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2024/03/02

4965.


【♪♪♪♪・♪・♪・♪♪~♪~♪~】


「あ、オープニング始まった」


「いよいよここからがゲーム本番ですわね。心の準備はよろしいですか涼太さん?」


「何の心の準備がいるんだよ・・・」



4966..


【水平~線のそのさ~きに~~、強風~が~見え~て~き~た~】


【ここもす~ぐ~にシケそうね~~、しっかり備え~し~よ~~~う】


【小さなヒレで~、もがきな~が~ら~、荒波のその~先に行くな~んて~】


【穏やかな海~に、願いをこ~め~よ~~~~う】



4967.


【種族の~か~べ~を~乗り越え~~、生きる~君の瞳にキッス!】


【あ~し~た~は~朝凪~、君のそばに~笑顔がいつもあ~る~よ~~】


【“想い”は宝石! 恋せ~よサカナた~ち!】


【♪♪♪♪・♪・♪・♪♪~♪~♪・♪~♪・♪♪!】



4968.


「このゲームは俺に何を求めているんだ?」


「サカナだって想いはあるし恋をする。そんな当たり前なメッセージが込められてることぐらいお前なら分かるだろ?」


「正直言ってピンと来ないわね・・・」


「そんなことよりも、本編が再開しますわよ。意識をゲームに戻してくださいまし」



4969.


「「部活に入ったぁ!?」」


「あぁ。先生に言われてな」


<文芸部部長・笠井さんとの衝撃的な邂逅を無事じゃなく果たした後、待たせてた神原と桐葉と合流。遅くなってしまったので事情を説明した。笠井さんが読んでた本についてはもちろん言わないが>


「で、文芸部だっけ? ウチにもそんなのあったんだな」



4970.


「にしても相変わらず強引な先生だね~。文芸部に入って篠田に何をしろって?」


「とりあえず本を読めばいいってさ。これをきっかけに、人生に楽しみを見つけろとか何とかで」


「「あぁ~~~~」」


<え、そこハモるの。この反応だけでも、2人から見ても俺が人生を楽しもうとしてないことが分かる。実際、サバの俺に人生がどうとか言われても困るし、何それ美味しいのって感じだし>



4971.


「先生も心配して当然だわな。英介ってたまに死んだ魚の目ぇしてることあるし」


「おい俺は生きてる魚だぞ」


「それじゃダメに決まってるだろ! 人として生きろ人として」


「あはは! 篠田もそんなギャグ言うんだね~」



4972.


<ギャグじゃないんだよこれが・・・言っても信じてもらえないだろうけど>


「でも文芸部ってことは、女の子もいるんじゃないのか?」


「ちょっと神原ぁ、そんな下心なんてあったら追い出されるに決まってるでしょ」


「俺らが篠田をからかう分には自由だろ。下心のシの字もなさそうな篠田に春が来るなら万々歳じゃん」



4973.


「まぁ確かにねぇ。実際どうなの篠田? 顔出して来たんでしょ? 女子いた?」


「いた。というか同じクラスの笠井さんだった」


「「笠井さん!!?」」


<うん、そんな反応すると思ってた>



4974.


「ちょっと待て英介落ち着いて聞いてくれ。笠井さんってあの笠井さんか? 俺らと同じクラスの」


「そう言ったじゃん。その笠井さんだよ。お前が落ち着け神原」


「篠田、あんたついに、人生つまんなさ過ぎて妄想を繰り広げるようになったんだね・・・」


「妄想じゃねえから!」



4975.


「だって笠井さんと言えば、クラスいち、いや学年いちの美少女で、学校でも3本の指に入るというあの笠井さんだぞ? 同じ部活になるなんて有り得るか?」


「普通に有り得るだろ。笠井さんが何かしらの部活に入ってれば誰かは同じ部活に・・・いや部員1人だって言ってたからそうでもないのか」


「え、ちょっと待って篠田。ってことは、あんたが入ったことで部員は笠井さんと篠田の2人?」


「そう、だな。言われてみれば」



4976.


