2021/08/21
1934.
チリンチリン。
「よしオッケー」
「何がだ?」
「風鈴から音が鳴った」
1935.
「普通に考えて風鈴なんだから鳴るだろ。ついに暑さでおかしくなったか?」
「何を言う。風鈴が鳴るから涼しい。だから暑くなんてない。つまり頭はおかしくならない」
「暑くなくてもコイツが頭おかしいってことを忘れてたぜ」
「おいおい妹に対して何て言い草だ。そっちこそ頭おかしいんじゃないのか?」
1936.
「は。お前にだけは言われたくないセリフなんだが」
「そりゃ私もだ。兄にケナされることほど腹立つものは・・・って、待て待て。これ以上はやめよう。堂々巡りだ。明日に響く」
「おっといけない。暑さのあまりヒートアップしちまったぜ。てか明日って何かあったか?」
「あるわけないだろうが」
1937.
チリンチリン。
「いい音だ。たまにはこういうのも風情があっていいよな」
「ハンッ、風情とか。お前にはちっとも似合わない言葉だな」
「あ?」
1938.
「てめぇさっきから黙って聞いてりゃチョーシこいたこと言ってんじゃねーぞ」
「いつお前が“黙って聞いて”たんだ?」
「黙れ!」
「・・・・・・」
1939.
「なんか言えやゴルァ!!」
「黙れっつったのはテメェだろうがぁ!」
「黙れと言われて本当に黙る奴があるか! 待てと言われて待ったら泥棒失格だろう!」
「俺は泥棒じゃねぇ! テメェの泥棒精神を俺に押し付けるな!」
1940.
「泥棒だと! 私のどこが泥棒だと言うんだ!」
「全てがだ! 人から借りた金を返したことがあったか!?」
「あるさ! 3割ぐらいは!」
「残りの7割はどうした!」
1941.
「死ぬまでに返すさ! そしたら泥棒にはなるまい!」
「なる! 常識的な範囲で返すのが善良な市民ってモンだ!」
「期限を決めずに貸す方が悪い!」
「テメェなんか呪われてしまえぇぇぇぇ!!」
1942.
「説教が長い! 黙れと言ってるだろう! 明日に響くんだよ!」
「だから明日に何があるんだ!」
「命がある! 私は明日も生きなければならない! 今日少しでもストレスを減らせばその分だけ明日が楽になる! だから私を怒らせるな!」
「それはお互い様だ!」
1943.
「もういい! 言葉で分かり合えないならこうするしかないなぁ!」
「望むところだ! そんなに“明日”が怖いなら丸1日寝かせてやるよ!」
「うおおおおおおぉぉぉぉぉ・・・!!」
「おおおおおおおぉぉぉぉぉ・・・!!」
1944.
「ハァ、アァ゛・・・何やってたんだっけ、私ら・・・」
「火が点いた。夏の暑さが、俺たちの堪忍袋の導火線に火を点けた」
「はっはは。脳ミソに火薬でも詰まってんのかよ」
「空っぽの方がマシだったな」