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2021/08/08

1880.


「友よ!」


「何?」


「榊坂、野球部の顧問やめるってよ」


「あ、そうなの?」



1881.


「反応してみたはいいけど、割とどうでもいい情報だったわね」


「まあそう言うなよ。曲がりなりにも同じ学校の教師なんだから」


「“曲りなり”って言葉が必要な時点でどうでもいいのよ」


「まあ私にとっても暇つぶし程度の話題でしかないがな」



1882.


「それで、どうして顧問やめちゃったの? マネージャー46人集めてアイドルにするんじゃなかったの?」


「諦めたらしい。せっかくマネージャーになった私らが即でやめちまったからな」


「諦めるの遅くない・・・?」


「オッサンにだって、夢を見たい時があるのさ」



1883.


「でもって、ついにヤツはアイドル部を立ち上げた。既に10人集まったんだとか」


「はぁ?」


「ま、学園生活の想い出にでもするんだろ。来週の市民納涼祭で1曲かますらしいぞ」


「アクションが早いわね榊坂先生・・・」



1884.


「ちなみに、私らに声は掛からなかった。野球部マネやめたことを根に持ってるらしい」


「プロデューサーの意向に背いた私たちにキャリアは無いってことね」


「そういうこった。てなワケで冷やかしに行こうぜ」


「趣味わる・・・」



1885.


「よう」


「あなたは・・・満月さん? どうしたの。野球部マネージャーになって1日でやめたって聞いたけど」


「お前ら、榊坂のアイドル部にも入ったようだな。え? バレー部の美人姉妹マネさんよぉ」


「別にいいでしょ。期間限定なんだし」



1886.


「おいおい、榊坂がお前らをこの夏限定にするはずがないだろ? 谷崎とも仲悪いんだから引き抜かれるぞ」


「大丈夫よ。みんなして来週のお祭りが終われば抜けるから。ひと夏の想い出ごっそさん、ってね」


「榊坂・・・気の毒な野郎だ」


「向こうだって私利私欲のために私たちを利用してるんだからお互い様でしょ」



1887.


「てなワケで、アイドル部は来週の納涼祭でデビューと同時に解散される」


「榊坂先生はそれを知らず文化祭やその先のことまで考えてるのね・・・」


「まあ、あんなヤツの自校生徒ローカルアイドル化計画にガチで乗る方がどうかしてるからな」


「先生にとってもひと夏の想い出になりそうね」



1888.


「で、練習は屋上でやってるのね。バレー部の2人みたいに掛け持ちの子はいないみたいだけど」


「ま、運動部連中は直前だけでもいいだろ。見ろよ、この低クオリティっぷりを」


「これ、1週間で何とかなるのかしら・・・」


「別に良いんじゃね。ちっぽけな納涼祭なんかのステージに誰も期待なんかしないって」



1889.


「ほらそこ! ズレてるぞ!」


「ハァ、ハァ・・・きっつ・・・」


「早くも、教師とメンバーの本気度の差が浮き彫りになってきたな」


「プロデューサーだけが超やる気って、一番まずい状態ね」



1890.


「オイお前たち! 休憩はまだだぞ!」


「いいじゃないですか! 疲れたままやっても上達しません!」


「そもそもそこまで上達する必要あんの?」


「何だと・・・!」



1891.


「あーあ、もう揉めちまったよ」


「時間の問題だったでしょ」


「お前たちは、これから我が校の伝統となるスクールアイドルの第一号だぞ! そのデビューステージで生半可なものは見せられん!」


「市民納涼祭の地元校のパフォーマンスの裏でこんなスポ根やってる方が問題です!」



1892.


「パフォーマンス? パフォーマンスだと! いいかお前たち、アイドルというのは単なるパフォーマンス集団ではない!!」


「おい、榊坂のやつ意味不明なこと言い出したぞ」


「人間、何かに取り憑かれるとダメね」


「みずきがそれ言う?」



1893.


「ステージの上で歌って踊る。これがパフォーマンスじゃなきゃ何なんですか!」


「いいか、よく聞け。確かに俺たちは、ステージと時間を与えられた。多くの人に見てもらうための場所をな。だがな、そこで見せるのはパフォーマンスではない。演劇やライブとは違うんだ。お前たちは、何十年とある人生のうちの数分を、そのステージの上で過ごす。そこで歌って踊ると決めたんだ。そう、つまり、お前たちの人生のうちの数分を、多くの人に見てもらえるんだ。そこで見せるのはパフォーマンスなどではない、人生だ。お前たちの人生の一部を! 魂の一部を! そこで夜空に打ち上げて、世界中に見せつけるんだ!!」


「おい、ついに“ライブとは違う”とか言い出したぞ」


「とりあえず成り行きを見守りましょうか」



1894.


「・・・やってらんねー」


「・・・は?」


「いや、人生の一部とか言われても付いてけないから」


「来週のステージには立ちます。でも、もう自分たちでやりますね」



1895.


「おい、待て、待ってくれ・・・! お前たちはダイヤモンドの原石だ! 磨けばきっと輝ける! 共に輝かせてくれ!!」


「は? あんたに磨かれるとかマジ勘弁。あっしら自分でも輝けるし」


「そもそも初めから人は、スポットライトさえ浴びれば輝けるんです。原石だなんて失礼しちゃいますね」


「みんなでバイトしてキラッキラの衣装買うしぃ?」



1896.


ヒューーーッ。


「決着が着いたな。榊坂、哀れなり」


「絵に描いたように崩壊したわね」


「正直、ここまでバカだとは思ってなかった」



1897.


「・・・なんだお前たち、俺を笑いに来たのか」


「まあな。私らチョー暇だから」


「フッ笑え。所詮俺は、人の上に立つ器じゃなかったんだ」


「そう落ち込むなよ。まあ、なんだ、今日のところは・・・野球でもしようぜ」

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