2020/11/08
863.
「兄さん」
「どうした」
「お金貸して」
「なんでだよ、余裕あるだろお前」
864.
「理由が必要? 私たち兄妹の絆があれば、お金を貸すぐらい何のことはないでしょう?」
「美々香ちゃんみたいなこと言うなよお前」
「あら失礼ね。美々香なら、“金を貸せ”じゃなくて“金をよこせ”と言うわ」
「お前ひでぇな。“兄妹の絆”がどうとか言う癖に友達はそんな扱いかよ」
865.
「友達だからこそよ。美々香がどんな人間であるかは、よく知っているわ」
「まぁな。美々香ちゃんに金貸したら帰って来る気がしないから、“よこせ”と言われた方がまだマシに思える」
「実際彼女、“貸せ”って言うわよ? 借りパクする気満々で」
「タチ悪ぃな」
866.
「で、そのタチ悪いやつの友達であるお前が、金を貸せだって?」
「そうよ。どう? もちろん私は、ちゃんと返すことを約束するわ?」
「家族のことをどこまで信じれるか、試されるってやつか」
「そんなところね」
867.
「だが、理由は聞きたいものだな。家族たるもの、無条件で金を貸すなどして甘やかす訳にはいかない」
「なるほど。家族というのを逆手に取ってそうくる訳ね」
「それで、説明できるものはあるのか?」
「“私の兄さんは無条件で金を貸してくれた”って、美々香の鼻を明かしてやりたい」
868.
「はぁ? ふざけるな。そんな理由で貸す訳がないだろうが。必要とさえしてないじゃないか」
「いいえ。使わないというだけであって、必要ない訳ではないわ。そして、使わないから確実に返せる」
「使わんなら貸す必要ないだろ。ホラでも吹けよ」
「いいから黙って貸して」
869.
「実の妹が喜ぶ顔を見たくないの?」
「友達相手にマウント取って喜ぶ妹の姿など見たい訳ないだろう」
「違うわ。兄さんが金を貸してくれたという事実に喜ぶのよ」
「一緒だ。金借りて喜ぶ妹の姿など見る必要はない」
870.
「貸してくれれば今この場で喜ぶわよ? それでもダメなの?」
「ダメだ」
「ゼロ円じゃ買えないスマイルが、ここにはあるのよ?」
「そんなもん要らん」
871.
「ゼロ円で買えないスマイルを妹が持ってること自体、残念極まりない」
「仕方ないでしょ、作り笑いには限度があるもの。心から喜んだ時にしか出ない笑顔が、あるのよ」
「まず大前提として、金を借りて喜ぶような事態になるな」
「なってしまったわ。それを残念に思ってちょうだい」
872.
「・・・でも、私が何を言っても、貸してはくれないのね」
「当然だ」
「つまりあなたは、妹には絶対に金を貸さないということね。じゃあそれは、美々香のお兄さんと同類ってことになるわね」
「・・・・・・いくら貸せばいい」