第99話
船を見つけた俺は船先のデッキに降りたら、【共鳴】は解除され武器は紋章に戻り、マントも元の姿に戻った。
武器と分離したクモガネは俺の頭に乗る。
「お疲れクモガネ」
「キュゥ」
クモガネの頭を撫でてからクモガネを戻す。
どたどたと走ってくる足音が聞こえてくる。
「春名ーー!」
「え、ちょっバ――」
走ってくる颯音の勢いに負けて俺と颯音は船の上から海に落ちた。
「ご、ごめん……」
「……」
俺は颯音を無言で見つめてから船の後部デッキに泳いで向かう。
「な、なんか言ってよ春名!」
船に先に戻った俺は後から来る颯音に手を伸ばして引き上げる。
「あ、ありがとう……」
「……」
「なんか言ってよ!」
「……ぷっ」
笑いを堪え切れず俺は吹き出す。
「怒ってなかったの……?」
「ん? あー途中から颯音の反応が面白くて、つい」
「なんだよもう……」
「ごめんごめん。街に戻ろうぜ颯音」
「了解」
颯音は操縦席に向かい直ぐに船が動き出す。
ソファーで座っていると操縦席に行っていた颯音が戻ってくる。船が動いているってことは自動操縦にしたのか。
「おかえり」
俺の向かい側にあるソファーに颯音は腰かけると聞いてくる。
「なぁなぁ空を飛んでいたけど」
「クモガネとの共鳴だけど」
「へー、あれがクモガネの共鳴なんだ。これで全員共鳴できた感じ?」
「いや、クロガネがまだ覚えていない」
「クロガネって黒い蟻みたいなモンスターのこと?」
「……紹介してなかったっけ?」
「してもらってない、船先のデッキでみたのが初。いつ仲間にしたんだ?」
「イベント当日。そう言えば、颯音との闘いの時に呼び出してなかったな」
俺はクロガネを呼び出した。
呼び出されたクロガネは船の床を掘ろうとしたけど、直ぐに諦めて俺の足をガシガシと噛み始める。
「リアルの蟻を大きくした感じだな、なにが得意なの?」
「穴掘り」
「それだけ?」
「今のところは、まだレベルも低いからな」
「そうなんだ。あ、ヒスイとギンの紹介もしてなかったね」
颯音は薄緑色の毛の狼ヒスイと白銀色の毛の狼ギンを呼び出した。
「ヒスイがウィンドウルフ、ギンがスノーウルフ」
「「ワフ!」」
ヒスイとギンは尻尾を振って挨拶する。
「キシャ?」
「「クウン……」」
クロガネはヒスイとギンの前に行き睨むと、二体は颯音の後ろに隠れる。
「こら、二体をいじめんな」
軽くチョップをしてクロガネを叱った。
叱るとクロガネはひたすらに俺を足を噛んでくる。なんか少し痛いんだけど……
「颯音すまん」
「大丈夫だけど……足大丈夫なの?」
「うーん、まぁ少し痛いけど許容範囲」
「そっか、あ、水門が見えてきた」
颯音の言葉に釣られて窓から外を見ると水門が見えた。
颯音は二体を戻してから操縦席に向かう。船は水門を潜り桟橋に船をつける。
いつまでも噛んでいるクロガネを戻して船から降りる。続いて颯音も降りて船を回収してインベントリに仕舞う。
「これからどうする?」
「組合所で船の更新する」
「あーそろそろ切れるのか、了解」
歩き出すと向こうから場違いな紳士服の人が歩いてくる。GMのドウジマさんだ。
「ハルナ様、お待たせしました」
ドウジマさんは俺の前で綺麗なお辞儀をする。
隣にいる颯音が耳打ちをする。
「春名の知り合い?」
「GMの一人のドウジマさん」
「GMなの!?」
「お初にお目にかかりますハヤト様、ドウジマと申します」
「え、なんで俺の名前を?」
「お二人は数いるプレイヤーの中でも隠し要素でもあるテイムモンスターを所持しているプレイヤーですので」
「あ、なるほど……」
「それでドウジマさん、結果はどうなりました?」
俺は話しを無理やり変えてドウジマさんに尋ねた。
「申し訳ございません、お渡しすることはできません」
「そう、ですか……」
「ですが、こちらを受け取りください」
ドウジマさんから黄色を帯びた茶色ないし黄金色の近い手に収まる程の球体を渡される。
「これは?」
「琥珀石というアイテムです。使い切りになりますがこの石を特定のモンスターに翳すと進化させるアイテムになります」
「へぇーそんなアイテムがあるんだ」
「スタッグビートル系は沼地エリアに存在します、ここまで言えばわかりますよね?」
「自分で手に入れろってことですね」
「その通りです。では、私めはこれで。ご武運を」
「ありがとうございますドウジマさん」
ドウジマさんは踵を返して去っていく。
「春名、次行くのは沼地エリア?」
「付き合ってくれるのか?」
「もちろん! 次の目的も決まったしさっさと組合所に行こうぜ」
「サンキュー颯音。まぁ沼地エリアに行くのは明日だけどな、もう夜中だし」
時計を見るともう夜中の一時を過ぎていた。
「めっちゃいく雰囲気だったんだけど……はぁ……しゃあない、明日だな」
「おう」
俺たちは駆け足で組合所に向かい、船の貸出期間を一週間延長してログアウトした