「えっと・・・職員室で先生に何かされた? 大丈夫? 催眠術とかされてない?」


「ないから! 事故の後遺症でもないからな! ちゃんとした記憶だからな!」


<俺だって夢であって欲しかったさ! 笠井さんがあんな本を読んでるなんて!>


「えぇぇ?? じゃあ今の状況をどう説明すればいいのさ」



4977.


「まぁ妄想でもイイじゃんゆかりちゃん。英介が女の子に興味を持ったんならそれで。というか英介、そんなに潤いが欲しいなら言ってくれれば女の子紹介してあげたのに」


「だから違うって言ってるだろ。ハァ・・・とにかく、部活に入ったのは本当だからこれからは付き合い悪くなるぞ」


「え、マジ? まぁ嘘ではないよね。寂しくなるなぁ」


「俺の方がもっとだよ。ゆかりちゃんがバイトの日は1人じゃん。女の子とデートも週に1回あるかないかだし」



4978.


「んじゃ今日はパーっと、篠田の快気祝い&部活デビュー祝いだね!」


「俺らの奢りだからな、遠慮せずに食えよ!」


「へいへい、ゴチになりまーす」


<笠井さんについてはまだ妄想と思われてるかも知れないけど、部活に入ったことは信じてもらえたみたいだ。まぁどっちとも、部室に来てもらえれば信じてもらえる話なんだけど>



4979.


<次の日、俺は学校に来るなりいつものように神原&桐葉と喋っていた。そこに、>


スゥッ。


<笠井さんが通りかかる。思わず目を向けると>


ギロリ。



4980.


<!!?? なんか凄い目で睨まれたんだけど! 怖い怖い怖い! 怒ってるような睨み方じゃなくて、“言ったら分かってますよね、篠田君?”って感じの、人質でも取ってるかのような睨み方だった!>


「・・・・・・」


<怖い怖い怖い怖い! 何か言って! 脅してきてもいいから何か言って!>


「・・・・・・」



4981.


(そうですよね篠田君は私なんかと違って仲の良いお友達ぐらいいますよね今ごろ私がヘンタイな本を読んでたことを話題にしても盛り上がってますよね終わりました終わりました終わりましたもう終わりました海に帰らなきゃ終わりました)


<そのまま笠井さんは何も言わずに通り過ぎて行った>


「「「・・・・・・」」」


<妙な空気を感じ取ったのか、神原も桐葉も口を止めて笠井さんを眺めていた>



4982.


「・・・あたし、昨日の篠田の話、信じてみようって思えたよ」


「うん。今のは明らかに英介の方を見てたよな。なんかあったのか?」


「なんかあったというかなんというか・・・。揉めたとかではないから安心して欲しい」


<それでも今日部活に行くのは気が重いけどね!>



4983.


<結局訪れてしまった放課後。行くしか、ないよなぁ・・・>


「で、篠田は部活なんだっけ? 笠井さん1人で教室出てっちゃったけど」


「マジで何をやらかしたんだよ英介。入部したてでこれって大丈夫か?」


「大丈夫じゃないけど、先生に言われてることだから逃げるって選択肢はないよ・・・」



4984.


「うわぁすっごい消極的な理由・・・」


「しょうがないだろ、こうなっちゃんだから」


「まぁ何にせよちゃんと謝れよ? でもってこれ以上は何もやらかすなよ?」


<あれは俺がやらかしたことになるのか・・・? いやぁ、人が読んでる本を見ちゃったのは悪かったけど、あんな本読んでるなんて想定してないし、あそこまで近づかなきゃ気付かなかったのは笠井さんだし、笠井さんに日付間違えて伝えてたのは先生だし・・・>



4985.


<2人と別れて部室に向かう。ドアの前まで来たけど、ハァ・・・なんで人間ってこんな面倒くさいんだろ。何も考えず周りの動きに合わせて泳いでただけの頃が懐かしい。人間になってまだ4日しか経ってないのに、すごく長く感じる>


「あれ? 文芸部に何か用事?」


<!!?>


「ひゃいっ?」



4986.


