第84話
エレナさんから全力で逃げてくれたためかクモガネに疲れが見え始めている。
「クモガネ、降りよう」
「キュゥ」
少しずつ降下していき枝に雪が積もっている大木に降りる。
「よっと、ありがとなクモガネ」
「キュゥ……」
背中から離れたクモガネは枝に止まる。
やっぱり疲れていたか。
俺はクモガネを持ち上げ木を背にして座り、インベントリからフローズンベリーを取り出してクモガネに食べさせてあげる。
クモガネは美味しそうに食べる。少しは疲れが取れればいいけど、あんま無茶はさせられないな。
クモガネの頭を撫でると見上げてくる。
「なんでもない」
遠くを眺めるとあっちこっちで激しい戦闘音が聞こえてくる。
みんな戦っているようだな。
「キュゥ!」
突然クモガネが飛び立ち、翅を羽ばたかせると何かがクモガネの翅を掠めて、クモガネが落ちていく。
俺は咄嗟に枝を蹴りクモガネを抱きかかえ一緒に落ちる。
「いてて……下が雪でよかった……」
俺は体を起こしクモガネの様態を見る。翅が少し欠けてしまって体力は少し減ってしまった。
「大丈夫か? クモガネ」
「キュゥ!」
クモガネは頷いてくれた。とりあえず一安心か。
すると、雪を踏みしめる音が近づいてきて顔を上げると数人が俺のことを囲っていた。
「なんでモンスターがいるんだ?」
「あれが特殊個体ってやつのなの? 弱すぎ!」
「雑魚だな! アハハ!」
ゲラゲラと笑うプレイヤーたちに俺は怒りを感じ立ち上がる。
「戻れクモガネ。コガネ」
俺はクモガネを戻してコガネを呼び出す。
「おい、違うモンスターが出てきたぞ!? なんだあいつは!」
プレイヤーたちは騒ぎ出す。
静かにコガネに言う。
「コガネ、【共鳴】だ」
コガネは俺をちらっと見てから光の粒子になって武器と一体になる。
『ハルナ、怒ってるの?』
「ちょっとイラっとしているだけだ」
『……あとで話してよハルナ』
「わかった」
その時、何かが飛んできて俺はワイヤーを展開して防ぐ。
「矢か……」
さっきクモガネがやられたのはあれか。
「さっさとやるぞ!」
男性のプレイヤーが言うと他のプレイヤーたちが武器を構えて突撃してくる。
「【共鳴技・スパイダースネットスパーク】!!」
全ての電気を帯びたワイヤーを全て展開して、突撃してくるプレイヤーたちを絡めとる。そして、電気が流れたプレイヤーたちは悲鳴を上げ、何人か耐えれず消滅する。
弓で攻撃していたプレイヤーはいつの間に逃げだしていた。
「ぐっ……なん、なんだお前……一人で共鳴技だ、と……」
まだ息のあるプレイヤーの呟きが聞こえる。
「一人じゃねーよ」
また電気が流れ、残りのプレイヤーも消滅した。
倒した人数は七人とウインドウ画面が表示される。
「コガネ、矢を撃った奴がどっちに行ったか分かるか?」
『うーん、わかんない』
「そっか……」
『少しはスッキリした?』
「微妙かも。とりあえずここから離れよう」
俺はコガネと【共鳴】をしたまましばらく走ると、雪原エリアと砂漠エリアの堺に到着した。
雪原エリアは日も差さないほどに灰色の雲で覆われていたのに対して、砂漠エリアは雲一つない青空だ。
「すっげぇ空だな……」
砂漠エリアに足を踏み入れると気温が上昇した。
しばらく砂漠エリアにいるし、装備投影を解除しよっと。
「大分マシになったな」
『ねぇ、いつになったらはなしてくれるの?』
「歩きながら話すよ」
歩きづらい砂漠を歩きながらさっきあった出来事をコガネに話す。
『そんなことがあったんだ……クモガネは大丈夫なの?』
「大丈夫っぽいけど、ちょっと呼び出してみる、クモガネ」
呼び出したクモガネは辺りをキョロキョロしてから俺も見つけてゆっくりと飛んでくる。
体力は減っていて翅は少し欠けているけど問題なく飛んでいるな。
「クモガネ、【凍てつく体】だ」
「キュゥ」
クモガネは砂の上に降り翅を広げると周りの気温が下がる。ステータスを見てみるとクモガネの体力がどんどん回復していく。欠けた翅も元通りになっていて俺は胸を撫でおろす。
俺はクモガネの頭を撫でながら言う。
「クモガネ、俺を庇ってくれてありがとな。嬉しいんだけど、あんまり無理すんなよ? すっげぇ心配になるからさ」
「キュゥ?」
首を傾げるクモガネ。俺は微笑みクモガネの頭をぽんぽんする。
「あーあー、ごほん。プレイヤーの皆様聞こえますか!」
上空からGMの声が響き渡る。
「まもなく一時間が経過しますので、モンスターが出現します! 出現する場所は……」
上空にルーレットが出現して矢印が回りだして止まる。
「雪原エリアになります! 雪原エリアにいるプレイヤーの皆様頑張ってください!」
GMのアナウンスを聞いてエリア移動しててよかったと内心思うのだった。
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