2022/03/20
2844.
「春風。それは、花粉とともにやってくる」
「逆だろ。花粉が春風とともにやってくるんだ」
「いいや、影響力の大きさから言って花粉の方がメインだね」
「それは一部の人間だけだろ・・・まぁ俺もそうなんだが」
2845.
「春に吹く風。だから春風と呼ぶようになったと思わないか?」
「だったらどうした」
「みずき兄んとこに行くぞ」
「よし乗った」
2846.
「と、いうワケで来てやったぞみずき兄」
「何の用だ? みずきなら出掛けてるけど」
「用事? それは春風のように意味のないものだ」
「少なくとも、ここにお前らが来たことの方が意味ないぞ」
2847.
「じゃあ意味を見出したいから野球しようぜ」
「こんな花粉飛び交う季節にか?」
「おっと私としたことが自殺行為だったぜ。なんかゲーム貸してくれよ」
「そうだな・・・これはどうだ? “薄情物語”」
2848.
「なんだよその情のカケラもなさそうなタイトルは」
「名の通り、薄情を貫き通すゲームだ。具体的には、何かとプレゼントを寄越したがる村人たちからの友好の証を断り続ける」
「何だよそれ楽しそうじゃねぇかよ」
「美々香は本気でそう思ったのか?」
2849.
「薄情物語、やってやろうじゃねぇか。兄は兄同士レースか格ゲーでもやってろよ」
「いいや、みずきさえ投げ出したそのゲームを美々香ちゃんがどこまでできるか見届けさせてもらおう」
「あいつ投げ出したのかよ。村人に冷たく当たるのが耐えられなかったとか? けっ、乙女ぶりやがって」
「残念な妹持つ兄のキャラがいなかったから飽きたんだと」
2850.
「残念な妹持つ兄? そんなの自身の兄を見りゃ一発だろみずきの場合」
「お前もだぞ美々香」
「私の場合、兄の方も残念だから当てはまらないんだなこれが」
「よく言った妹よ」
2851.
「てなワケで“薄情物語”スタートだな」
<ひょんなことから、遠い田舎の限界集落に飛ばされたあなた>
「いきなりなんて始まり方をするんだ」
「大都会の高級タワマンなんかじゃ紡げない物語があるだろ?」
2852.
<君を入れて30人もいない小さな村だけど、これからよろしく頼むよ>
「マジかよしかも年寄りばっかりなんだろマジで限界集落じゃん」
「それは心配には及ばない。“薄情物語”はド田舎の割に人口の半数は若者だ」
「それはそれでどんな村なんだよ・・・」
2853.
<村長が引っ越しの記念にワインをくれるそうです。受け取りますか?>
「なんでワインなんだよ未成年って設定じゃねぇのかよ」
「年齢の設定ないけどこれバッドエンドルートは結婚して子供も生まれるからな」
「なんでそれがバッドエンドなんだよ」
2854.
「薄情物語を甘くみてはいけない。ちょっとでも隙を見せるとすぐに籠絡されて釣り大会だの音楽祭だのに付き合わされるぞ?」
「やってみれば分かるが、それ、マジで村人全員で釣りをする日とかあるからな。結構シュールだぞ」
「洗脳されないようにプレゼントを拒否し続けろってことか」
「そして自分だけの城を村の中に築き上げることがそのゲームのゴールだ」
2855.
<こんにちは! 隣に住むアンです。もし今日お暇でしたら一緒にアルバイトでもどうですか?>
「なんでいきなりバイトに誘ってくるんだよこの女」
「村人は誰も彼も主人公を仲間に引きずり込もうとしてくるぞ。村人同士の仲はいいが当然みんな自分の職場に来てほしいと思っている」
「まぁでも結構可愛いからいいや行ってやろう」
2856.
「そいつはやめといた方がいいぞ美々香ちゃん。レストランのバイトなのに絶望的に料理が不味くて“練習”の名目で毎日食わされて最終的に入院してそれでも“お見舞い”の名目で食わされ続けて病死するバッドエンドだ」
「ふざけんなよ見掛けに反しておっかなさすぎるだろコイツ」
「不自然にイケメン美少女揃いだが仲良くなったら誰が相手でもバッドエンドだぞ?」
「ちなみに、全ての情を捨ててゲームそのものと別れを告げるのが一番の攻略法らしいからな、“薄情物語”」