2021/05/29
1545.
「兄よ!」
「妹よ!」
「・・・せーのっ」
「「 君 が や る ん だ 」」
1546.
「人類の究極技、丸投げ」
「されたら嫌だからこその、究極技だな」
「そしてこれを、大の大人が使うという悲劇」
「いや、大人だからこそ使うのかもしれない」
1547.
「説明しよう! 親父の会社のIT環境は悪い悪い、すこぶる悪い」
「いきなりネットワーク切断、システムエラー、起こる起こる頻繁に起こる」
「そして何より致命的なのが、変にセキュリティを強化してるが為にお客さんとのやりとりの手間が尋常じゃない」
「社員のみならずお客さんにまで手間かけさせるという始末だ。あー困った」
1548.
「そんな時、1人の若者が立ち上がった」
「親父は終始傍観してたがな。もう歳だから」
「幹部講話の質疑タイムでその若者は言い放った。“もうちょっとどうにかなりませんか”と」
「そして幹部の返事がこうだった。“ 君 が や る ん だ ”」
1549.
「こうして親父の会社ではIT環境向上委員会が立ち上がった。その若者を含め、現場の部署から代表を1人ずつ出して」
「おいおい、IT運営専門の部署もあるんだろ? ユーザーにデバッグさせる運営、ここに極まれりだな」
「まぁ現場の声を集める担当者は現場から出してもらった方がいいからな。淡々としたアンケートは年1でやってたみたいだけど、みんな諦めてて何も書かずに出すから」
「ホント終わってんな親父の会社・・・」
1550.
「だが、現場の社員が巻き込まれたとは言え、会社がやる気になったのは良いことだ」
「あんなんじゃお客さんから見放されるのも時間の問題だからな。データのやり取りに手間が掛かるってだけで縁切られても驚かないぜ」
「さて、親父の会社に進歩はあるのだろうか」
「さぁな。運営にとっては仕事が増えるだけだしな」
1551.
「なぜ会社が明らかに非効率な状態を放置するのかがここにある。やったところで運営連中の給料は上がらんのだ」
「普段の運営に加えて改善業務もだからな。奴らにとっては仕事が増えるだけに過ぎん」
「しかし、放置しているが為に発生する問題もある。奴ら自身の仕事にとっても非効率なままってことだ」
「いや自滅だかんなそれ」
1552.
「そもそも奴らには、とある根性が染み付いている。“会社の指示がある訳でもないのに勝手にやってにいいの?”だ」
「うわ・・・末期だろもう。でも非効率なままにしといたら生産性落ちるんじゃないのか? いつまでも放置はせんだろ」
「大丈夫だ。もし結果として売上げ落ちたり開発が遅れたりしても全部現場の責任にできるから」
「なんかもう・・・もういいや」
1553.
「てなワケで、オッサンどもが諦めてるなか、若者が立ち上がったワケよう」
「にしてもわざわざ幹部に直接とはねぇ・・・それも、講話の質疑という、みんなが見てる前で」
「まぁ元からそのシナリオが用意されてた可能性はあるがな。しかし、それをすることにより、社内の非効率システムにケチつけたらその改善は声を上げた本人の仕事になるということを、社員全員に見せつけることができたのだ」
「いつの世も、出る杭は打たれるってことだな」