2021/11/28
2399.
「兄よ!」
「妹よ!」
「・・・せーのっ」
「「ポスティング!」」
2400.
「ただいまー。あーまたチラシ山ほど入ってんな。美々香これ捨てといてくれよ」
「何でだよ今そっちの方がゴミ箱に近いポジだろうが。合理的に考えろよ合理的に」
「美々香が代わりにやってくれれば俺は余計に動かずに済む。合理的だと思うが違うか?」
「違うに決まってんだろボケが」
2401.
「俺はお前より年上だ。ゴミ捨て如きに年長者の手を煩わせるのは我が家としての損失が大きいという意味だったがお子様には理解できなかったか?」
「それを鵜吞みにしてパシられる方がよっぽどお子様だね。私の方が若いんだからゴミ捨て如きに若い労働力を使う方が我が家の損失は大きくなるんだよ」
「じゃあこれ放置して親父か母さんが帰って来た時に処理させるか」
「それが一番合理的だな」
2402.
「にしても、毎度毎度こんなゴミばっか寄越しやがってよ。ポスティングっちゅうのが最も世間に必要とされてない仕事だと私は思うね」
「ところがどっこい、その仕事があるからこそ生活できてる人もいるんだな」
「関係ないね。“自分の生活のためにゴミを受け取ってくれ”だぁ? ゴミ捨てるにも金掛かる時代なんだから実害が出るんだよ」
「チラシは縛って資源に出せばタダで持ってってもらえるぞ」
2403.
「だとしてもだ、資源の日まで保管するのもその日を狙って外に出すのも手間が発生する。手間、イコール、コストだ。ほら、実害が出る」
「まぁな。それに、リサイクルできるとは言え、同じ紙に対して加工と印刷と再生を繰り返すのも機械を使うからエネルギーを消費する。余計なチラシは刷らないに越したことはない」
「生活のために仕事するってんならもっと生産性のあるものにしろって話だ。ゴミ配りなんぞではなく」
「考えてみれば、ゴミ配りまくって金もらえるなんてマジ凄いシステムだよな」
2404.
「ま、客は私たちじゃなくて広告主だからな。広告主も配達業者も民間企業。つまり、社員に何をさせようと自由」
「おっとそうは行くかよ。ゴミ配りなんだからそのゴミを誰かが受け取るという事態が発生する。これは公共の福祉に反するだろ?」
「おっとそうだったな。突っ込まれたチラシはドアの内側、つまり私有地に入る。ポスティングは私有地へのゴミの投げ入れ行為と考えて差し支えないだろう」
「迷惑防止条例違反だな!」
2405.
「ったく、考えれば考えるほどイライラしてきたな。生活のためとか何とかほざくけど、人んちに平気でゴミ投げ入れる奴がのたれ死のうと知ったこっちゃねーわ」
「別に世の中ポスティングしかない訳じゃないからな。数ある仕事の中からポスティングを選んでいる以上、人んちにゴミを投げ入れる行為を自ら進んでやったということに他ならない」
「“こっちも仕事なんだ!”は通用しない!」
「消え去れ! ポスティング!」
2406.
「ポスティング以上に解せないものを紹介しよう」
「何だ」
「市報だ。ゴミ配りを、なんと税金を使ってやっている」
「市報さえもゴミを言い切ったな・・・まぁぶっちゃけ読まずに捨てるが」
2407.
「どうせネットにも上げてるんだろ? 見たい人だけ見ればいいじゃんか」
「馬鹿だな美々香。スマホもパソコンも持ってない人がいるかも知れないだろ?」
「そんなんごく少数だろ。更にそのうち市報読みたい人がどれほどいるよ。よほどの事情がない限り手足は動くだろうから紙媒体なんて役所と公民館にあればいい」
「手足が動かん人には介護の人がいるだろうしな。補助金制度とか気にするのもその人だろうし」
2408.
「やばい、心の底から市報が理解できない。誰か説明してくれ」
「雇用の創出だよ雇用の。配達員が必要だろ?」
「だからゴミ配りに税金を使うな。普通に職員増やせばいいだろどうせ人手不足なんだろうから」
「人手不足のデスマーチのなか市報印刷しまくってる人がいたら笑えるよな」
2409.
「なぁ、何でもいいから納得のいく理由を付けてくれよ」
「じゃあこうしよう。市報の印刷なんてどうせ外注だろう。つまり、一家に一部配ることにすれば印刷業者も儲かる。お友達の業者に発注すればウハウハさ」
「それで納得できるとでも?」
「できるだろ? 自分が懐潤う立場になれば」