2020/08/30
637.
「あーあ。兄のやつ、作者怒らせて消されちまったぞ」
「え、これって戻って来れるの?」
「だいじょぶダイジョブ。完全にいなくなったらキャラ減って作者の方が困ることにな…スゥッ」
「おい、美々香ちゃんまで消されたぞ」
638.
「これ、どうするの?」
「戻されるのを待つしかないだろ。俺らだけで“明星ズ”をやったところで作品が成り立つとは思えん」
「そうね。とりあえず花火の場所に移動しとく?」
「だな。どうせ俺らのいる所にあいつらも出て来るだろ」
639.
「ところで、作者ってどんな人なの?」
「さあな。詳しいことは俺も知らん。でも美々香ちゃんみたいなのを主人公にするぐらいだからなあ・・・」
「私の扱いが日に日にひどくなっていくのも気になってるんだけど」
「コメディ作品のサダメだ。諦めろ」
640.
「それにしたってもっと色々あるでしょ? どうせネタが思い付かないから私をイジって遊んでるだけなのよ」
「おいやめろ。お前まで消されたらマジでどうしようもなくなる」
「なんだか、全てを作者に支配されてるような気分ね・・・」
「まあ、実際そうだからな」
641.
「そんな訳で、俺らも身の振り方を考えねばならん」
「それ決めてるのも作者なんでしょ・・・」
「そこには、1つの戦いってやつがあるな。作者の都合に動かされて読者に“みずき兄は頭おかしい”とか言われるのは御免だからな」
「そうね。頭おかしいのは美々香だけで十分だものね」
642.
「でも、どうやって作者に対抗すればいいのかしら」
「そこは、まず先人に学ぶしかないな。実際、作者の思惑を無視して動くような奴もいる」
「ふっかーーーつ!」
「こんな風にな」
643.
「あら美々香、お帰り」
「全く。川の向こうで妖精さんが私を呼んでたぜ。作者の奴、相変わらずメタい真似しやがって」
「祭り関係のネタが意外と思い浮かばなかったのよ、きっと」
「前回“井戸にゃん”を持ち出してきたぐらいだからな」
644.
「兄の奴はまだか?」
「まだみたいね。花火に間に合うかしら。美々香の所にはいなかったの?」
「いなかったぜ? 別空間に飛ばされたんだろ」
「戻って来てくれないと困るわ。美々香の義姉になれなくなっちゃうし」
645.
「お前まだそれ言ってんのかよ」
「当たり前でしょ? 人類の悲願よ?」
「どんな悲願だよ。おい、兄からも言ってやれよ。あんな奴とくっついたってロクなことないって」
「そうだな。実際、アプローチをかける物好きがいて驚いているところだ。それが実の妹であるという事実にも」
646.
「よかったじゃないか。その“物好き”の親の顔が毎日のように拝めるぞ?」
「悲しくなるからやめてくれ」
「ちょっと2人とも、私がおかしいみたいに言うのはやめてよね。ていうかそろそろ兄さんも何らかのネタを背負うべきよ」
「俺は“本作品の良心”なんだ。そんなもんは背負えん」
647.
「何言ってんのよ。コメディにはサダメってやつがあるんでしょ?」
「全員がお前みたいな奴だったらとんでもないことになるだろうが。バランスが大事なんだよ」
「じゃあ私が“本作品の良心”になるから兄さんがネタを背負いなさいよ」
「やなこった。あんな不憫な目に遭ってたまるか」
648.
「私だって嫌よこんなの。作者さん、聞こえますか! 私のお願いを聞いてください!」
スゥッ。
「うおっ。・・・ふぅ、やっと戻って来れたか」
「よかったじゃないかみずき、願いが届いて涼太が戻って来たぞ」
649.
「ようやく全員戻って来たな。もうすぐ花火か?」
「だな。最後ぐらい普通に祭りを満喫しようぜ」
「で、定番の神社裏に来たって訳か」
「お前が消えてる間に移動しといたんだぞ? 感謝しろよ?」
650.
「あ、そうだ。花火始まる前にトイレ行っとこうっと」
「もうすぐっぽいから急げよー」
「わかってるって。私を誰だと思ってるんだよ。そんなヘマするかよ」
「一番しそうだろ。お前が」
651.
「あれ。スマホどっか行った。まさかどっかで落としたか?」
「はぁ? 何やってんのよ兄さん」
「スマン探して来る」
「珍しいな、崇の奴がスマホを落とすとは」
652.
「で、兄さんはともかく美々香まで戻って来ないわけね」
「崇は元々花火なんぞどうでもいいだろうが、美々香は何やってんだろうな」
「まぁいいじゃないですか、お兄さん。戻って来なければ2人で花火を見ればいいだけですし」
「あ・・・」
653.
(フフフフフ・・・何だか知らないけどラッキー♪)
(くっそ・・・あの2人、図りやがったな)
ヒューーーーン。 ドーーーーーン。
「あ、始まりましたよ」
654.
「どうだ? あの2人の様子は」
「フツーだな。涼太の奴は多分俺らが図ったことに気付いた」
「全く。みずきには感謝して欲しいものだぜ」
「面白半分ってやってる部分もあるけどな。だが、“本作品の良心”としては上出来だろう」
655.
「夏祭りたるもの、ちょっとぐらいはこういうイベントがあるべきってモンさ」
「この作品の属性を考えると進展することはないがな」
「それもまた一興ってモンよ」
「ま、ひと夏の思い出ぐらいにはなるだろう」
656.
「・・・美々香たち、本当に戻って来ませんね。お兄さん」
「面倒臭くなってその辺で見ることにしたんだろ。後で探すぞ」
「そうですね。今は放っておきましょう」
(あいつら、後でシメてやる)
657.
(フフフフフ♪ そうよ。いつもあんな目に遭ってるんだから、たまにはこういう日があってもいいじゃないの)
(花火、さっさと終わんねぇかな)
「「・・・・・・」」
ヒューーーーン。 ドーーーーーン。
658.
「終わりましたね。まずは美々香をさが…」
「いよっ! お2人さん、お待たせぃ!」
「スマホ、何とか見つかったぜ」
「あら美々香に・・・兄さんも? ちょっと美々香、まさかトイレ行くフリして兄さんと一緒に花火見てたんじゃないでしょうね。あなたが私の義姉になるなんて許…」
659.
「オイ待てみずき! 放せ!」
「あらごめんなさい。私としたことが、ついうっかり、ね」
「全く。はやとちりも大概にしろ」
「夏祭りでちょっと気分が高揚してるのよ、許してちょうだい」
660.
「よーし帰るぞー」
「そうね。もう十分に夏祭りを楽しめたし」
「やけに上機嫌だな、みずき。何かいいことでもあったのか?」
「ええ。美々香がトイレに行ってたお陰でとても有意義な時間を過ごせたわ。やっぱりあなたって、いなくなることで人を幸せにできるのね」
661.
「夏も終わりかー」
「まだめっちゃ暑いけどな。残暑どころの騒ぎじゃないぜ」
「だよなー。やってらんねーー」
「別にいいじゃないの。夜はまだマシな方だし、このムシムシ感も嫌いじゃないわよ?」
662.
「夏の終わりには! 歌いたくなる歌がある!」
「また唐突だな。しかもさっき暑くてやってられんとか言ってたのは誰だ」
「気にするな! 歌いたい時に歌いたいものを歌う、これがお祭りだ!」
「好きにしろ」