「お、驚かせちゃった? ごめんね? 声裏返っちゃってかわいっ♪」


<いきなり声を掛けられ振り返ったら、そこには1人の女子生徒。笠井さんは部屋の中にいるはずで他に部員もいないはずだからビビったけど、そりゃドアの前にずっと立ってたら変に思われるか。というかこの人・・・>


「生徒会長、さん・・・?」


「ピンポ~~ン♪ 覚えててくれたんだ~~」



4987.


「それはもちろん」


<集会とかで壇上に上がってるのよく見るし。それに、可愛いだの年上の魅力だのって神原がよく言ってくるからな>


「まぁ嬉しい。それで、文芸部に用があるの?」


「あ、えっと・・・」



4988.


<どうするかな・・・一応部員だけど入ったばっかだし笠井さんが認めてくれてるかは怪しいし・・・>


「あ、先輩わかっちゃった。用があるのは文芸部じゃなくて、笠井さん個人にでしょ? 可愛いもんね笠井さん」


「えっと・・・」


<いや~マジでどう説明しよう。部室のドアの前で突っ立ってずっと入らなかったってのも怪しさ満載だし>



4989.


「がってん♪ やっぱり恥ずかしくて入れないんだね? ここはお姉さんがひと肌脱いであげましょう。と言っても、私も文芸部に用があるだけんだけどね」


<そのままスタスタと、俺とドアの間に入った先輩はそのまま手をかけて>


「え、ちょっと、」


<ガラガラ、と躊躇することなくドアを開けてしまった>



4990.


「たのもー!」


<ついに開けちゃったよ・・・まあ用があって来てるんなら当然なんだけど>


「はい、こんにち・・・え゛」


<笠井さんが俺に気付いた!>



4991.


「えっと、穂照(ほでらし)先輩と、篠田、君・・・?」


<あーヤバい見られてる見られてる見られてる!>


(生徒会長・・・? あぁそうですね昨日私があんな本を読んでたことを生徒会長に言ってしまったのですね終わりです終わりです終わりました文芸部も廃部です部活と称してあんな本を読んでいたのですから当然ですよねでも図書室にあって学校として正式に置いていた本であぁそういうことですかあれは私のようなヘンタイを釣り上げるための罠だったんですねさすが人間は魚釣りが上手です終わりました終わりました終わりましたもう海にも帰れません煮るなり焼くなり揚げるなり生のまま醤油とワサビで終わりです私の人生今までありがとうございました)


<ヤバいヤバいなんか死んだ魚みたいな目ぇしてる! 俺が昨日のこと生徒会長に言ったんだと思ってるんだこの人!>



4992.


「ふぅん、篠田くんって言うんだ? 2人は知り合い? 学年は一緒みたいだし、同じクラスとか?」


「はい、まぁ」


<学年は、制服のネクタイの色で分かる。言うまでもなく、穂照先輩は1つ上の3年だ>


「だったら教室で話せばいいのに・・・あ♪ これはワケアリの予感♪」



4993.


「う・・・」


「それは・・・」


<あーダメだ。2人して目を逸らしてしまった。余計に怪しまれる>


「がってん♪ 何かあった2人のために、この穂照祥子、ふた肌もみ肌も脱いじゃいます♪」



4994.


「いや、何かあったという訳では・・・」


「えぇぇ? じゃあ何で2人ともそんなよそよそしいのぉ? その様子だと、何かあって謝りに来たんじゃないの篠田くん?」


「いや、謝りにというか、実は担任の今村先生に言われて文芸部に入りまして・・・」


「それで、事故で笠井さんを押し倒してしまって変なとこ触っちゃって謝りたいってことなんだよね?」



4995.


「違います違います! 違いますから!」


<そうだよね笠井さん!? 頼むから何か言って! 幸いにも、先輩も笠井さんの方を見た>


「どうなの笠井さん? 我慢せずに言わなきゃダメだよ? もし脅されててもお姉さんのパンツ、じゃなかったパンチで男子生徒の1人ぐらいは黙らせることができるんだから」


<先輩もそんなジョークぶっ込まないで!>



4996.


