2021/11/20
2348.
「満を持して、この時が来た」
「別に“時”は満を持さないけどな」
「そして私も主人公の座を辞することはない」
「作者が辞したら俺らの時は止まっちまうけどな」
2349.
「そんなワケで行くぞ、鬱陶しい電車の広告ランキング!」
「今の前置きは何だったんですの?」
「気にしたら負けだぞ。特に意味はないんだから」
「本当にあなた方の発言を気にしてたら負けた気分になりますわ・・・」
2350.
「では早速いくぞ! 第3位! 脱毛サロンの広告!」
「それな。妙に生々しいし、目の前にその広告が来られると視線を投げる先の選択肢が減る」
「けれど、スベスベ美肌のモデルが映っていれば殿方も喜ぶのではありませんの?」
「脱毛の広告でされても困るんだが」
2351.
「バッカだなぁ。電車の中にグラビア写真集を貼るワケにはいかないだろ?」
「そもそも電車の中にいらないんだよ」
「でも電車の中で写真集見てるオッサンとかいるからなぁ」
「そいつが異常なだけだ」
2352.
「そもそもあの手の脱毛って効果あるのか?」
「ビジネスが成り立ってるんだからあるんじゃないのか?」
「でもマジで効果あったらムダ毛に悩む人いなくなるんじゃね?」
「そこは定期的に通わなければ毛が復活するようになってますわ。リピートしてもらわないとビジネスが成り立ちませんから」
2353.
「ま、毛にしてもハゲにしても、お悩みが一発で解決する特効薬なんぞないってこった」
「ダイエットと一緒ですわね。継続は力なり」
「脱毛でも努力がいる辺り世知辛いよな」
「人生は世知辛いもんだからしょうがない」
2354.
「では次! 鬱陶しい電車の広告ランキング第2位! ドアに貼ってあるやつ!」
「言うほどか? ちっこいのがあるだけじゃん」
「お前には分からないだろうさ・・・私の身長だと外を見ようとした時に広告に遮られるんだよ! 外の美しい景観が!」
「どのみち大した景色じゃないだろ」
2355.
「庶民というのは妙なところでストレスを感じているのですわね」
「そういやお前電車乗らないクセに何でこの会話に混ざってんだよ」
「逆ですわよ。わたくしがいるところであなた方がこの話を始めたのです」
「美々香による令嬢への当て付けだ。気にするな」
2356.
「じゃあ美々香、こういうのはどうだ。ドアに貼ってある広告はなくなる。その代わり、運賃10円アップ」
「フザけんな! 値上げなど論外! 口ほどにもならん!」
「いま日本語おかしかったですわよ・・・それはいいとして、鉄道会社だって民間企業、つまり営利組織なのですから、採算を取ることが重要なのですわ」
「ビジネスだの営利だの採算だの、どいつもこいつも金のことばっかでウゼぇぇぇぇぇ!」
2357.
「資本主義だからしょうがない。というか美々香がそれを言うな」
「本当ですわよ。誰よりもお金のことしか考えていない人が」
「世界が・・・いや電車広告が私をこんな奴にしたんだ」
「そんなことはないだろ。言うならせめて世界だけにしておけ」
2358.
「ではいよいよ発表! 鬱陶しい電車広告ランキング第1位! 週刊誌!」
「まあ妥当だな。サバ令嬢の真似じゃないが、品のないことこの上ない」
「書いてある言葉。広告としてのデザイン。そして飾ってる位置。もう全てにおいて品がないよな」
「位置にまでイチャモン付けられていては堪りませんわね」
2359.
「普通に子供とかも乗るのにあれってどうなんかね?」
「でもコンビニとかでも普通に成人コーナーあるからな」
「まあ子供なら逆にサバ令嬢のヌードがあったところで気にしないか」
「勝手に人を例に出さないでくださいまし」
2360.
「ヌードはともかく、週刊誌って芸能人の熱愛とか追っかけてるんだろ? よくやるよな」
「ホント暇な奴らだよな。何の生産性もないことに労力割きやがって」
「出版社も民間企業ですからね。社員に何をさせようと自由ですわよ」
「それで利益出てんのマジで凄いよな」
2361.
「それだけゴシップ好きが多いってこったろ。全く、暇人が多くて何よりだ」
「それは“何より”なんですの?」
「買う奴がいなきゃ週刊誌なんてとっくに廃刊になってるのは確かだな」
「ホントなんであれ続いてるんだろうな」
2362.
「追っかけるなら不倫とか裏金だけにしてくれんかね」
「ジャーナリズムは必要ですわね。ただの恋愛や有名女優のあられもない姿を世間に晒す必要があるかは知りませんけれど」
「ないだろ。有名女優とて私らには赤の他人なんだから。でもサバ令嬢のあられもない姿には金を出せる気がするぜ」
「ぶん殴りますわよ?」
2363.
「冗談で言ってみたけど、実際やったらサバ令嬢の人生壊れそうだな」
「本当ですわよ。パパラッチに気を付けるのは当然として、お付き合いの相手も選ばないと変な写真を週刊誌に売られては堪りませんわ」
「ご令嬢とやらも難儀なんだな」
「ちなみにこのあいだ悪漢に襲われてクレセントちゃんと戦ったところも見事に撮られましたわ」
2364.
「撮られてたのかよあれ。まあ世界サバ・フィル・ハーモニーともなればネコにあの程度の芸当をさせても不思議はないだろう」
「幸いにも、大した騒ぎにはなりませんでしたわ。警備は強化せざるを得なくなりましたが」
「企業も風評被害の1つで潰れかねないんだな」
「本当ですわよ。記者なんて鬱陶しいことこの上ありませんわ」
2365.
「しっかし記者連中も、人の人生ぶっ壊すのがそんなに楽しいんかね」
「違うぞ美々香。奴らは人の人生壊すのを楽しんでるんじゃない。人の人生壊すのが仕事なんだ」
「余計タチ悪いじゃねぇか。“俺らの生活費のために人生壊させてもらいます”ってか?」
「美々香さんなら言いそうなセリフですけれどね・・・」
2366.
「言われてみればその手はアリだな。大企業の社長とくっついて、時が来たら週刊誌に情報売ればウハウハかもしれない」
「目を付けられたら最後、これまでも何度、一流企業の陥落を目にしてきたことか・・・」
「マジで話題に上がる時って一気に湧き上がるよな」
「そしてノーコストの一般人にも叩いてもらう」
2367.
「なんだかんだで民衆も、金にならないのに便乗する辺り、やっぱ人の人生壊すの好きなやつ多いんじゃね?」
「そんな気がしてきたな。クラスメイトの熱愛ネタはみんな食い付くし、あられもない写真が出回ろうもんなら退学か転校だ。人生ノーダメージとは行かんだろう」
「しかし、誰かにスポットが当たると便乗してしまう。自分にだけはスポットが当たらないようにと」
「人間のサガだな」
2368.
「と、いうワケで鬱陶しい電車広告ランキングは以上だ」
「そういえば広告の話でしたわね」
「でも言うほど電車で広告なんて見るか? スマホいじってりゃいいだろ」
「スマホいじってても広告ばっか目に入って来るんだよなぁ・・・」