2021/12/25
2512.
「ど~し~らそ~♪ ふぁみ~れ~ど~♪」
「そら~~、らし~~、しど~~~♪」
「珍しいじゃないか、みずきが歌に乗るなんて」
「そういう季節だからね」
2513.
「なあ、サバ部でクリスマスパーリィーやろうぜ」
「とりえずパーリィーとかいう言い方をやめろ」
「でも肝心の部長さんは大丈夫なの? 忙しいご身分のはずだけど」
「最悪部長抜きでやりゃあいいさ」
2514.
「ちょっと、なに勝手にわたくしを除け者にしようとしていますのよ」
「うおっ、いたのかよサバ令嬢」
「いますわよ。ここはサバ部ですわよ?」
「お前用事とか言って居ないこと多いじゃんか・・・」
2515.
「ところで、崇さんは?」
「いるぞ」
「わっ! いたんですの? いるなら早く言ってくださいまし」
「いるに決まってるだろ? 俺はサバ部の副部長なんだから」
2516.
「それは失礼しましたわ。崇さんのお陰で我が部が混乱に陥らずに済んでるものですからね」
「いや一番私らを混乱に招く奴が何言ってんだよ」
「相変わらずですわね美々香さん。クリスマスケーキを3枚に卸されたいのですか?」
「ごめん何言ってるのかわかんない」
2517.
「さあ、今宵はこちらでパーティーですわよ。当家所有のバンクェットホールを用意いたしました」
「さっきの思い付きでやることになったのによくこんなの用意できたな」
「こんなのを用意するのは容易でございますわ」
「寒っ。今日のサバは北の果てで獲ったやつが出るのか?」
2518.
「うにゃーーーっ!」
「ようクレセント、久しぶりじゃないか。そろそろウチが恋しくなったか?」
「にゃー・・・」
「おっほほほっ! 誰があなたのような貧相な家と顔の持ち主の元に戻ると言うんですの?」
2519.
「おい今顔までディスられたんだが」
「諦めろ美々香。普通に顔でも負けてるから」
「そうよ美々香。性格の悪さ以外で人と張り合おうとしない方がいいわよ」
「お前らも大概だからな?」
2520.
「全く、本当にこの方たちは口を開けば罵詈雑言ばかり」
「お前も同じだからな?」
「大丈夫ですわ。こんな時のためにいるのが・・・」
「「「副部長!」」」
2521.
「それでは、副部長の崇さんより、開会の挨拶をどうぞ」
「こういうのって部長がやるんじゃないのか?」
「開会の辞を校長じゃなくて教頭がやるのと同じだ」
「なるほどな」
2522.
「にっこにっこにー♪」
「おいどうした美々香」
「すまん、急に何かが私に憑依した」
「ならしょうがない」
2523.
「えーそれでは、これより我々サバ部のクリスマスパーティーを始める。全員、起立!」
「既に立ってるが?」
「失敬。そういえば立食だったな。では全員、グラスを手に持つように」
「アイアイサー!」
2524.
「今年も1年、みんなよくやったと思う」
「サバ部はまだ設立3ヶ月だがな」
「令嬢の転入はもっと前から始まっていた。とにかく、今ここに我らが身があるのも、全ては世界サバ・フィル・ハーモニー会長令嬢あってこそだ」
「すげー忖度してんなあいつ・・・」
2525.
「にっこにっこにー♪」
「・・・とにかく、今年も1年お疲れだったと言おう。年の瀬にクリスマスが重なっているのも神の思し召しだ。今日は盛り上がって行こうじゃないか。乾杯」
「「「「かんぱーーーい!」」」」
「うにゃーーーーー!!」
2526.
「いやー、何だかんだで今年も終わりかー。1月って何してたっけ?」
「日本史の教師に忍術教えてくれって頼んでたぞ」
「ぷははっ。そんなことをしておりましたの? ぷふっ、それで、忍術は身に着けられましたの? ぷふっ」
「ぶっ飛ばすぞテメー忍法覚えられなかったけど」
2527.
「あらサバ令嬢ちゃん、お久しぶり」
「あ、これはみずきさんのお母さん。ようこそいらっしゃいました」
「良いところを持ってるのねぇ。崇との式もここで?」
「ちょっと待ってくれよみずき母。こいつにはウチの兄を差し出してカネをもらうんだから」
2528.
「美々香こそ何を言ってるの? お兄さんには私をもらってもらう約束になっているのだから」
「そんな約束は微塵もないんだが」
「あら涼太君、みずきをもらってくれるの? じゃあサバ令嬢ちゃんには崇を差し出せるわね」
「話聞いてくれよ誰か・・・」
2529.
「そういや美々香ちゃんに涼太、そっちの親は来ないのか?」
「呼んでる訳ないだろ? こんな豪華な食事が出るんだ。あんな奴らに食わせておけるかよ」
「よく自分の親にそんなこと言えるよな・・・」
「心配すんなよ。親は親で“アンタらに豪華なものを食べさせる気にはならないね”って言ってくるから」
2530.