(え? え?? 篠田君昨日のこと生徒会長に言ったんじゃないんですか? なんでですか? まさか本当に脅すつもりでそうですよねそうですよね人間は年がら年中発情期ですもんね私だってそれに困ってますよでも脅されて仕方なくというのは何かが違くて本音を言えば恋愛小説のように心を通わせてからというか昨日の本はその時を迎えた時のための勉強というか毎日読んでる訳ではなくて週に3回ぐらいで・・・!)


「笠井さん・・・? 本当に、困ってるなら言ってね? お姉さんが力になってあげるから」


「あ、えっと違うんです! 篠田君に何かされたとかじゃなくてむしろ私が何かしてしまったというかそこを見られてしまったというか・・・」


「あ、なるほどぉ。つまり部室でお着替えしてたところに篠田くんがノックのせずに入って来て見られてしまったという訳だね?」



4997.


「「それも違います!」」


「あら、2人して大声出しちゃって・・・違うというのは本当みたいね。じゃあ何で2人はそんな気まずい雰囲気を演出してるの?」


「演出なんかじゃありませんから! 俺だって困ってるんですよ! 先生に言われて部活やんなきゃいけないのにこんなことになってしまって!」


「それを言うなら困ってるのは私もです! 先生に言われたとは言え新しく人が着たのにそれが男子でしかも昨日あんな本を読んでるところを見られてしまって今後私はどうやって部長として振る舞えばいいのか・・・!」



4998.


<おい!! 結局全部喋っちゃったよこの人!>


「ふっふ~~ん。なるほどぉ♪ どんな本だったかは気になるけど、笠井さんも見かけによらずムッツリさんなんだねぇ」


「っ~~~~~~~~!」


(何を言ってるんですか私のバカ! バカバカバカ大バカです! せっかく篠田君が黙っててくれたのに自分で言っちゃうなんてやっぱり私には魚並みの知能しかないんです終わりました終わりましたもう終わりました廃部です今までありがとうございました)



4999.


「あら顔を赤くしちゃって可愛い。でも篠田くんもダメだぞぉ? 女の子だってそういう気持ちになることはあるんだから、人が読んでる本を覗き込んだりしちゃあ」


「いや覗き込んでは・・・」


<声掛けても気付いたもらえなかったからって近付いたのは悪かったけど・・・あんなデカデカと生々しい絵で解説されてんだから目に入ったんだよ。俺だって見たくなかったよ・・・>


(もうダメです2人の中で私は“そういう人”になってしまいましたもう廃部するしかありません海に帰るしかありませんむしろこのまま人間として土に帰るのも視野に入れた方がいいのかも知れません終わりました)



5000.


「でも、新入部員が入ったなら良かったわ。今日の話もしやすくなるし」


「そういえば用があってここの部室に来たんでしたっけ」


「2人の甘々なムードですっかり忘れちゃってたけどね」


「「甘々なんかじゃありません!」」



5001.


「冗談はさておき本題だけど、笠井さん」


「はい」


「分かってるとは思うけど、このままだと文芸部の存続が怪しいわ」


「え・・・」



5002.


<えぇぇぇぇぇぇ! 入部したの途端に廃部の危機ぃぃぃぃぃぃ!!?>


(あーやっぱり先輩に昨日のこと話してたんですねそれでずっと私の反応を見て楽しんでたんですねそうでしょうそうでしょう人間なんて他者をおちょくって楽しむような下賤な生き物ですからねもうすっかり慣れましたよそれで私は海に帰ればいいんですか土に帰ればいいんですかははは・・・)


<笠井さん怖い! 怖い怖い怖い怖い目が怖い! 笑って笠井さん! お願いだから笑って! いや笑わないでそんな目をしたまま笑わないで怖いから! とにかく先輩に話を聞こう!>


「えっと、穂照先輩、今のはどういう・・・」



5003.


「入部したのなら篠田くんにも聞いてもらった方がいいわね。今のは言葉通りの意味で、ほら、文芸部って笠井さん1人だけでしょ? 去年までは上級生がいたんだけどみんな卒業しちゃったから・・・」


「ああ~・・・」


(またそうやって昨日の件をなかったことにして話を進めるんですね人間のやり口です典型的なやり口ですでも今回ばかりは私としてもいい建前が見つかりましたさすがに教師陣にも知られてしまったら将来に響きますからねでもその前に土に帰らないといけないんでしたもう終わってましたね私の人生)


<笠井さんが未だに怖いままなんだけど!>



5004.


