2022/03/26
2857.
「へっ・・・へっ・・・ぶえっくしょい!」
「美々香さん。あなた曲がりなりにも花も恥じらう乙女なのですから、もう少し乙女らしくできませんこと?」
「じゃあお手本を見せてくれよ」
「いいでしょう。はっ・・・はっ・・・にゃふん!」
2858.
「・・・あーさみ。もう3月も終わるっちゅーのに雪降るなんて何考えてんだよ大空のヤツ」
「別に何も考えてませんでしょう自然なのですから。あとサラッとくしゃみの話を流さないでください」
「確かに自然ってのは何が起こるか分からんな。天気は天の気まぐれ、とはよく言ったもんだ」
「あの、ですから・・・ね?」
2859.
「まぁサバ令嬢のお陰で我が部室にもエアコンがある。我が家のオンボロみたいにムラも出ないから快適だぜ」
「あんなオンオフしかないようなのどうかしてますわよ。エアコンのせいで短周期で寒暖差が発生してましたでしょう。・・・にゃふん!」
「あとすげーカビくさいよな。何年手入れしなかったらあんな体に悪そうな暖気出せるんだろ」
「そう思うならご自分で手入れを・・・にゃふん! お陰様でこちらはアレルギーが・・・・・・にゃふん!!」
2860.
「あーはいはいクシャミ可愛いよクシャミ。だからもうそんなのでイメージアップ図らなくていいぞ。恥じらいなんぞ捨てろ」
「こちらだって止めたいですわよ。美々香さんがお手本なんてさせるからまた出てきたのではないですか責任取ってください」
「知るかよお手本なんて応じなきゃ良かっただけだろ常識的に考えて」
「あんな言い方をされては対抗意識を燃やしてしまうではないですか常識的に考えて」
2861.
「そもそも、あんなカビの舞う空間にこのわたくしを招くなんてどういう了見ですの?」
「それこそ知るかよテメーが勝手に来たんだろうが」
「エアコンのカビを放置しているとは思わないでしょう常識的ににゃふん!」
「庶民を甘く見過ぎだ。あれくらいカビならしょっちゅう浴びてるぜ?」
2862.
「ご令嬢とやらはキレイな空間で生き過ぎなんだよ。人間という生物そのものが汚いんだから少しは免疫を着けたらどうだ」
「何を仰います。人間は清潔に生きる術を持っているのですから活用すべきなのです。それをあなたという人は」
「ハンッ。上流階級がなんか吠えてるな。庶民の暮らしを体験しにこっちの世界に来たんだろ? 味わえて良かったじゃないかにゃふん!」
「真似しないでくださいまし!」
2863.
「何だよ花も恥じらう乙女のクシャミはこうなんだろ? ニャンニャン言ってるだけで乙女になれるんなら安いもんだニャ~」
「くっ・・・美々香さんがやると相手を馬鹿にしてるように見えますわね・・・」
「実際に馬鹿にしてるからそれで合ってるぜ」
「これほど“馬鹿にしてるんですか”と言いたくなることも無いですね」
2864.
「お前なあ、どうせ上流階級でも人の悪意ぐらいしょっちゅう見るだろ? 似たようなもんだろ」
「全然違いますわよ。庶民は悪意の質まで気品に欠けますわ」
「悪意に気品もへったくれもないだろ」
「ありますわよ。泥をいかに黄金に見せるかが手腕の問われるところなのです」
2865.
「泥を黄金に見せようって魂胆がドロドロだって気付こうな」
「泥を直接投げつけるなんて真似、わたくしにはできませんもの」
「けっ、体裁とりつくろってるだけじゃねーか結局」
「その体裁が何よりも大切なのです。一族の看板を背負っているのですから」
2866.
「一族の名に泥を塗る訳には行かないという思い、ロクでなし家系の美々香さんには分からないでしょうけど」
「お前サラッと人んち丸ごとディスるよな。まぁ否定しないが裏でカネ回しまくってる連中に言われたかないね。いっそテメーらの行いを全て暴露してやろうか?」
「そんなことをしても揉み消しますしあなた生きたまま東京湾の干潟に埋められてしまいますわよ?」
「人のことは平気で泥まみれにするのかよ」




