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2021/09/19

2116.


「そういや親父ぃ、新しい仕事は見つかったか?」


「見つかってないからこうして日曜もパソコンに向かってるんだ。暇なら涼太とゲームでもしてろ。邪魔をするな」


「おい大丈夫かよ。もう9月終わっちまうぞ」


「最悪は3月までは待ってくれる。今の会社の方が給料いいんだから居座るに決まっているだろう」



2117.


「そんな理由で転職遅らせるなよ・・・」


「死活問題なんだ。いいのか? 小遣いが減っても」


「あと半年と言わず何年でも居座ってくださいお願いします」


「調子のいい奴め・・・」



2118.


「ったく、大手の孫会社勤めでもこのザマかぁ。やっぱ狙い目は親会社勤めだな」


「お前は知らないだろうが、入社は親会社だったんだ。それがいつしか・・・」


「やめろ。私まで将来に希望が持てなくなる」


「持つな。若いうちから夢は捨てろ」



2119.


「チッくそが。しょうがないからOLにでもなってお上に媚び売りまくるか」


「褒められた手段ではないが・・・好きにしろ。俺みたいに50を前にして失業する奴のスネを噛じろうなどとは考えるな」


「あたぼーよぉ。できればトシが近い方が良かったが、もはやエリートでさえ後先どうなるか分からんからな。のぼりつめた奴を直接狙った方が早いぜ」


「捨てられんためにもその捻じ曲がった根性を真っ先にどうにかすることだな」



2120.


「けっ。誰の血のせいで捻じ曲がったと思ってるんだよ」


「母さんのに決まってるだろう」


「即答でそれが出る時点でどうかしちまってんだよ・・・」


「悪く思うな。母さんがあんなだと知ったのは、お前が生まれて何年も経ってからだったんだ」



2121.


「そう言われると昔の母さんが気になるんだが。そんなにイイ女だったのか」


「ああ、それだけは確かだ。だが、大手勤めの俺と結婚してから変わり始めたんだ・・・」


「あ、やっぱ今の私の性格母さんのものだわ」


「分かっただろう。お前は間違いなく将来母さんと同じようになる」



2122.


「ま、別にいいけどね。ホームレスになるぐらいだったら他人の稼ぎで生活できればボロアパート暮らしでも」


「自分の稼ぎでボロアパートに住む身になってみろ・・・」


「ま、それは過去に超絶イイ女だったっていう母さんと甘いひとときを過ごせたのと引き換えだな。良かったじゃないか、人生にかけがえのない思い出が残せて」


「くっそ・・・犠牲が大きすぎるんだよ・・・」



2123.


「にしたって、よくもまぁこんな腐った世の中に誕生させてくれたな。生まれてくる子供に悪いと思わなかったのか?」


「許せ・・・確かにバブルが弾けて10年は経っていたが・・・少しずつ明るい未来に向かっていくと、思っていたんだ・・・」


「その結果、現役女子高生でさえ希望の持てない未来を迎えてしまったってこった。ま、だからこそ開き直って媚び売り作戦に絞れるけどね? 喜べよ、社会の敷いたレールにはちゃんと乗ってやるからさ」


「お前の結婚式では別の意味で涙が出そうだな・・・」



2124.


「よぅ美々香に親父ぃ。何の話してんだ?」


「私がいかに将来金持ちとくっついて楽に生活するかだ」


「まだそんなこと言ってんのかよ」


「いつまでも言うぜ? イケメンと結婚しても20年後にボロアパート住まいじゃ人生負け組だからな。若い時期を楽しむことによる犠牲がいかなるものかは父さんたちで実証済みだ」



2125.


「確かにボロアパートは嫌だが・・・言うて50とか60になって金があっても何するよ?」


「寿司! 焼肉! 温泉旅行! 世界1周クルーズ! イケメンと数年イチャイチャの後がボロアパートならば、何十年とこの生活が送れる日々を私は選ぶ!」


「その結果、冴えないオッサンとボロアパートで何十年と過ごす日々が、美々香を待っているのだった」


「やめろぉ! 夢のないことを言うなぁぁ!!」



2126.


「夢だぁ? なに寝ぼけたこと言ってるんだい」


「「母さん!」」


「そういう母さんだって、高級マンションの最上階を夢見て当時大手の親会社勤めだった親父を狙ったんだろう?」


「バカ言うんじゃないよ。最上階は夏に暑くなるから2番目かもうちょっと下で考えてたよ」

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