「と、いう訳で2人には部員集めをしてもらいま~~す。期限は3週間♪ 月末までにあと2人、頑張って集めてね~。私も協力するから~」


「あれ、2人ですか? 確か部として認められるには5人必要だったと思うのですが」


<良かった! 笠井さんが戻って来た!>


「2人でいいよ~。4人になったら、最後の1人には私がなってあげるから~」



5005.


「いいんですか? そんな簡単に入部を決めてしまって」


<思わず、口を出してしまった。先輩が部員になってくれるなら俺としても都合がいいはずなのに>


「あ、もしかして心配してる? だぁいじょうぶ、篠田くんをたぶらかしたりなんてしないよ? 私は2人の仲の邪魔をするつもりなんてないから」


「「だから違います!!」」



5006.


「う~~ん、相性ピッタリだと思うんだけどなあ」


<これは、先輩以外で3人見つけた方が平和に過ごせるような気がしてきた。まさかそうやって焚きつけるために今の冗談を? 一応生徒会長だし、侮れない人なのかもしれない>


(よし2人ですねこの際穂照先輩にも入部してもらいましょう私の本性を知ってる人は近くにいた方が安心ですし・・・ちょっと待ってください“本性”って何ですかあれは私の本性という訳ではなく人間が年中発情動物なだけであって私はまだその体に慣れてないだけなのであって・・・)


<笠井さんから妙な決心みたいなのを感じる・・・とりあえずやる気になってるみたいだからいいけど>



5007.


「それじゃあよろしくね~。明日からビラ配りだよ~? 用意しといたから、明日の朝8時に校門に集合ね~」


<それで先輩はカバンに大量の紙があるのをチラリと見せて部室を出ていった。あれがビラか・・・この部のために用意してくれたのは嬉しんだけど、状況を楽しんでるだけかな、あれは>


「えっと・・・」


「・・・・・・」



5008.


<すごい、気まずい。なんか喋るか・・・>


「笠井さんは、本を読むのが、好き、なの・・・?」


「はいそうですこの体になってからあまりにも頻繁に発情してしまうので人間の生殖機能はどうなってるのか気になってしまって週に3回はあの本を読んでましたいえ“あの本”ではないですね“あのような本”ですね本当に図書館は資料が豊富ですでも決して篠田君が考えてるような普通の男の人が読む卑猥なだけの本なんかじゃないですよ正式に学校の図書館に置いてあるのですから教育用です教育用勉強するための本なんです」


<そんなこと聞いてねーーーーー!!>



5009.


「・・・・・・」


<まずい、また沈黙になってしまった。というか早口で聞き取れなかったけど“この体になってから”とか言ってなかったか? 気のせいだよな、気が動転してるみたいだし>


「き、昨日のことはいいから! 普段はどんな本読んでるの?」


「週に5日間の平日うち3日間をあのような本に費やしてるというのに残りの2日間を“普段”として扱ってくれるんですねそれに便乗させてもらうとして他の日は恋愛小説を読んでますもちろん篠田君も予想しての通りそういうシーンもありますよでも女の子向けですから男の子向けのように下品じゃなくてちゃんと胸にキュンとくるようなお話ですあぁ“胸にキュン”なんて気持ち悪いですよね1週間の6割を生殖機能の参考資料読んでるような変態が何言ってるんだって話ですよね」



5010.


<だから聞いてねーーーーー!! なんかもう開き直って聞いてもいないこと言ってくるんだけどこの人! いいじゃん“恋愛小説読んでる”だけでいいじゃん! そんなに俺が心の中で笠井さんのこと小馬鹿にしてると思ってるの!? それはそれでショックなんだけど!>


「・・・・・・」


「・・・・・・」


「言いましたよ全部言いましたよもういいですよね全部白状したんですから私生きててもいいですよねせっかく人間の体になれたのにこれで終わりなんてやっぱり嫌ですまだ海にも土にも帰る訳にはいきませんでも穴があったら入りたいですどうか私を井戸の中にぶち込んでくださいでも淡水では生きられないのでどうか海水でお願いします後生ですから」



5011.


