2020/11/28
935.
「兄よ!」
「妹よ!」
「・・・せーのっ」
「「雰囲気!」」
936.
「フンイキってさ、フインキって言いたくなることあるよね」
「まあな。特に、口で言う分には流れで言っちまうことが多い」
「でもネットでもちょくちょく文字で見るよね。漢字変換もできないのに」
「そこなんだよな。あれは、知っててわざとやってるのか、それとも本気なのか」
937.
「どうなんだろうな。割とマジで間違えてたりしないのか?」
「見かけるとツッコミたくもなってしまう。だが、“わざと言ってるのに何マジになってんの”とか言われると恥ずい」
「結果、黙って見守るしかないワケだ」
「だな。見ず知らずの人間が間違えてようと知ったことじゃないし」
938.
「ちょっと調べてみるか、その線で」
「だな」
「“ふいんき”で調べた結果・・・まあ普通に、間違いですみたいな記事が多いな」
「だろうな」
939.
「ンだよ。こっちはフインキを使う奴が本気なのか故意なのかが知りたかったってのに」
「そんな際どい需要に応えるのは無いだろ。正しく知ってる奴は“フインキは間違い”としか言わんだろうし」
「ったく、何のためのネットだよ」
「間違いを“間違い”と教えてくれるためのネットだよ」
940.
「でも何でフインキってのが広まったんだろうな。字面からしてもフンとイとキなのに」
「口で言ってるうちに崩れたんだろ。そっちの方が言いやすいって人もいるし」
「しかし! その結果が世に混乱を招いたとは思わないのか!」
「いや、敢えて俺たちに試練を与えたと考えよう!」
941.
「そんなまどろっこしい試練などいらん! 正しいことだけを教えたまえ!」
「世の中は正しいことだけではない! それを見極める力を養うための試練が必要なんだ!」
「そのために“フインキ”が生まれたとでも言うのか!」
「多分違う!」
942.
「ンだよ、結局違うんじゃないかよ」
「普通に考えて、そんな理由で言葉崩したりしないだろ」
「でもあれだな。この情報化社会、見極める力ってやつは必要になってくるな」
「だな。間違いを教えてくれてるつもりが、罠だってこともあるかもだぜ?」
943.
「どうすりゃいいんだよ。“フインキは間違い”まで嘘だったらどうすんだよ」
「それはないだろ。結構な人がそう言ってるからそれは信憑性がある」
「それこそが私らをハメるためのプロパガンダかも知れないぞ!」
「お前がプロパガンダって言葉を知ってることに驚きだよ」
944.
「何かと情報が錯綜する時代だからな。そういう言葉を嫌でも覚えるさ」
「それ覚えたのもネットでってのは皮肉な話だがな」
「しょうがないだろ! じゃあ広辞苑でも引けってのか!? 広辞苑が信用できる保証がどこにある!」
「疑いだしたらキリがないな・・・」
945.
「結局、信じるとか信じないとかは個人で決めるしかないんっしょ?」
「そうなるな。手に入った情報を統合して、総合的に判断することになる」
「まーた統合だとか総合だとかゴチャゴチャ並べやがって。これだから日本人は」
「適当に日本人がどうとか言うな。根拠ないだろそれ」
946.
「根拠などない! 私がそんなものを以って発言してると思ってるのか!」
「思ってねーよ。お前の言ってることなんてネット以上に信用できねえよ」
「だろう? それが私の策略さ」
「信用できない情報源って、無視されるだけだからな。別に混乱はしないぞ」
947.
「私は別に混乱させるために発言しているワケではない!」
「策略はどこ行ったんだよ」
「とにかくその場を凌ぐ! 凌ぎに凌いで自分の思い通りに事を運ぶ! 私はこれしか考えていない!」
「それで上手く行った試しがあったか?」