2020/11/07
851.
「友よ!」
「何?」
「・・・せーのっ」
「・・・・・・」
852.
「おい! なぜ何も言わない!」
「いや、何で付き合わなきゃいけないのよ」
「ゲン担ぎだよ!」
「知らないわよそんなの」
853.
「だいたい、何言うのかさえ知らないから無理よ。いつも合わせてるお兄さんの方が凄いのよ」
「それが、兄妹の絆が為せる業だ!」
「絆? 笑わせないで。どうせあなたはお兄さんのことを金借りる相手としか思ってないでしょう」
「困った時に金を貸し合うのが絆ってモンだろう!」
854.
「助け合いに絆があることは否定しないけど、あなたはお金のことしかないでしょう」
「当然だ! 人の絆は金によってのみ結ばれるのだからな!」
「・・・“絆”、で調べて見たら?」
「いいだろう!」
855.
「“人と人との断つことのできないつながり”、だな。ほらみろ! 金じゃないか!」
「どう解釈すればそうなるのよ」
「人が生きる上で、お金との関係は断ち切れない。つまり、それによってのみ、人と人との間にも“断つことのできないつながり”ができるのだ!」
「なんで“のみ”なのよ」
856.
「いいか、みずき。よく聞け。私が宿題を見せてくれと言ったとしよう。そこから絆を感じるか?」
「感じないわよ」
「そうだろう。私とて、感じない。仮に、みずきが宿題を見せてくれたとしてもな」
「なんでよ。感謝ぐらいしなさいよ」
857.
「何故ならば、最悪は宿題などしなくても問題ないからだ」
「あんたナメてんの?」
「ところがだ、金は違う。金は、生きるための糧であり、命だ。つまり、人が金を貸してくれる時、命を削ってくれている。ここにこそ、絆があるのだ」
「それただのカツアゲ理論だからね?」
858.
「そして何より重要なのが、金は、信頼できる相手にしか貸さないということだ。その信頼の証こそが、絆なのだ」
「じゃあ私があなたにお金を貸すことはなさそうね」
「何故だ!」
「逆に何で?」
859.
「そもそも、お金を貸してくれるようになるまでの信頼はどうやって得るのよ。お金以外で絆を深めた先に信頼があって、お金を貸してくれるのよ。違う?」
「違う!」
「何が?」
「もしそうなら、みずきが私に金を貸してくれないはずがない!」
860.
「とりあえずそのクルクルパーな頭をどうにかしてくれないと信頼なんてできないわよ」
「私たち、友達だろう!?」
「あなたからお金を借りたことがないから、あなたからは絆を感じないわ」
「くっ・・・! じゃあこうしよう! 必ず返す! 絆もセットで!」
861.
「色付けて返したいならお金を添えて。それが、あなたの言う“絆”なんでしょう?」
「この薄情者! 利子のどこに絆があるというんだ!」
「私にとって利益になる。その時初めて、あなたは私の人生でプラスになれるの。絆ってやつを感じちゃいそうね」
「いいから黙って貸せ!!」
862.
「ついに本性を現したわね。実際にお金を貸したところで絆を感じてくれるかさえ怪しいわ」
「その時は感じるさ! それだけは約束しよう!」
「どうしてそこまで言い切れるのよ。納得できる説明をしてくれるんでしょうね?」
「借りパクすれば利益になるからだ!!」