2022/05/08
3048.
「兄よ!」
「妹よ!」
「・・・せーのっ」
「「ラストダンジョン!」」
3049.
「ラストダンジョンってさあ、ひたすら上ってくパターンとひたすら下ってくパターンあるけどどっちが良い?」
「そうだな・・・やっぱ、上ってく方かな」
「ぷふっ・・・浅はかな奴め」
「え、なんで俺笑われてるの?」
3050.
「ラストダンジョンが上りであることの魅力を行ってみろ」
「いや説明しろって言われても難しいんだが・・・まあ感覚的に、決戦の舞台に向かってるって感じがするじゃんか」
「その“感じ”を言葉にして欲しいんだが?」
「だから無理だって言ってるだろ」
3051.
「じゃあ仮に、ラストダンジョンが地下奥深くに向かうものだとしよう。そうなった時お前は、物足りなさを感じるか?」
「いやぶっちゃけ感じないと思う。移動がメンドいとかザコが鬱陶しいとかそっちの方に意識がいくだろう」
「じゃあ何で上りか下りかで優劣を着けようとするんだい?」
「お前が聞いてきたからだよ」
3052.
「何の話をしているんだ、2人とも」
「お、親父・・・! 仕事はどうした!」
「たまには家で過ごせる日もあるさ。それで、ラストダンジョンだって?」
「思いのほかこのネタに食い付いてきたな・・・」
3053.
「ラストダンジョンが上りか下りかで議論しているようだが、」
「議論ってほどでもないけどな」
「議論しているようだが、第3の選択肢、平地をひたすら前に進むというは無いのか?」
「え・・・いや、別に入れたきゃ入れてもいいけど」
3054.
「いいか、よく聞け2人とも。前進は、ロマンだ。ロマンとは、ロマンだ。ゲームである以上ロマンを追い求め、辿り着く先は前進でなければならない」
「あ、あぁ・・・」
「確かに美々香の言う通り、“ひたすら上る方が決戦の舞台に向かってる感じがして良い”というのは浅はかで、若い」
「う、うん。もう分かったからいいよ」
3055.
「ちなみに俺の好きなシチュエーションは、主人公の村が悪い奴らに乗っ取られてラストダンジョンになる展開」
「ウン、ソウダネ。モエルネ」
「そうだ。燃えるんだ。実際に、村の周りに火が放たれて、そこを突き進んで親玉の所を目指すんだ」
「フーーン」
3056.
「お前らはどうだ?」
「え? うーーん・・・兄はどうだ?」
「何で俺に振るんだよ」
「だって私よりゲームするだろ。てか私ラストダンジョンとか出るタイプのやんないし」
3057.
「美々香よ、なぜラストダンジョンに行かないんだ」
「だからそういうのやんないって言ってるだろ。さっきから人の話聞けよ」
「ラストダンジョンより重要な話があるのか?」
「ンなもんあるだろいくらでも」
3058.
「まあいい。涼太よ。お前はラストダンジョンはどうあるべきだと思う」
「はぁ? 知らねーよ。美々香、面倒だから調べてくれよ」
「調べるだぁ? えーっと、“ラストダンジョン どうあるべき”っと・・・」
「またお前たちは簡単にネットに頼る」
3059.
「えっと・・・よく分からんのだがマンガとかアニメのがヒットした」
「何? ゲームじゃないだと? 何故だ」
「いや私に聞かれても」
「あー・・・俺も調べたが、“ラストダンジョン”がタイトルに含まれるアニメがあるみたいだな。それが引っ掛かってるんだろう」
3060.
「マジか。じゃあ純粋にラストダンジョンについて調べるのは無理だな」
「さすがにそれでアニメに文句言うのはお門違いだが」
「お前たちはそれで満足なのか? 調べたいものを調べられない検索システムで」
「そこに文句言ってもどうしようもないしな・・・」
3061.
「俺も昔から思っていた。特に旅行サイトだな。ホテル自身の公式サイトなんて見つかりはしない。小さいとこはそこの対策をしないと見つけてもらうことさえできないんだぞ。で、旅行サイトに登録を余儀なくされるんだ」
「どんどん話がすり変わっていってるな・・・」
「俺ら何の話してたんだっけ」
「ラストダンジョン」
3062.
「しょうがない。話を統合しよう。ラストダンジョンが上りが良いか下りが良いかってのと、ホテルの話だな。そういえば何故か、ホテルってのは上りばっかりで地下に下ってくのはない」
「掘るの面倒だからな・・・あと、高く積み上げた方が存在感が出る」
「もっと大事なことがあるぞ2人とも。それは、窓からの景色だ。地下ではこれがなかろう?」
「なんか乗ってきたぞこの親父・・・まあ、さっきみたいな愚痴よりはいいか」
3063.
「出張サラリーマンにとって、大事なのは休憩場所。できれば景色のいい所でのんびり休みたいだろう?」
「でもクビなって零細に移ってからは出張のシュの字もないじゃん」
「それを言うな・・・」
「親父の人生のラストダンジョンは1階しかないプレハブみたいなオフィスになったな」




