第90話
颯音は拳を構えると一瞬で姿を消して、気が付くと俺の目の前にいて、拳をもろに顔面に受け吹き飛んだ。
「キュゥ!?」
背中に居たクモガネが【飛行】を使ってくれたのか、空中で姿勢も戻し着地した。
「助かったよクモガネ」
「キュゥ?」
心配そうな声が聞こえてくる。
「大丈夫だ、少し油断しただけだ」
にしても颯音の姿が見えなかった。二体いた狼のどっちかのスキルでスピードが格段に上がったんだろう。それに、めちゃくちゃいてぇ! 絶対倍にして返す!
手を合わせて銀色のひし形の物体を作る。見えないなら広範囲で攻撃あるのみだ!
俺は地面に向けて投げ叫んだ。
「バースト!」
地面から沢山のワイヤーが伸び木々をなぎ倒しながら展開していく。
「マジか……」
その中を颯音は掻い潜って近づいてくる。
俺はさらにひし形の物体を作りだし、起動していく。
「くっ……! ズルいぞ春名!」
「うっせぇ! 近づけるもんなら……!」
今度は颯音に向かって投げた。
「近づいてみろや! バースト!」
更に広範囲の木々をなぎ倒していく。
颯音は距離を取り、両手を上で組み俺に向けてくる。
「【共鳴技・コキュートスブレス】!」
颯音の拳から猛吹雪が吹き荒れ、俺が放ったワイヤーを全て凍らせて迫ってくる。
「キュゥ!」
背中にいたクモガネが前に出てきて翅を広げて俺を包み込むと、俺は猛吹雪に飲まれた。
クモガネは【凍てつく体】を使い体力を回復させながら耐えていた。
音が止みクモガネが退いてくれて、辺りを見渡すとなぎ倒された木々の上や、地面に雪が積もっていた。
「あれを防いだのかよ春名」
「クモガネのおかげだけどな」
俺はクモガネの頭を撫でた。
「お前の共鳴技とクモガネの相性は悪いようだな」
「一応予想はしてたよ。春名のあの攻撃を止めるのが目的だがら気にしてない」
俺は手を合わせてひし形の物体を作る。
『ハルナ、それがラストだから大事に使ってよね』
「その情報を今言わないで欲しかったんだが……了解」
颯音が駆け出した瞬間に遠くの方で大きな音ともに土煙が上がる。
すると、沢山のプレイヤーたちが走ってきた。
「お、おい! なんでここだけ開けてて、雪が積もってんだよ!」
「そんなこと言っている場合か! 逃げないとやられるぞ!」
俺と颯音の間をプレイヤーたちは必死な表情で通り過ぎていく。
「春名……俺たちも逃げた方いいんじゃね?」
「同感!」
俺と颯音は逃げたプレイヤーたちの後を追いかける。
直ぐに木々をなぎ倒しながら、プレイヤーたちが逃げて原因が姿が見せる。
何でも切れそうなギザギザした大きな顎にオレンジ色の輝く甲殻を持つとてつもなくデカいクワガタムシだった。
逃げながら名前を見ると、アンバースタッグビートルと表示された。うん、クワガタ確定だな。なら、試してみるか。
俺は足を止め迫りくるアンバースタッグビートルに振り返る。
『ハルナ!? 何してんの!?』
『逃げないとヤバいよ!』
心配する二体をよそに俺は突っ立つ。
すると、アンバースタッグビートルは俺の前で攻撃をしないで滞空をする。
『止まった……?』
『なんで!?』
何が起きたのか分からないコガネとシロガネの声が頭に響く。
このイベント専用エリアでも女皇蟲の加護が適用されるようだ。少しだけ、ほんの少しだけビビったけど成功してよかった。
俺は胸を撫でおろす。
「俺がこいつに攻撃をしない限り敵対はしないんだよ」
ドンと音を立てアンバースタッグビートルは地面に降りた。
俺は手を伸ばして触れてみた。意外とツルツルしてんだな。
カブトムシよりかはクワガタの方が好きな方だから、通常エリアで仲間にしたいな。
「なぁ、乗ってもいいか?」
言葉が通じるか分からないけど一応確認してみるけど、アンバースタッグビートルはなんも言わないし動かない。
「そんじゃ乗るよー、クモガネ飛ぶぞ」
「キュゥ」
俺とクモガネスキル【飛行】を使いアンバースタッグビートルの背中に飛び乗る。
「ゴオォォォンン!」
突然、アンバースタッグビートルが鳴くと翅を広げ飛び出す。
俺は振り落ちないように掴めそうなところを見つけ掴みしゃがんだ。
その間にクモガネを戻しておく。
一定の高さを保つとアンバースタッグビートルのスピードが落ちて、周りを見れる余裕が生まれた俺は見渡すと混在しているエリアが視界に広がる。
「凄い……」
惚けていると別のエリアで暴れている二体のモンスターがみえた。
「なぁ! あいつら倒しに行かないか!」
そう尋ねるとアンバースタッグビートルは雪原エリアに向かった。