2021/01/16
1087.
「ドラゴン。それは、人々が恐れ讃えた伝説の生き物。すなわちドラゴン」
「もっと簡潔に言ってくれ」
「つまり、ドラゴンはドラゴンだ」
「何も言ってないのと一緒じゃねえか」
1088.
「なぜ人は、そこにドラゴンという存在を見たのか」
「さあな。ただ、昔の人ほど驚異的な自然現象が起こると何かを崇めたくなるって聞くけどな」
「なるほど。そこにヒントがあるのか」
「ドラゴンのことを知ってどうするつもりなんだよ」
1089.
「知ってどうするって、どうもしないさ。知的好奇心が満たされて満足、それだけだ」
「お前に知的好奇心なんてものがあったのかよ」
「あるに決まってるだろ? 人間なんだから」
「その割にはたまに“細かいことはどうでもいい!”とか言って流すよな」
1090.
「そりゃそうさ。興味あるものもあれば無いものもある。私は、自分自身に正直になっているだけのこと」
「振り回される側にもなってみろよな」
「知るか。そんなことよりもドラゴンだ」
「全く・・・」
1091.
「私の調べによると、」
「ネットで調べただけだろ」
「ん゛ん゛っ、とにかく私の調べによるとだな、・・・よく分からん」
「ダメじゃねえか」
1092.
「だってだよ!? 色々書かれててドコ見りゃいいか分かんないんだよ!?」
「諦めろよ。それだけドラゴンは奥が深いんだよ」
「嫌だ! 諦めたくない! 諦めたらそこでドラゴン終了なんだよ!?」
「お前1人が諦めたところでドラゴンは終わらないから安心しろ」
1093.
「ドラゴンって言えば2タイプあるよね。ヘビっぽいやつとトカゲっぽいやつ」
「ヘビとかトカゲとか言うと一気にショボく思えてきたな」
「でもだよ? キリン並みにデカいトカゲとかいたらビビるくね?」
「確かに。羽があって火も吐いてきたら尚更だな」
1094.
「あ、ヤモリだ」
「いたのか。我が家の小さなドラゴンだな」
「おい、お前! 何こっちを見てやが・・・うおっ! 火ぃ吐いてきやがった!」
「マジかこいつ!」
1095.
「野生のヤモリが現れた!」
「いきなりバトルかよ」
「目が合った瞬間に、バトルは始まる! クレセントを呼んで来い!」
「何なんだよマジで・・・でも部屋燃やされたら堪らんからな」
1096.
「とりあえずクレセント呼んで来るから持ち堪えてろ」
「そうだな、それまではこの私が防衛しよう! 食らいやがれ! サッチューザイ!」
プシューーーーー。
「な、何ッ、よけられた!」
1097.
「す、すばしっこいやつめ。次は何をすグホォォ・・・ッ! ロケット頭突き、だとぉ・・・!」
ドサリ。
「おい美々香、クレセント連れてき・・・って、もうやられてやがる!」
「後は頼んだ、ぞ・・・」
1098.
「しょうがない、やるか。美々香はともかく、部屋だけは守らねばならん。いくぞ、クレセント!」
「にゃー!」
「しかし、火を吐くということは炎とドラゴンか? 地面か岩タイプで攻めるとしよう。クレセント! ホネブーメランだ!」
「にゃーーー!!」
1099.
「何!? よけられた!」
「馬鹿野郎・・・! 命中が100の技にしろよ・・・!」
「お前はそこで寝てろ。くそっ、また火を吐いてきやがった。クレセント、とにかく水の技で防げ!」
「にゃーーー!!」
1100.
「おい馬鹿! 水の技は“なみのり”しか・・・!」
「え・・・うわああぁぁぁ!!」
「ゼェ、ハァ。ヤツは・・・まだ生きてやがる。クッソが! クレセント、“じわれ”だ!」
「お前こそ馬鹿か! そんなことしたら部屋どころかアパートが、アパートそのものがあああぁぁぁぁぁ!!」
1101.
「・・・それで、ヤモリ1匹のためにこんなことになっちまったってのかい」
「はい・・・マジすんません」
「いいや、でかしたよ美々香! バレずに済んで大家負担でリフォームされるよ!」
「え・・・い・・・イヤッフゥーーーー! ヤモリ、あんたはやっぱ我が家の救世主だよ!」




