第73話
颯音にガッツリ怒られた後、俺たちは転移門を直ぐに潜って雪原エリアに行く。
このエリアに来たときにルーシャさんに教えて貰ったお店に行き装備投影をしてもらってから街の外に繰り出した。
マップを見ながらフローズンベリーが生えている場所に向かう道中で、大きい岩が散らばっているところに着く。どう見てもアイスゴーレムいるよな……
「どうする?」
「遠回りして避ける。あいつはもう戦いたくない……」
相当アイスゴーレムと戦いたくないのか嫌そうな表情をする颯音。
「俺も戦いたくないから遠回りするか」
俺たちは真ん中を突っ切らないで少し離れた状態で外周に沿って歩いて行くことにした。
少し進むと雪煙が立ち込めて激しい戦闘音が聞こえてくる。
「春名、誰かがアイスゴーレムと戦っているのかな?」
「そうじゃね?」
雪煙が晴れるとアイスゴーレムと戦っていたのは大きな斧を片手で操る全身鎧の人だった。
遠くから周りを見ても仲間の姿が見えない。一人で挑んでいるのか凄いなあの人。
「あの人レベルカンストしてるよな。どう思う春名?」
「レベル40のアイスゴーレムに単身で挑んでいるんだしそうでしょう」
「あの人のように強くなりたい。春名を守れるぐらいに」
「恥ずかしい台詞を良く言えるな。ていうか、盾役の俺に言う台詞じゃねーよ」
「あ、確かに」
そんな話をしていると戦闘音が止んだことに気づいて視線を戻すと、アイスゴーレムは倒され鎧姿のプレイヤーだけが立っていた。勝っちゃったよあの人。
「おお! すっげぇ勝っちゃったよあの人! 凄くね!」
颯音は目をキラキラさせ興奮して気味で聞いてくる。
「そうだな」
「フローズンベリーを取りに行ってから時間ギリギリまでレベル上げしようぜ」
「おう」
歩き出そうとしたときいつの間にか鎧姿のプレイヤーは俺たちの目の前にいてジッと見ていた。
鎧姿のプレイヤーは会釈してくるから俺と颯音も返すと立ち去っていく。
「何だったんだだろうあの人……」
「さぁ……?」
俺と颯音は首を傾げて鎧姿のプレイヤーが姿が見えなくなるまで見送った。
それから、俺たちはフローズンベリーが生えているところに着き別れて採取を始める。
「結構な量が取れたな」
俺は颯音にメッセージを飛ばす。
「颯音、そっちはどんな感じ?」
『もう少し取ったら戻るよ』
「了解」
俺は近くにある座りのちょうどいい石に腰かけ待つことにした。
一人で待つのも暇だった俺はクモガネを呼び出す。
「キュゥ!」
いつも俺の背中にくっついていたクモガネが翅を動かし元気にそこら辺を飛び回っている。
「めっちゃ元気じゃんクモガネ」
「キュゥ!」
俺の周りをぐるぐると飛び回るクモガネ。
海原エリアだとこんなに活発に動いていなかったのは暑かったからなのか? それだったなら申し訳ないことしたな。
クモガネは俺の体を足でがしっと掴んで翅を動かし持ち上げようとする。
だけど、俺が重いせいか持ち上がらない。
「クモガネ、流石に無理だと思うよ」
「キュゥ……」
クモガネはしゅんとして足を離す。
落ち込んでいるクモガネの頭を俺は撫でた。
その時、ドシドシとなにかの足音が聞こえ、音がする方を見ると不気味な顔がついている凍り付いた木が歩いてくる。
モンスターの名前はアイストレント。レベルは30。前回ボーンシャークを倒したことで俺のレベルは29だけど、念のために颯音に早く戻ってくれとメッセージを送る。
「コガネ、シロガネ」
呼び出したコガネとクモガネをコートに入れる。
「キュゥ!」
やる気に満ちているクモガネは俺の前に出るけど、俺は押しのけて前に出た。
クモガネは進化したばっかりでレベル1で、有効打になりそうなスキルも持ち合わせていない。そんなクモガネを前に出させるわけにはいかない。
「クモガネ、後ろにいて」
「キュゥ!」
クモガネは前に出ようとする。どうしたんだ?
疑問に思っているとクモガネが語りかけてくる。
『ハルナのこと守りたいって』
「マジか……」
颯音にも言われ、クモガネも言うのか……俺ってそんな頼りないのか? なんか色々と複雑な気持ちになる。
すると、アイストレントは枝を揺らして鞭のようにしならして攻撃をしてくる。
俺はクモガネを掴んで、急いでワイヤーを伸ばし、アイストレントの攻撃を避ける。
「コガネ、クモガネに今回は後ろにいてくれ、それと俺はそんな弱くないって伝えてくれ」
『仕方ないなぁ~』
コガネは武器と離れクモガネに話しかける。理解したのか諦めたのか分からないけどクモガネは俺の背中にくっつく。ちょっとやりずらいけど、クモガネを戻すと経験値が入らないからこれで行こう。
さて、やりますか!