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2021/12/26

2545.


「涼太」


「何だよ親父。部屋まで来るなんて珍しいな」


「これをやろう」


「・・・は?」



2546.


「おい何だこのカレンダー、ほぼグラビア写真集じゃねぇか。しかも下着だし」


「会社でお得意先にもらったんだ。お前にやる」


「いやこんなん配って回る営業がいんのかよ」


「いるからそれがここにある」



2547.


「マジかよ・・・親父の新しい会社もオッサンばっかりなのか?」


「いやそれなりに女性社員もいるぞ。ちょっと前なら問題になってただろうが・・・もはやそれを通り越して世間話のネタと化している」


「風物詩にしてんじゃねぇよ・・・」


「そういう訳だからお前にやる」



2548.


「いや何で持って帰って来たんだよ。妻帯者が」


「どれほどの数をもらったと思っている。独身の若手全員に配っても余ったんだ」


「じゃあもう捨てろこんなもん。扱いに困るだろうが」


「お得意先からもらった物を会社のゴミ箱に捨てるだと? 旧態依然の会社を舐めるな」



2549.


「無論、こんなものが見つかれば母さんに何を言われるか分からないからお前がもらってくれ」


「ふざけんなこっちも美々香と同じ部屋なんだぞ」


「あいつは気にせんだろう」


「気にするとか気にしないとかの問題じゃないだろ。何が楽しくて下着グラビアのカレンダー飾ってる部屋で妹と過ごさなきゃいけないんだよ」



2550.


「だいたいこれ誰なんだよ。知らねえ奴ばっかだぞ」


「駆け出しのモデルたちだ。気に入ったのがいたら金も落としてやってくれ」


「何でだよもうこのカレンダーで十分だろ。どうせこの会社が大量注文して至るところに配ったんだろ?」


「それだけでこの子らが生計を立てられると思うか?」



2551.


「知るかよ。受け取る方の身にもなれよ。扱いに困るだろこんなん」


「見える場所に飾るのが嫌なら布団の下にでも敷いておけばいいだろう。良い夢が見れるかも知れないぞ」


「こんなん下に敷いて寝るとか何の罰ゲームだよ。てかこの部屋に置いてても母さんたまに掃除に来るからな」


「とにかくそいつはお前がどうにかするんだ。母さんを怒らせたくなかったらな」



2552.


「と、いうワケだ崇。こいつをお前にやる。喜べ」


「お前ふざけんなよ急に呼び出したと思ったらそんなもん持ち歩くなよ」


「しょうがないだろ持ち歩かなきゃ家の外には出せないんだから。学校じゃないだけマシだと思えよ」


「だからって図書館に持って来る奴があるか」



2553.


「どうせ持ち歩いたんならどっかで捨ててくれば良かっただろ」


「こんなもん公共のゴミ箱に捨てられるか。それに、お前なら喜んで受け取ると思ったんだ」


「お前ふざけんなよ人を何だと思ってんだよ」


「健全な男子高校生」



2554.


「いいから受け取れ。美々香がいるからこっちには飾れん」


「ふざけんなよウチにも妹いるの知ってるだろ」


「何言ってんだよお前ら部屋別々じゃんかよ」


「親がたまに掃除するのはこっちも同じだ」



2555.


「じゃあどうすんだよこれ。もう家には持って帰れんぞ」


「とにかく図書館は出るぞ。さっきから職員がチラチラとこっち見てやがる」


「実はこれ欲しがってんじゃね?」


「お前マジで見捨てるからな?」



2556.


「ったく、面倒なことに巻き込みやがって」


「まさかの時の友こそ真の友って言うじゃねえか」


「こんなものを抱えさせられるぐらいなら縁を切った方がマシだ」


「こっちは切りたくても切れない親父から押し付けられたんだ。手伝え」



2557.


「普通に考えて誰かにやるしかない。誰を呼ぶか?」


「いや誰もこんなん要らんだろ。高校にもなりゃ大抵のやつはスマホに入ってる」


「中学生の知り合いはいないのか?」


「小中学生に押し付けようもんなら俺たちがドヤされるだろうが」



2558.


「じゃあ大学生にするか。1人暮らしなら親もいないし最悪でも処分はしてくれるだろ」


「で、大学生の知り合いはいるのか?」


「前いた社宅の前のアパートで隣だった高橋。大学生じゃなくて浪人だがな」


「1人暮らしでもなかっただろ。大体あのアパート全壊したから社宅に移ったんじゃなかったのか?」



2559.


「おっとそうだったな。じゃあもうアテがない。どっかの大学に乗り込んで彼女いなさそうな奴に渡すか?」


「いきなりカレンダー渡されて受け取る奴がいると思うか?」


「だよな・・・丸まってるから広げない限りは大丈夫だが、いかんせんデカいから邪魔だ」


「全てが破綻してるな・・・」



2560.