「で、みずき父は?」
「うちのお父さんには弱点があるのよ・・・それは、魚を愛する金髪女性」
「なんでそんなピンポイントなんだよ」
「知らないわよそんなの。私も聞いて驚いたわよ。というかショックだったわよ」
2531.
「自分の親のそんな好みなんて知りたくなかったわ・・・」
「じゃあ何でみずき父はみずき母と結婚したんだ?」
「それはねえ美々香ちゃん、当時の好みが“牛乳を愛する黒髪女性”だったからよ」
「これまでの間に何があったんだよ・・・」
2532.
「元々牛乳の黒髪女性だったのは、テレビCMか何かだったみたい。それで、魚の金髪女性になったのは・・・5年くらい前のドラマだったかしら?」
「思いのほか面食いのようだな、みずき父」
「5年前ドラマでしたら、あれですわね。“世界はサバだが役に立つ”」
「何のドラマだよ・・・てかお前らドラマも手掛けてたのかよ」
2533.
「しっかしあれだな。世界で一番聞きたくない話って、自分の親の馴れ初めだよな」
「美々香さんのご両親はどのように知り合ったんですの?」
「さあな。お見合いとか言ってた気もするけど」
「あれ? 知人の紹介じゃなかったっけ?」
2534.
「ひとつだけ言えることは、当時母さんは中々にイイ女だったらしくて、親父は自分のものにしたかった。で、親父が大手の親会社勤めだったために母さんはそこに飛びついた」
「結果、母さんはどこにでもいるオバチャンになり、親父は孫会社に飛ばされるに飽き足らず早期退職を食らった」
「中々に悲惨な経過を迎えてるわね・・・」
「“経過”とか言うなよ。これが結末であって欲しいよ」
2535.
「おい、クリスマスに暗い話するのやめようぜ」
「そ、そうですわよ。副部長の言う通りですわ」
「じゃあ大金持ちのご令嬢さんから明るい話を聞かせてくれよ」
「今日は少し髪を明るめの色にしておりますのよ?」
2536.
「明るいカッコ物理」
「何事も物理から入るのが大事さ」
「一方、物理的には明るいはずの親父の頭は・・・」
「だから暗い話はやめろ」
2537.
「では、私は世界牛乳学会のパーティーもあるから失礼するわね」
「お忙しいなかお越し頂き、ありがとうございましたわ」
「はいこれ、私からのお土産。ミルクシャンメリーよ」
「おお! これたまにCMやってるやつ! みずき母来てくれてありがとう!」
2538.
「ぷはー、食った食った。クレセントもちゃんと食ったか?」
「うにゃー♪」
「本当に何でも食べるわねクレセントちゃん。苦手なものってないの?」
「ないぜ。強いて言えば花粉ぐらいだ」
2539.
「んじゃそろそろお開きにするかー」
「え、待ってよ美々香。年頃の男子が2人に女子が3人、ネコも1匹。何事もなく終わるって有り得ると思う?」
「なんでネコをカウントに入れたんだよ」
「人間も5人中4人が兄妹×2だからな。崇と美々香が付き合おうが知ったこっちゃないがこんな所でイチャつくなよ」
2540.
「ちょっと待って。兄さんと美々香が付き合うのは知ったこっちゃあるわよ?」
「そんなことはないから安心しろ。どう考えても私よりサバ令嬢の方が優良物件だ。性格以外の全てが私より上なんだから」
「そんなことが言える時点でご自身の性格に問題があるとは思わなくて?」
「話戻すけど親の馴れ初め以上に兄のラブシーンって見たくないかもな」
2541.
「ちょっと待とうかみんな。さっきから変な話が増えてるぞ。ここは強引に閉会宣言に移らせてもらう。部長、頼むぞ」
「閉会の辞もナンバーツーがやるんじゃないのか?」
「シメは一番偉い奴がするんだよ」
「なるほどな」
2542.
「では、わたくしから。コホン。えー皆さん、宴もたけなわではございますが」
「ホントにたけなわだよ。ラブシーンとか言う単語も出たし」
「お前が言ったんだろうが」
「お前ら静かにしろ。部長のお言葉の最中だぞ」
2543.
「宴もたけなわではございますが、今宵はこれまでに致しましょう。本年のサバ部の活動は以上でございますが、来る年も、より多くの方にサバの魅力を届けることができるよう精進して参りましょう」
「今年何やったっけサバの魅力を届ける活動・・・」
「気にしたら負けね」
「来年オープンするんだろ? Sランチで上質なサバが食べられる食堂が」
2544.
「それでは最後、せっかくのクリスマスですので、皆さんで声を合わせて締めに致しましょう」
「よし来た。そういや乾杯で始まったから言ってなかったな」
「準備はよろしいですか? せーのっ」
「「「「「メリー、クリスマーース!!」」」」」