2021/05/23
1535.
「あーなんかやる気でねー」
「美々香がやる気を出すことなんてあるの?」
「あるに決まってるだろ? 昨日ゴーヤーを探しにわざわざ買い物にまで行ったんだぞ?」
「1軒だけで諦めたクセに?」
1536.
「おいおい。確かに私は1軒で諦めた。だが、実際に自分の足を使って確かめに行った。いいか、人はな、自分の意思で一歩でも動けばそこには大なり小なりの“やる気”があるんだよ」
「一歩だけで引き返してたらカケラもやる気なんて感じないわよ」
「おいおい、“よーしやるかー”と言って一歩を踏み出すのが、どんなに大きいことか分かってないのか?」
「一歩だけで“やっぱやーめた”ってなるんでしょ? 美々香の場合。もはや自分の部屋からも出ないわよね? そんなんで“やる気はあった”なんて言えるの?」
1537.
「ちょっと待てよ。私はちゃんと外に出てスーパーまで行ったんだぞ?」
「でも1軒で諦めたのよね? 所詮その程度のやる気だったんでしょ。美々香なんかに目を付けられたゴーヤーが可哀想だわ」
「いや別に日を改めて他の店いきゃ良いだけだろ。昨日にこだわる必要がどこにあるんだよ」
「あんた後回しにすると忘れるでしょうが」
1538.
「随分と手厳しいじゃないか、えぇ? みずきよ。お前こそやる気出すことあんのかよ」
「もちろんよ。美々香とは違うんだから」
「じゃあゴーヤー探しに沖縄まで行くのか? あぁ? えぇ? い! う! え! お!あ! お!」
「いきなり発声練習をしないで。あんたタダでさえ声デカいんだから」
1539.
「それで、お前はゴーヤーのためなら沖縄まで行くのかよ?」
「もし、どうしてもゴーヤーが欲しくなったその時は、ね」
「よし、じゃあ沖縄行くぞ」
「なんで?」
1540.
「いいか、よく聞け友よ。お前は、ゴーヤーが欲しくなった。つまり、沖縄に行くしかない」
「いや意味わかんないんだけど。勝手に人が欲しがってるものを決めないで?」
「知るか。なれ。ゴーヤーを欲しくなれ」
「ならないわよそんなこと言われたぐらいじゃ」
1541.
「それに、沖縄に行くんならサトウキビの方が良いわ」
「あぁ? 何でだ?」
「だって、甘くて美味しそうじゃない。食べたことないけど」
「はぁ・・・全く、これだからスイーツ脳は」
1542.
「いいか、これは昨日兄にも言ったことなんだが、ゴーヤーだって野菜だから甘いんだ友だちなんだ」
「何で野菜は全部甘いっていう前提なの?」
「そうであって欲しいと私が願っているからだ」
「もはやタダの願望じゃないのそれ」
1543.
「何度も言わせるな。願いは、願うことから始まるんだ。願わなければ叶わないんだ」
「いや初めて聞いたんだけど今の」
「まあいい。それで? サトイウキビが欲しいだって? 言ったな?」
「いやもし何かの機会で沖縄に行くことがあればの話ね?」
1544.
「みずきはさっき言ったな。どうしても欲しいものがあれば沖縄でもどこにでも行くと」
「ねぇ聞いて?」
「ゴーヤーを裏切ったのは百歩譲って許すとしよう。しかし! 欲しいものを手に入れるためのやる気を出さないことは絶対に許さない!」
「あんたもう沖縄に行きたいだけだよね?」