が来ないことにしびれを切らして目を開けた。
すると、驚いたことに俺の体は何かの透明な球体に包まれている。
まぁ透明と言っても、薄黄色がかった向こう側が透けて見えるような感じであり、球体が見えないという訳では無い。
その球体を触ってみたところ、熱くもなく冷たくもない……
なんというか、熱を感じられないという答えが正しいような不思議な感じのする質感だった。
「これは……」
俺は目の前にある物体が何かと思案して、ある答えにたどり着く。
……ボ〇グか?ボル〇なのか?
遂に俺は〇ルグを出せるようになったのか?
「ていうか凄いな!あたり一体焼け野原だ……」
周りを見てみると、この球体が落下した衝撃は凄まじい物だったようで、球体を中心に陥没した地面となぎ倒された木々、下の地面は熱を持ち赤くなっていた。
よく耐えられたな?俺の体。褒めてつかわそう!
「さてと。そんなことより、どうしようか?
どうやってこの球体……バリア(仮)から出るんだ?」
球体と呼ぶのは疲れるのでとりあえずは、バリア(仮)と呼ぶことにした。命の恩人であるからには後でしっかりと名前を考えなければなるまいて!
因みに、かっこかりまできちんと口で発している。
……長くなってるって?気にするな!
とまぁ、心が良い感じに落ち着いてきたところで……どうやってここから出ようか?
「……解!」
球体内に、俺のイケボ(仮)が虚しく響く。
……ま、まぁやってみただけだし?
別に消えると思ってないし?むしろちょっと叫びたいなと思って叫んだ割合の方が高いし?
……
はぁ……真面目にやろ。
でも、これにおいて真面目ってどういう行動なんだろうか?
……とりま適当にお願いでもしとくか!
俺は念仏でも唱えるかのように手を合わせてお願いを始める。
「おーいバリア(仮)ー消えろー。消えてくれー。
……お願いします。私を出してくださいバリア(仮)様。…まぁダメだよね!って消えた!!?」
目を瞑っていると突如として自然の風を感じたので、目を開けてみたらバリア(仮)はきれいさっぱり消えていた。
もしかして、最後の方ダメもとで土下座しながら言ってみたのが功を奏したのか……?
す、すげー……すげーいらない認識機能搭載してやがるぜ……。
流石は俺から出たバリアだ……癖が強えや!(歓喜)
「なんだったんだ……まぁ……いっか?」
とりま抜け出せたし、どっかに歩いて行くか!
……てか、ここ何処だよ!!!!
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蛍光灯がバチバチと唸る、研究室のようなその場所にはひとつの遺体が転がっていた。
そんな部屋の扉がバタンと開かれる。
入ってきたのは、白衣の下からフード付きの服を着て、目深にフードを被った仏頂面の男だ。
髪は長く金髪で、フードから溢れるほどに長く艶のあるものだった。
男が呟く。
「チッ。死んでるか。
……おい。死体はバレないように研究室に運んで解剖しろ。
……大事な検体だ傷つけるなよ?」
「はっ。了解しました。」
入ってきた男は部屋にあった死体に驚かず、さも当然のように部屋にあった椅子に座ると、鬱陶しそうに舌打ちした。
金髪の男の後を追うように入ってきた白衣の人間に命令し、死体を運ばせる。
男は椅子の背もたれにゆっくりと背を預け、足を組みながら思案する。
「はてさて、どうなる事やら……」
そう呟いた男は相変わらず仏頂面だった。