2022/10/30
4018.
「・・・それで、野球の話をするばっかりにアイドル部メジャーデビューのいきさつを話さずに終わったのですか?」
「あぁそうだよ。悪いか?」
「悪いから言っているのです」
「悪かったよ」
4019.
「そもそもだな、みずきがアイドル部が野球部に勝ったなんて言うから話が逸れたんだぞ。せっかくの緊急告知にインパクトのある情報を付け足さすなよな」
「それほどのインパクトでもないでしょう。アイドル部が野球部に野球で勝つぐらい」
「お前その字面の違和感尋常じゃねぇからな?」
「アイドル部メジャーデビューの方がよっぽど違和感すごいわよ」
4020.
「いやいやいや、アイドル部メジャーデビューはまだ可能性としては存在しそうな話じゃん? それがだよ? 野球部に野球で勝つってなんだよ。勝負に乗った時点でおかしいけど」
「そりゃあ挑まれたら受けぐらいするでしょうよ。彼女たちはアイドルなんだから」
「で・す・か・ら! 話を逸らさないでくださいまし。コホン・・・それで、アメフト部にも勝ったというのは本当なんですの?」
「お前も話を逸らすんじゃねぇよ」
4021.
「改めて話を戻そう。アイドル部はなんと、メジャーデビューを達成した」
「やっと本題に入れるわね」
「誰のせいだと思ってんだよ」
「わたくしが来るまでずっと野球の話をしていたお2人のせいでしょう・・・」
4022.
「アイドル部がゲーム部の新作のオープニング曲を担当したことは覚えてるな?」
「あぁ、そんなこと言ってたわね。ライブもしてたわよね? ずっと前に」
「そうだ。で、そのゲームがすげぇ評判らしい」
「そういえば、ゲーム部はそれなりに知名度があると言っていましたわね」
4023.
「まず先に、ゲームの商用化が決まった。800円のインディーズゲームだがな」
「そっちはインディーズなのね・・・」
「そういうこともあるさ。だがゲーム部の連中も十分にすごいと言ってもいいだろう」
「余計に野球部やアメフト部の不甲斐なさが際立ちますわね・・・」
4024.
「でだ、そのゲームが1万本のヒットを出した。当然ながら1万人がアイドル部の“シンボルエンカウント”を聞くことになる訳だ」
「もしかして、それが人気になったの? それほどの曲でもなかったような気がするけど」
「バカだなみずき。他の人が歌うエンディングの方が神曲として話題になったんだ」
「バカと言われてもそこまでは推測できませんわよ・・・」
4025.
「でも、エンディングが人気になったからって何でオープニングの方までメジャーデビューしちゃうの?」
「エンディング曲には当然大手レーベルが目を付けた。しかし、ゲームとしての主題歌はあくまでオープニングの方。どんな気を使ったのかは知らんがオープニングの方も売ることにしたらしい」
「へえ。でも、そういう運も必要よね、アイドル部って」
「わたくしそれよりも、その素晴らしいとされるエンディング曲を持ってる人とのコネクションがあるゲーム部の方が気になりますわ」
4026.
「まあ、あいつら業界では知名度あるし歌い手の1人や2人ぐらい見つけられるんじゃね?」
「それでよくアイドル部なんて使ってくれたわね」
「ゲーム部全員に、お好みのアイドル部員と1日デート権プレゼントしたってさ」
「なんですのよその半分枕営業みたいなやりかた」
4027.
「安心しろよ枕なんて出番ないから。公園のベンチでお話ししてりゃあゲーム部の連中は満足してくれる」
「思いのほか安い人たちみたいね・・・」
「何言ってんだよ。連中にとってアイドルとの1日デートは何物にも代えがたいものだろうよ」
「そうは言っても同じ学校のアマチュア集団ですけれどね・・・」
4028.
「そういえば曲はどうしたんですの? アイドル部があのような曲を作るとは思えませんが」
「作詞作曲はゲーム部だってさ。歌唱とバックの演奏だけをアイドル部に頼んでる」
「手広いですわねゲーム部」
「それよりバックの格好いいギターやドラムもアイドル部なの?」
4029.
「当たり前だろ? それぐらいもできないアイドルなんて淘汰されるんだから」
「だって、ただでさえ野球もアメフトもできるのよ? それに加えて楽器もだなんて」
「みずきさんはアイドルを何だとお思いですの? 野球やアメフトに比べたら楽器の方がお茶の子さいさいに決まってますでしょう?」
「そうだったわね。アイドルだものね。音楽の方が専門よね」