2023/01/07
4283.
「みずき、ほらよ」
「ん?」
パシッ。
「いきなり投げないでよ兄さん。 でも何? こんなの見たことない気がするんだけど」
4284.
「お袋の会社の試作品の乳酸菌飲料だ。感想が聞きたいんだとよ」
「だったら兄さんが飲めばいいじゃない」
「お前に託した。もしウマかったら全部飲んでいいからさ。5本ある」
「そんなにあるなら兄さんも飲みなさいよ」
4285.
「そこはほら、レディファーストってやつだ」
「いや毒見させる気マンマンでしょ」
「毒なんかある訳ないだろ。ちゃんとした会社が作ってるんだぞ」
「だったら尚のこと兄さんが飲むべきだと思うんだけど」
4286.
「お前なぁ・・・まだ世に出回ってない、しかも究極にウマいやつを全部飲む権利をやるって言ってるんだぞ。ここはお言葉に甘えて受け取れよな」
「これが究極に美味しいって保証がどこにあるの?」
「なに、飲めば分かる」
「飲んでからマズかったんじゃ遅いんだけど?」
4287.
「その時はほら、あれだ。良薬は口に苦しって言うだろ?」
「さっき究極に美味しいって言ったよね?」
「お前がマズかった時の心配ばっかりするからだろ。もっと自信を持てよ。これは、ウマい」
「自分で作ったものでもないのにどう自身を持てばいいのよ」
4288.
「今のはお前の中にある、兄を信じる心に自信を持てと言ったんだ」
「そんなの微塵もないんだけど?」
「じゃあお袋を信じるんだ。いつか世に送り出すであろう会社の試作品を、人の飲めない状態で我が子に味見させると思うか?」
「期限が1週間切れた牛乳も平然と飲めと言って来るような人よ? お母さんは」
4289.
「大丈夫だ。そいつはまだ期限切れじゃない」
「製品化されてない時点で何も保証されてないんだけど?」
「とにかく飲め。話はそれからだ」
「だから飲んでからじゃ遅いって言ってるでしょ?」
4290.
「参ったな・・・いずれにしろこの5本は消化しないとお袋にドヤされるぞ」
「じゃあ手分けして飲めばいいでしょ。ジャンケンで負けた人が3本ね」
「みずき、お前・・・究極にウマいかも知れない開発品を2本以上も兄に分けてくれる優しさを持ち合わせていたのか?」
「今“かも知れない”って言った? あと後半もふざけてるの?」
4291.
「じゃあこうしよう。ジャンケンで負けた方が先に1本飲んで、そいつが2本飲むか3本飲むか選べる」
「なるほど・・・それでいきましょう。先に飲む方がリスクを負うんだから、それぐらいのメリットは欲しいわね」
「ジャンケンで負けた奴にメリットを与えるなんて癪だが・・・そうでもしないとお前は納得しないだろう?」
「兄さんは自分が負けた時のリスクを減らしたかっただけじゃないの?」
4292.
「それじゃあいくぞみずき」
「いいわよ。じゃん、けん・・・」
ガチャリ。
「ただいまー」
4293.
「この声は・・・父さん・・・!」
「どうした2人とも。そんな2人で向かい合って。ケンカなら外で頼むよ」
「いや~見られちゃったな~。実は父さんに差入れがあってね」
「そうそう。どっちがお父さんに直接渡す栄誉を賜るか勝負しようとしてたのよ」
4294.
「そんなことを言って・・・どうせ負けた方が面倒な作業をするとかだったんじゃ?」
「まさかまさか! ほらほら、もう率先して渡してやるから」
「あっ兄さんズルい!」
「じゃあそういうことにしよう。ちょうど喉も乾いてたし、いただくよ。 ゴクリ・・・ん・・・ッ!?」
4295.
「あ゛・・・が・・・ッ! がぁ・・・・・・」
「父さん!?」
バタリ。
「・・・・・・みずき、普通の乳酸菌飲料を買って来い。俺らも一緒に飲むフリしてこの劇物をお袋に飲ませるぞ」