「ストップストップストップ! 本当にもういいから! 気が動転して変なこと言ってるよ!? そのまんま鵜呑みにしたら笠井さん実は海水魚だけど人間の体になっちゃったってことになるから!」


<あれ? その境遇って・・・いやまさか>


「ほぇっ!? 私そんなこと言っちゃいましたか!? 何でもないです何でもないですそんなことある訳ないじゃないですか私はレッキとした人間です!」


<だよなぁ・・・そんなことあるはずがないよなぁ・・・>



5012.


「だいたい、考えてもみてください」


<また勝手に喋り出した!>


「おかしいじゃないですかいくら強く願ったからって魚が人間になれるなんてきっと神様のイタズラですそれに人間になってもあんまり良いことは無かったです人の陰口言って楽しむような種族ですし頻繁に発情するしセイジカは人からお金巻きあげることしか考えないしそれからそれから・・・」


「え、人間になることを願った・・・?」



5013.


「え゛、私そんなこと言っちゃいました!? 気のせいですきっと気のせいです篠田君はきっと昨日頭を強く打ったんですだから私が変な本を読んでたなんて記憶も持ってしまったんですきっとそうです」


「いや、頭は打ってないし昨日見たことはちゃんと現実だったよ・・・」


「うぅ~~・・・」


<待てよ? もし、笠井さんが言ってることが本当だとしたら・・・>



5014.


「笠井さん、俺にも実は、黙ってたことがあるんだ」


「昨日頭を打って幻覚を見てしまったことですよね?」


「違うから! 確かに目を疑ったけど・・・でもって俺の話も信じられないこととは思うけど、もし、今の笠井さんの話が本当なら、黙ってる訳にはいかないと思って・・・だから、聞いて欲しい」


<そして俺は、自分の身に起きたことを、笠井さんに話した>



5015.


「う、そ・・・」


「本当だよ。俺も、元々は魚だった。厳密に言うと、人間がいうところの“サバ”だった。笠井さんも、そうなんだよね?」


<コクリ、と笠井さんは首を縦に振った。純粋に、嬉しかったというか、安心した。まさか、自分以外にも魚から人間になってしまった人がいたなんて>


「ちなみに私も、サバでした」



5016.


「だから俺も分かるよ、俺はまだたったの4日間だから単なる発情期だと思ってたんだけど、人間は年中こうなんだね・・・」


「はい。本当に、困りものです・・・って何でそんな話振ってくるんですか! やっぱり私がそういう話が好きだと思ってるんですねそうなんですね実際興味津々ですけど何か文句ありますか?」


「文句はないし聞いてもいないこと言わなくていいから!」


「ハッ。っ~~~~~! 篠田君はサイテーです私に変なこと言わせて遊んでるんですやっぱり人間はロクな生き物じゃありません!」



5017.


「いや俺も人間じゃないから! 笠井さんが自滅してるだけだから!」


「だって私嘘つくの苦手なんですもんどうすればいいんですか!」


「何も言わなきゃいいだけだよ!」


「隠しごとだって苦手なんです何で人間はそんなに人を欺くことが得意なんですかもっと正直に生きたらどうなんですか何で正直者が馬鹿を見る仕組みになってるんですか!」



5018.


「そんなこと俺に言われても・・・! それよりも部員! 明日から頑張って集めないと!」


「そうですよ! 篠田君が発情がどうとか言うから話が逸れちゃったじゃないですか!」


「俺のせいなの!? それで困ってるのは同じだから安心していいって言ったつもりだったんだけど!?」


「そうやって安心させて私を自分のものにしようって言うんですね分かります恋愛小説でそういう悪役がたまに出て来ますから!」



5019.


