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2023/04/16

4373.


「そういえば満月君、あの話ほんと?」


「“あの話”ってなんだ」


「第3冷凍貯蔵施設に派遣されてたんでしょ?」


「おいバカ正式名称で呼ぶな。あそこは幹部ですら“冷凍収容所”の通称名で呼ぶし、俺たち労働者にとっては“冷凍庫”だ」



4374.


「いや正式名称が1番穏やかな呼び方じゃん・・・」


「穏やかだからこそ正式名称で呼んじゃいかん。あそこはそんな生易しい場所じゃないんだ。身も心も、そして人生すらも凍り付いてしまう、そんな場所なんだぞ」


「いや人生って・・・どんだけ辛かったのよそこでの生活」


「お前には分からない、絶対にな」



4375.


「ま、体験したいとは思わないし、あたしには縁のない話ね。だいたい、何やらかして冷凍収容所送りになったのよ」


「何から話せばいいものか・・・まず、俺はサバ令嬢を怒らせた」


「いやもうそれが全てでしょ」


「待て! 待ってくれ! これには止むに止まれぬ事情があってだな・・・!」



4376.


「事情? どうせしょうもないことなんでしょ?」


「しょうもなくなんかあるか! 俺は、俺は無実なんだ・・・!」


「じゃあどうやればお嬢様を怒らせるのよ?」


「お前、お前もあいつを“お嬢様”と呼ぶのか・・・!」



4377.


「当たり前でしょ? 社会人のキホンよ。それで、どうやって怒らせたのよ。参考にするから言ってみてよ」


「いいだろう・・・まず、信じられないかも知れないが、俺には、どうしようもないほどにクズな友達がいる」


「今そこで“信じられないかも知れないが”って前置きが出た方が信じれないんだけど」


「まあ聞け。とにかく、俺はその友人Tにそそのかされて、コンビニにクレームを付けに行ったんだ」



4378.


「だが! あろうことか! その友人Tは本来フォーソンに行くべきところを、悪意を持ってセブンティセブンだと俺に伝えたんだ! セブンティセブンにとっては理不尽でしかないクレームを、俺に言いに行かせるために!」


「なんかもう既にしょうもないオチな予感しかしないんだけど」


「そして更にあろうことか! セブンティセブンと世界サバ・フィル・ハーモニーの間で提携商品の話が出ている真っ最中だった! それを! 俺が理不尽なクレームを言いに行ったことでオジャンにしてしまったんだぁぁぁぁぁぁ!!」


「・・・・・・叫ぶほどのことでもなくない?」



4389.


「待て! 聞いてくれ! これは崇のヤツが悪いんだ!」


「友人Tの名前言っちゃってるよ?」


「罪人の名前を出して何が悪い!」


「未成年だと本物の犯罪やらかしても名前は出ないよ」



4390.


「とにかくだ! 俺は極悪人Tに騙されてセブンティセブンにクレームを付け、サバハーモニーの事業を1つ潰したんだ! 俺の、俺の何がいけなかったんだ・・・!!」


「いや今自分で言ったことでしょ。だいたい、何のクレームを付けに言ったのよ。その場でやったんじゃなくて、わざわざお店まで行ったんでしょ?」


「よくぞ聞いてくれた。これを聞けばお前も納得がいくだろう。俺が本来行くべきだったフォーソンの店員はな、肉まんにタレを付けたがってたんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


「何をもってあたしがそれで納得すると思ったの?」



4391.


「バカじゃないの? “本来行くべきだった”って何? 行き先間違えた以前に行かなきゃ良かっただけじゃん! バカなの? 冷凍庫で2週間過ごしてもまだ足りなかった?」


「お前ふざけんなよ! 人の肉まんへの情熱を何だと思ってるんだよ!」


「そのくだらない情熱を凍らせるための冷凍庫なんでしょ? やっぱり必要だったのねあの施設」


「お前冷凍庫を正当化すんなよ! 情熱を維持するの大変だったんだぞ! 俺の、俺の肉まんへの想いは間違ってなかったって、ずっとずっと、寒さに震えながら信じ続けたんだぞ! あそこでどれほどの情熱が、人の夢が、想いが、人生が氷点下に散ったと思ってるんだ!!」



4392.


「知らないわよそんなの。あーあ聞いて損した。どうせ収容されてた人みんなロクでもないことで暴走してやらかしただけでしょ? 死んだ魚の目ぇして単純作業をさせた方がマシね」


「死んだ魚の目などしていない! あそこにいた人はみな人間だった! 魂を持った、限りない、命の・・・人だった! そんな中で、共に、過酷な環境でもそれぞれの情熱を守りながら歩んだ仲間たちだ! 侮辱することは許さない! お前にアキラさんの何が分かる!!」


「分かるわけないでしょ名前すら今聞いたんだから」


「ぜぇ、はぁ、・・・そうだな。少し、熱くなりすぎたようだ」



4393.


「とにかく、極寒の冷凍庫にも情熱と魂を持った労働者がいたことは覚えていてほしい」


「過去形になってるけどいいの?」


「ああ。俺がいた頃の人たちはみんな、アキラさんでさえも、魂まで凍り付いた労働人形と化してしまったんだ・・・」


「やっぱりあたし、満月君もそうなるまで冷凍庫にいるべきだったと思うよ」

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