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2022/03/12

2798.


「そういえば親父は?」


「仕事に決まってるだろ。いま何月だと思ってるんだ」


「満月」


「帰れ」



2799.


「いや帰るも何も私の家なんだが」


「と、その気になっていた姿はお笑いだったぜ」


「ハンっ。実は血が繋がってないとかか? だったらここの子じゃないのはそっちかも知れないぜ?」


「残念ながら2人ともウチの子だよ」



2800.


「よぅ母さん。親父が零細に移ってまで土日に働かされてるのに呑気に娘たちの相手とは良いご身分だな」


「そっちこそ学生の分際で何言ってるんだい。暇なら勉強でもするんだね。土日に勉強してたら将来父さんみたいにならずに済むかも知れないよ」


「思えばさ、宿題って実質残業だよね」


「心配すんなよ美々香。授業は50分×6×5日間で計25時間。週40時間を基準にすれば15時間までは残業にならない」



2801.


「それは1週間分の宿題が15時間で片付けばの話だろ? 私には無理なんだなそれが」


「残念ながら無能ゆえに時間が掛かってる分に残業代は出ないぞ」


「出せ」


「出ない。そもそも俺が決めることじゃない」



2802.


「何言ってんだいアンタたち。子供はお金払って勉強させてもらってるんだよ」


「別にいいぜしてくれなくても? 教育から金を取ろうって魂胆が間違ってる。国民に賢くなって欲しいなら“みんな勉強してください”って頼むもんだろ? 教えてやってるって気でいるならノーセンキューだぜ」


「いいのかいそれで日本が外国人に乗っ取られても」


「ンなもん今更変わるかよ。既に大手の雇われ幹部なんて外国人だらけじゃん」



2803.


「所詮私たちは、世の中を動かしてる連中の使いっパシリでしかない。どうせ親父も大手の親会社にいた頃から土日も働いてたんだろ? 下請けやってる零細が土日もやってんだ。そうでなきゃおかしい」


「給料には雲泥の差があるよ。それに、下請けに注文だけして自分は土日休みなんてマネするのも居るよ」


「私がその身分になるのは無理だ。なれたとして、所詮は上のお告げに従って働かねばならない。だったら毎晩オッサンにお酌でもしてた方がマシだね」


「そんなんで生活できるのは若いうちだけだよ」



2804.


「全く。オバサンになってから後悔しても知らないよ」


「分かってるさ。大人の言ってることは割と正しかったりする。世の中そんなもんなんだろう。だが、大人の言ってることが正しいという事実そのものは、間違ってると思うね。“そんなもん”な世の中の方がおかしいのさ」


「それこそ言ってる大人たちだって分かってるよ。もしアンタが土日休みの高給取りになれたって、誰かが薄給で道路の交通整理をすることになるよ」


「だから出来の悪い私が率先してそこに行こうって言ってんだ。私みたいなのがエリートの職場に行っても迷惑なだけだろ? 運良くどっかの社長が嫁にもらってくれるよう頑張るがね」


「そんなのを頑張るなら勉強も頑張って欲しいもんだね」



2805.


「自分こそ専業主婦のクセによく言うぜ。そもそも私らにこの生き方を強いてるのは他でもない世の中だろ? “そんなもん”な世の中に合ってるんだからいいじゃんかよ」


「そう思うのは美々香の自由だけど世の中ってやつは変わらないよ。今のままで都合がいい人がいるんだから。アンタら現代人がそれに乗るのをやめないと」


「全員がか? 無理だね。カネになる手段が用意されている以上、それを選ぶ奴は必ず現れる。何故なら、人間という生物は一定確率でそういう思考になる個体が誕生するからだ」


「実際にアンタがそうみたいだしね」



2806.


「人間ってのは色々と理想を掲げちゃいるが、どれも理想に過ぎないのさ。人間という生物の精神構造では実現不可能なことばかりだ。1人1人が意識すればできる? 笑わせるな」


「ホントにどうしてこういうのが産まれちまうんだろうね」


「それが人間という生き物だからだ。理想の実現を阻害する個体の誕生確率は突然変異というレベルを超えてるぜ? あまりにも多過ぎる」


「それでもアンタみたいなのは1万人に1人もいないだろうに」



2807.


「おいおい、そっちこそ頭大丈夫か? 1万人に1人って日本だけで1万人存在することになるんだぞ。累計で1万じゃなくて、常に1万人いる状態が続くんだ。特に、誰でも簡単に爆破予告程度ならできるこの現代、理想なんて成り立たねぇよ」


「自分がその1万に入ってることを恥じてもらいたいもんだね」


「恥じるぐらいならその1万に入ってねぇよ。第一、オッサンに取り入って金稼ごうとする奴なんて1万じゃ済まない。借りた金返さない奴もな」


「せめてその両方に当てはまるのは1万人に1人であって欲しいね」



2808.


「とにかく私は私の好きにさせてもらうぜ? 頭悪い奴が止む無く選ぶ生き方みたいな扱いもされるが、一概にそうでもないさ。需要がある。資本主義社会に生きる身としてそれに応えてるだけだ」


「トシと共に自分の価値が目減りすることも忘れちゃいけないよ」


「だから勉強なんぞに時間使わずに美容と健康に努めてるのさ。自分の価値が高い時期に一生分稼げるようにな」


「そのゲームが美容と健康のためになるのかい。現代ってのは凄いもんだね」

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