「だから違・・・! いや、これ以上はやめよう。止まらない」


「本当ですよ。なんで人間ってこう、弁明しないと生きていけないんですか・・・」


「俺だって思ってるよ。というか笠井さん、さっきの話だと、笠井さんは自分から願って人間になったことになるけど・・・」


「え? 篠田君は違うんですか?」



5020.


「え?」


「え?」


「・・・・・・」


「・・・・・・」



5021.


「マジか・・・」


「それを言いたいのは私の方です。確かに篠田君の話だと、篠田君は気付けば人間になってたということでしたが・・・」


「うん。何も考えずに、“泳いでる”という意識すらないままに泳いでたはずんなんだけど、あるとき気が付いたら、って感じ」


「そう、なんですね・・・」



5022.


「笠井さんは、違うの?」


「はい、私は自ら願いました。人間の網に掛かってしまって、死んでしまいそうになったというのもありますが、元から、感じていたんです。何も考えずに周りの動きに合わせて泳ぐだけの、つまらない生活だなぁって」


「え・・・」


<あんなに楽なことはなかったのに、なんで・・・。サバの身でそれに疑問を持ったのなら、笠井さんは変わったサバだったのかも知れないな>



5023.


「ずっと、心のどこかで刺激を求めていました。何か、生きてて“もっと生きていたい”って思えるものがないのかって。でも周りのみんなは何の疑問も持たずに泳ぎ続けていて、ただ命を繋ぐためだけに生きてるんです。私だけが、こんな変なことを考えてたみたいで・・・」


「それで、みんなと一緒に人間の網に掛かっちゃったんだね」


「はい。そしてそこで、見てしまったんです。人間が楽しそうに、仲間たちを食べている姿を」


「あぁ・・・」



5024.


「それは、辛かっただろうね・・・」


<そう言うと、意外にも笠井さんは首をゆっくりと横に振った>


「それも確かに感じはしましたが、それよりも、自分が死にたくないという恐怖と、人間たちが楽しそうにしている姿への憧れの方が大きかったです」


「あこが、れ・・・?」



5025.


「やっぱり変ですよね。仲間の心配よりも自分のことなんて」


「そんなことはないよ。俺たちってそういう生き物だし、群れの中にも何となく一緒にいるだけで、仲間意識なんてなかった。でも、人間への憧れ、というのが気になって」


「だって彼らは、あんなにも楽しそうに表情を変えて、声を出して、体も全身を動かして、生きていたんですもの。無駄ばっかりだった。ただ単に生きるだけなら、そんなことをする必要はない。きっと食糧だって、魚を獲る必要もなくあるはずです。

 でも、彼らは海に出るんです。より、楽しく生きることを求めて。命を繋ぐ以上のものを、自分の人生に求めて。だから私は、願ったんです。このまま弱肉強食に負ける、いえ、人間の娯楽になるために死ぬなんて絶対に嫌だと。自分も人間になって、この人たちのように“生きる意味”を求めたいと。動けない網の中でそう願った時に、1匹の猫が現れたんです」


「猫?」


5026.


「猫て、あの・・・?」


「はい。ニャーと鳴く猫です。船で飼われてたんでしょうね。それも人間の娯楽の一種だと思います。やっぱり彼らには、生きることを楽しむ力と、それを実現できる知能があるんです。

 猫は私に言いました。“ここまで強い想いを持つ魚も珍しい。いいだろう。願いを叶えてやる”って」


「え? 猫が?」


「正確には、“願いを叶える手伝いをしてやる。後はお前次第だ”、でしたね。どちらにしてもおかしな話ですよね。猫にもそんな力はないはずなのに。人間になれたから“普通の猫”がどういったものか知ることができましたが」



5027.


「じゃあ、その猫が不思議な力を使って・・・?」


「はい。その後のことは、篠田君と同じです。私は10歳からのスタートでしたが、何故かそれより前の記憶も、10歳児としての最低限の知識だけは脳内に備わっていて」


「なるほど・・・」


「楽しいだけじゃなくて、むしろ他者に気を使わないといけない窮屈な場面ばかりが目立つ人間の風習ですけど、こうして同じ部活になったのも何かの縁です。よろしくお願いしますね、篠田君」

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