2022/02/13
2735.
「ちーっす。ほらよ、みずき兄。どうせ誰からももらってないであろうお前に私からのバレンタインプレゼントだ」
「残念だったな美々香ちゃん。隣の席にあげるタイプの女子からもらってるから2個目だ」
「自分で言ってて悲しくならないのか?」
「なったら負けだ」
2736.
「んで? 我が兄は恥ずかしながらゼロか。私は兄にやるようなタイプじゃないし、せっかく本命を用意するみずきのも受け取らないからな」
「当然だ。俺はチョコ1つのために人生を棒に振る気はない」
「チョコ1つで人生どうにかはならんだろ」
「なるんだよそれが。一瞬でも隙を見せたら負けだと思え」
2737.
「それで、みずきさんは大層な袋を持ち続けたままになってるんですのね」
「もういっそ私らみんなで食おうぜ。味については去年兄の代理で食った私が保証してやる」
「さすがに個人のために用意されたものを頂くのは気が引けるんですけれど」
「少しでもお兄さんに食べてもらえるのであれば私はそれでも構わないわ」
2738.
「心配しなくても肝心の兄が食うとは思えない」
「じゃあどうしろと?」
「本人に聞けよ目の前にいるんだから」
「そうだな・・・崇妹の何よりも問題は崇の存在そのものだ。こいつさえいなければ考えないことはなかった」
2739.
「なるほど、つまり兄さんさえいなければ・・・ふふふ・・・」
「やめろ。こんな形で包丁片手に笑う妹なんて見たことないぞ」
「というか何でこの部室包丁あんだよ」
「サバをオロすためですわ。サバ部なのですから当然でしょう?」
2740.
「ということで、わたくしからはサバ形のチョコレートですわ。サバのエキスを配合させるのは無理だと、当社30年の開発実績が証明しましたので」
「ホント何で30年もかかったんだよ・・・」
「形だけではなく、少しだけでもサバの一部を取り入れたい・・・そういう想いが呼んだ30年なのです」
「執念だけは見上げたものだよな、こいつら」
2741.
「で? 肝心のサバ形チョコは一般にウケてんのか?」
「ウケてんじゃないのか? 普通にその辺のチョコよりウマいぞこれ」
「当然ですわよ。当社選りすぐりのサバ専門パティシエに作らせておりますから」
「まるでチョコ以外のスイーツにはサバを使ってるようなネーミングだな・・・」
2742.
「しっかし結局美々香ちゃんたちも、色気のイの字もないバレンタインを過ごすことになったな」
「私はそうでもないさ。本命を渡す勇気がない子猫ちゃんから預かる時に、恋する乙女の表情を拝むことができたからな」
「マジでやったのかよそれ。今度はちゃんと渡したんだろうな預かったチョコ」
「普通に彼女いたからさっきみずき兄にやった。もう食っちっまったなァ? 一緒に子猫ちゃんに謝りに行こうぜ?」




