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#1 ここは誰だ。俺はどこだ。

俺が目を覚ましたのは、身に覚えの無い石造りの床の上だった。


倦怠感と僅かな痺れ、またあまりの突拍子のなさに、起き上がる事も叶わずにいる俺の体は、先ほどまで感じていた東南アジアの亜熱帯の気候とは全く異なる、

荒涼とした、冷たく、そして酷く乾いた空気に包まれている。


俺はマジックマッシュルームでぶっ飛び、訳のわからぬ内に、この見知らぬ場所にいた。

ここが死後の世界などという世迷言は捨て置くとして、おそらくあの化け物だけではなく、店から逃げ出したのも、トゥクトゥクに轢かれて死んだのも、それらを含めすべてが幻覚で、昏睡している間に何者かによってここへ連れてこられたのだろう。


昔、地元の先輩に無理矢理見させられた「スナッフビデオ」のことを思い出した。

有り体にいえば殺人ビデオ。

まったくもって悪趣味だが、世界中に愛好家がいて、ダークウェブ上の会員制サイトで流通されているそうだ。

その被害者の多くは、孤児か誘拐されたバックパッカー。現地のギャングを通じて、高値で、或いは安値で取引されている。

その値付けの大部分は人種に左右され、安値についてはさておき、最も高値が付くのは俺のような日本人なんだそうだ。

実に荒唐無稽な話だが、それを荒唐無稽と思うからこそ今俺はここにいるのかもしれないな。

実際問題、有り得ない話ではない。

金品が目的ならぶっ倒れている間にリュックサックでも財布でも持っていきゃあいいところを、現に俺は訳の分からない場所に連れてこられているわけだし、そして何より、周囲には十名程の男女が、俺を取り囲むようして立っており、皆、アジア系の顔立ちではない。


その目的がどうあれ人身売買に巻き込まれたということならば、俺は既に買われていて、タイではないどこか、緯度かあるいは標高の高いどこかに届けられた後ということになる。


さて、どうするか。

とりあえず、手足は拘束されていないようだ。


だが走って逃げるには相手の人数が多過ぎるし、見知らぬ土地だ。


アテもない。

即座に捕まって殺されるのがオチだろう。


……もう少し連中を観察してみるか。

全員が黒いローブのようなものを身に纏っていて、その下の装いは詳しく見られないが、皮の靴を履いている。

どこかの民族衣装だろうか。

若しくはその手のコスプレか。

そういえば、俺の周りには赤い顔料(?)と、キャンドルで魔方陣が描かれていて、やたらと物々しい。

なんらかのカルト教団かもしれない。

ともすれば俺は、さしづめ儀式の生贄と言ったところか?


馬鹿馬鹿しい。実に馬鹿馬鹿しいが、わざわざ邦人を誘拐してまでの行いだ。

どうあれ、なんにせよ、煮るにせよ焼くにせよ「本気」なんだろう。


どうやら俺は今から酷い目に遭う。それだけは間違いない。


こうなりゃヤケだ。


俺は、黒ローブの連中のなかでも、一際荘厳な装飾を身に纏った、司祭か何かだろうか、まぁそんなことはどうでもいいが、取り敢えずこの、少なからず地位の高そうな初老の男に声をかけてみることにした。

その時だった。


「おい、ココはどこだ。お前らは誰だ」

まず、混乱した。確かに俺"が"そう言った。


だがそれは"タカユキタナカ"の声ではなかった。


女、若い女の声だ。


そればかりか、言語も"日本語ではなかった"


俺にとってその言語は全くの未知である筈だが、自分が発したその言葉の意味はハッキリと理解できる。


どういうことだ……俺は今、


"日本語で思考した内容を未知の言語で発話した"


しかも女の声で、だ。


考えたくもないが例えるなら、

俺という「思考」が、なにか別の「入れ物」に無理やりねじ込まれているかのような、そんな感覚だ。


そしてそれは確信に変わる。

初老の男は、返事をするでもなく近づいてきて、懐から手鏡を取り出し、それを俺に見せてきた。


俺は驚愕した。手鏡に写っていたのは、清潔感皆無のアラサーのおっさんではなく、16歳くらいだろうか、銀の髪に褐色の肌の、美しい少女だった。

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