「いっそ学校のゴミ箱に捨てよう」


「これ以上ない悪い選択肢を出すな」


「でも校務員のおじさんが受け取ってくれるかも知れないだろ?」


「それで俺らの顔覚えられるのは御免なんだが」



2561.


「くそ、解が見つからないな。いっそ落とし物ってことにして交番に持ってくか?」


「それも悪手に決まってるだろ。楽しむだけ楽しんで処分に困ったと思われるのが関の山だ。そもそも、落ちてたにしては綺麗すぎる」


「じゃあちょっと汚すか」


「いくらなんでも下着のお姉さんが映ってるものを汚すのは気が引けるんだが」



2562.


「じゃあどうすんだよ。燃やすか?」


「煙なんか起こして通報されたらどうすんだよ。最悪学校に呼び出されるぞ」


「だよなぁ・・・よし、フリマに出そう」


「だな。確か今日公園でやってただろ」



2563.


「よってらっしゃい見てらっしゃい。カレンダーでーす。中身は開いてみてのお楽しみ。300円ぽっきりでーす」


「それ、丸まってるんですけど何のカレンダーですかー?」


「女の人は見ない方がいいです」


「あ、あー・・・頑張って処分してくださーい」



2564.


「すげーな今の人たち。俺らが置かれてる状況を一瞬で理解したぞ」


「いやどう考えても“楽しむだけ楽しんで処分に困ってる”と思われてるに決まってるだろ」


「じゃあいっそのこと楽しむか?」


「もうお前それ持って帰れよ」



2565.


「お、カレンダーだ。そういえばまだ買ってなかった」


「申し訳ありません、お父さん。こちらは妻子のいる方に売ることができない商品となっております」


「はははっ、そういうことか。そうだ、確かカバンに・・・・取引先からもらったものでな、これも売って小遣いにすると良い」


「増えたーーー!!」



2566.


「おい増えたぞ。どうすんだよ」


「売りゃ良いだけだろ。利益が1人当たり150円から300円になるんだから喜べ」


「既に300円以上の労力を割いてるんだが」


「それを言うな・・・」



2567.


「んん? 何だこれ? カレンダー?」


「こんにちは坊や。そう、それはカレンダーだよ。真の漢のためのカレンダーだよ」


「シンのオトコ? でも、丸まってちゃ何が書いてあるかわかんないよ?」


「それを言うのは野暮ってものだよ坊や?」




2568.


「いいかい坊や、お正月の福袋だって開けなきゃわからない楽しみがある。これも同じさ。中がどうなってるかは、開いてみての“オ・タ・ノ・シ・ミ”さ」


「じゃあいらなーい」


「お、おい! 待て! カネいらないから持ってってくれ!」


「何しにフリマに来たんだろうな俺らって・・・」



2569.


「ふーん、カレンダー? 何で丸まった状態で売ってんの? 馬鹿なの?」


「これはね、わざと見せないという戦略なのだよ少年。大人に見られちゃいけないものをこっそりと君たちに渡せるようにね」


「けっ。そんなこと言って、買ってからのお楽しみとか馬鹿なこと言うんでしょ?」


「甘いよ、甘い。何のカレンダーかもわからずに買う人がいるなんて思っちゃいないからね」



2570.


「ちょいちょい、耳を貸してごらんなさい少年。ここだけのヒミツだからね」


「お、マジで教えてくれんの? ふむふむ・・・」


「このカレンダーはな・・・綺麗なお姉さんの下着姿の写真集だ。持ってけドロボー」


「ハッ。さすがにそんな嘘に引っ掛かるほどガキじゃないッスよ。じゃあね」



2571.


「おい! 売れないぞ! 何故だ!」


「内容的に300円は高くないんだが・・・いかんせんその“内容”を公開できない」


「もう別によくね? 男子高校生なんだからグラビアの1個や2個ぐらい持ってても普通だろ」


「止むを得ん・・・やろう」



2572.


「え・・・何あれ? グラビア売ってる? ウケるー」


「うおっ! マジですげー! 兄ちゃんこれ300円でマジ!?」


「ヒソヒソ・・・いくら何でもこんな公共の場で・・・ねぇ?」


「君たち、ちょっと交番まで来てもらってもいいかな?」



2573.


「ただいまー。あれ? 兄のヤツは?」


「何だか知らないけど警察のお世話になってるよ。なんでも、グラビア写真集をフリマに出してたんだとさ」


「プッははっ! マジウケる! 何やってんだよあいつ!」


「・・・許せ、息子よ・・・・・・」

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