2020/10/24
809.
「ん・・・ここは・・・?」
【ようこそ、鏡の世界へ】
「な、なんだ! お前は・・・っ!」
【鏡の精霊、とでも言いましょうか】
810.
「わ、私の身に何が起きたんだ! 確か、鏡の中に取り込まれちまって」
【そうです。あなたは、次元の壁を打ち破り、魂を鏡へと移したのです】
「そんであの教師ヤローが砕きやが・・・って、今はいい! 戻れるのか、私は!」
【そうですね・・・方法が無いという訳ではありません】
811.
「お、教えてくれ! 元の世界、ついでに元の体に戻してくれ!」
【では、こちらへどうぞ】
「・・・で、これ、は・・・?」
【あなたの体です。鏡とあなたは運命共同体。鏡が砕かれると同時に、あなたの体も砕けてしまったのです】
812.
「ってことは、まさか・・・!」
【はい。こちらを修復することが、元に戻る唯一の手段となります】
「待て! こんな超フクザツな3次元パズル無理に決まって・・・」
【であれば、このままあなたも鏡の精霊として生きるのです。この世界で】
813.
「い・・・嫌だーーーー! 意地でも直すぞぉぉぉ!!」
【それでは、ご武運を】
「え、手伝ってくれないの?」
【なぜ手伝わなければならないのです? 失敗すれば新たに住人を取り込めるというのに】
814.
「おい! それでも精霊かよ!」
【はい、精霊です】
「ちっ、くそが。やりゃいいんだろやりゃあ」
【“くそ”?】
815.
「違いますー、何でもないですぅー。喜んでやらせていただきますぅー」
【そうですか。では頑張ってください】
「へいへい。・・・マジかこれ。何時間かかるか分かったモンじゃねぇぞ」
【安心してください。外での時間は止まってます。あなたが挫折する、その時までは】
816.
「なに挫折前提で話してんだ? この私に不可能があるってぇのかい? 精霊さんよぉ」
かちゃり。
「まず1個ぉ。わりと普通にくっつくんだな」
【細かいところはご都合主義ということで】
817.
「うっへー。骨とか筋肉っぽいのもあるぞ。グロいな」
【脂肪もありますよ? 都合上ガラス質に固まってますが】
「うえっ、地味に脂肪あんじゃん私。足の細さには自信があったのに」
【不摂生が過ぎるのでは?】
818.
「鏡の中でニートやってる精霊に言われたかないね」
【私の仕事は迷い込んで来た人間をこちらの世界に取り込むことですが?】
「あーいやー! 精霊さんマジ天使っすねぇ! 肩とか凝ってないですか? もみもみ~」
【ええい、離れてください。第一、精霊と天使は別物です】
819.
「ふいー、やっと首までできたな」
【脂肪は目立ちましたが、顔さえなければそこそこのプロポーションなのですね、あなた】
「あ? 私は世界で一番美しい顔のはずだが?」
【鏡を見てから言ってください】
820.
「見ながら言ったら答えるのか? “世界で一番美しいのはあなたです”って」
【顔がない状態で言って頂ければ、そう答えてもいいでしょう】
「顔がない状態でどうやって鏡見ろっちゅうんだよ」
【気合いで】
821.
「よっしゃできたー! なんか等身大フィギュアみたいだな。てか結構イケてんじゃね? 私」
【明らかに主観の強いコメントですね】
「所詮、美的センスなど人それぞれ。自分にとって世界一なら世界一なのさ」
【呆れました。鏡に映る姿よりも内面と向き合った方が良いのでは?】
822.
「フンっ。心の美しさでも自分が世界一に決まってるだろ?」
【その発言が出る時点で、美しい心の持ち主とは思えませんね。さあ、早く帰ってください】
「そりゃこっちのセリフだ。さっさと元の世界に返しやがれ」
【言われなくてもやりますよ。・・・そりゃっ】
823.
「ふっかーーーつ!」
「うわっ、美々香!? ビックリしたぁ~っ」
「ガラスみたいに砕けてまた戻るなんて、随分と手の込んだイタズラね。もっと有意義なことに活かしなさい」
「じゃあちょっくら家帰って自分を見つめ直して来るから、大して意義のない授業はサボるわ。じゃあな」
824.
がしっ。
「授業は受けなさい。あなたが自分を見つめ直したところで、“私こそが正義!”とかになるだけでしょう」
「その程度ならとっくに辿り着いてるさ。だが新たに、体脂肪と見つめ合わなきゃいけないことに気付いたんだ」
「その細身で何を言うの? 私も若い頃はねぇ・・・!」