2022/05/07
3037.
「よぅ田中ぁ。奇遇だな」
「服部なんですが」
「そうだったか? まぁどっちでも良いじゃねーか名前なんて」
「じゃああなたのことを明星さんと呼んでもいいんですね?」
3038.
「あ? お前ナメてんの? 私をあのロクでなしと一緒にするな?」
「名前なんてどうだって良いって言ったじゃないですか」
「田中よ、お前は何もわかっちゃいない。“どうだって良い”にも良いものと悪いものがあるんだよ」
「だから服部です」
3039.
「で? お前はご令嬢に代わってクレセントの散歩か?」
「ええ。お嬢様は今日どうしても外せない用事があるとかで」
「けっ、ご苦労なこったな。ご令嬢も、それに従う家来も」
「家来などという言い方はやめてもらえませんか? 」
3040.
「え、何? お嬢様のお役に立てることに喜びを感じる種族じゃないの?」
「そうですが、第三者から家来などと言われるのは腹が立ちますね」
「いや今のは否定して欲しかったんだが」
「今のどこに否定する要素あったのか教えて欲しいのですが」
3041.
「だがまあお前も可哀想だよな田中」
「服部です」
「ジョンやベンジャミンが令嬢に同行するなかお前は飼い猫のお守りだなんて」
「僕には蛮族からも護衛はできませんから。適材適所というものでしょう」
3042.
「自分の“適所”が猫の散歩なんて悲しくならないのか?」
「いいえ全然。大切なのは、何をするかではなく誰のためにするかですから。満月さんには分からないでしょうけど」
「あーはいはい美しいよ美しい。ところで田中お前ってさあ、令嬢のことが好きなの、サバのことが好きなの、どっちなの?」
「服部です」
3043.
「いいですか、満月さん。確かにお嬢様は魅力的ですが、サバに対する愛も忘れてはいけません。どちらが1番なんて決めきれるわけ無いじゃないですか」
「お前なんで人間と魚を天秤にかけてんの?」
「その魚がサバだからです」
「いや意味わかんねーよ」
3044.
「ですが、考えてもみてください。もし世界からサバがいなくなった時、きっとお嬢様は悲しみ、笑顔を見せることは無くなってしまうでしょう。そうなったら僕はサバと同時にお嬢様まで失ってしまうことになるんですよ!?」
「知らねーよ何いきなり熱くなってんだよ」
「僕の人生に関わるからですよ!」
「私の人生には関わらないんだよ」
3045.
「じゃあ逆に考えてみようぜ。サバがいなくなったら令嬢は別人になって戻らないかも知れない。しかし、令嬢が先にいなくなったとしてもサバは無くならない。つまり! サバか令嬢のどちらかを失うとなった時、サバを捨てたら令嬢も終わる一方で、令嬢だけを捨ててもサバは残る! つまり!! 令嬢よりもサバの方が大事!!」
「な・・・っ!?」
「胸を張れ! お前は! 誰よりもサバを守って生きるんだ! もし令嬢がいなくなっても! その先で、お前はサバを愛し続けるんだ!!」
「あ、ぼ・・・ぼく、には・・・でき、ない・・・・・・」
3046.
「何故だ! お前のサバ愛はその程度だったのか!? 田中じゃなくて服部なんだろう!? 服部ならサバを愛せるはずだろう!!?」
「やっぱり、僕には、お嬢様のいない世界でサバを愛することはできません・・・サバを愛するお嬢様を、ずっと近くで見ていたいから・・・」
「なんて、奴だ・・・。お前は結局、サバが好きなんじゃなくて、サバに魅入られている令嬢が好きなんだな。その対象がサバである必要なんてなく、何かの虜になっている令嬢がいばいいと。見損なったぞ」
「ち、違う・・・! サバであることも、2番目ぐらいには大事なんです!」
3047.
「考えてみてください。例えば、アジを愛する絶世の美少女がいたとして、あなたはその人を愛せますか?」
「無理に決まってんだろ」
「でしょう? だからこそ、アジじゃなくてサバであることに意味はあるんですよ」
「アジでもサバでも無理っちゅう話なんだよもう帰っていいか?」




