2021/10/16
2207.
「また来ましたけれど・・・相変わらずオンボロですわね」
「フッこれが庶民の暮らしというやつさ。ちょうど親父が早期退職を食らったばっかりだからな」
「庶民というのも大変ですのねえ」
「他人事みたいに言いやがって・・・」
2208.
「あら。わたくしにとっては他人事ですもの」
「てめぇ・・・」
「ここまで開き直られるとむしろ何も言えねえよな」
「おい! 金持ちがもっと庶民に分配しろ!」
2209.
「ふん。吠えても無駄ですわよ。こちらには社会を動かすという役目がありますの」
「お前らに社会を任せた結果こっちは今ボロアパート生活なんだが?」
「では、あなたのお父様の同期の皆さんボロアパート生活なのですか?」
「くっ! 親父がダメダメなせいで言い返せない・・・!」
2210.
「ウチが敗者なのは認める! しかし! 敗者ももっと裕福な暮らしができるようにすれば良いのではなかろうか!」
「よく言った美々香! 行け! 庶民代表!」
「ふん。宿題を人に見せてもらってばかりでも将来ホームレスにならないだけで十分だと思って頂きたいですわね」
「低すぎるんだよ! 最低ラインが!」
2211.
「保障が足りん! 保障が! 生活への必要最低限は無条件で導入すべきだ!」
「そう言うと思いましたよ。ですがそれがあったら働きますか? 宿題を働き者に任せるあなたが? 生活費までも働き者の税金から受け取るだけでは?」
「そんなものは想像に過ぎん! 所詮生活費しか入らないのだから、小遣い稼ぎはするに決まっている!」
「それで天引きされる税金がホームレスに回る中でモチベーションが保てますか?」
2212.
「私の税金がホームレスに回るだと! フザけるな! 自分より下の奴など知らん!」
「あなたも言ってること同じじゃないですの」
「まずい! 美々香のボロが出ている!」
「くっ、怠け者の私では説得力が・・・! 勤勉な貧乏人を呼んで来るんだ!」
2213.
「勤勉で貧しい方もいらっしゃるのでしょうけれど、あなたのような怠け者がいればやってられないでしょうね」
「知るかよ。奴らは自分のために宿題をしている。そして実際にためになるはずだ。そして、カネとは違って人に見せても失わない! 何が悪い!」
「誰も宿題やって来なかったらどうするんですのよ・・・」
「心配するな! 大人に怒られるのが嫌な誰かがやる!」
2214.
「サボった人は怒られてしまえと思うのが人の心理だと思うのですけれど」
「フザけるな。誰も怒られずに済むのが一番平和なんだ。そのために宿題をしてくれる誰かがいるんだろう?」
「自分自身が怠け者なのに、働き者がいる前提に立てることが凄いですわよね・・・」
「美々香、お前もう黙ってろ」
2215.
「次は涼太さんですの? いいですわよ。さあ、何でも言ってごらんなさい」
「サバ令嬢。お前は1つ大事なことを忘れている。俺たちは何も、そんじょそこらの働き者から分けてもらおうなんて思っちゃいない。お前らのような上流階級から分配しろと言ってるんだ。宿題に例えるなど無意味! 何故なら! 同じ学校に通う者同士には大した格差がないからだ!」
「なるほど。確かに、現実の格差は桁違いですわね。強いて言うならば、そもそも宿題や試験が免除されていると言ったところでしょうか」
「さあ! この現状についてはどう説明する!」
2216.
「当家では、世界中の身寄りのない子供たちにサバ製品を寄付しておりますわよ? 言うまでもなく食料品ですわ」
「けっ。施しで良い気分に浸ってんのかよ」
「何とでもどうぞ。いくら庶民が吠えたとところで、わたくし共のやることは変わりませんわ」
「ていうか寄付のフリして世界をサバに染める気だろこいつ・・・」
2217.
「そもそも、わたくし共は民間企業。寄付に宣伝は兼ねさせてもらいますし、巨万の富も自分たちの努力によって得ているのです。社会保障のことなら政治家に言ってくださいまし」
「くそっ、結局はそうなるのかよ」
「諦めるな兄よ! ならば、民間を代表してお前から政治家共に働きかけるんだ!」
「何でわたくしが。あんな頭の固い方々を相手にするほど暇じゃありませんわ」
2218.
「涼太さん、あなたも大事なことを忘れておりますわよ。彼らには絶対に揺るがない基盤があるのですから」
「ほぅ、言ってみろよ」
「庶民に富を分配したら搾取する相手がいなくなるのですから、ルールを決める側がそれを崩すような真似をするはずがないでしょう?」
「フっ、ザっ、けやがってぇぇぇぇぇ!!」