第72話
街の水門を潜り桟橋に船を止める。
操縦席から船内に戻ってくる颯音が戻ってくると言う。
「春名、なんかステルス機能がさ他のプレイヤーにも見えないようになってたんだけど弄った?」
「実は颯音がログインする前に知らないプレイヤーに後をつけられてたんだ」
「は!? なにそれ聞いてないんだけど?」
少し怒り気味になる颯音。
「装備の効果とクモガネのスキルのおかげで振り切ったから安心してくれ」
「そういうことじゃなくて! なんでそんな大事なこと言ってくんないんだよ!」
「……お前に心配かけたくなくて」
「言ってくれない方が心配になるの! 次からは言ってくれよな!」
「わ、わかったよ」
「絶対だかんな!」
颯音は小指を立てるから俺は指切りをする。
「他エリアに行きたいのもそういうこと?」
「それもあるけど、実際にフローズンベリーが欲しいのは本当」
颯音は長い溜息を吐く。
「目星は付いてんの?」
「前に颯音の装備を作った時遅れただろう? 多分その時の奴ら」
「顔は覚えている?」
「一応は覚えている」
「居たら教えて。一発ぶん殴ってやる」
「まだなんもされてないからしなくていい!」
俺は必死に颯音を止める。
「たく……この件は一旦置いといて雪原エリアに向かおう」
「はいよ」
コガネとシロガネとクモガネを戻す。
「先に俺が出るから颯音はその後から出て」
俺はクモガネのスキル【凍てつく鱗粉】を使い姿を消してように見せ外に出る。
外からメッセージを送ると颯音が出てくる。颯音に船を閉まってもらって裏路地に向かい、そこでスキルを解除する。
「建物の屋上を伝って中層に繋がっている通路に行こう」
「おお、なんか忍者みたいだ」
俺はコガネを呼び出す。
「シュ?」
「コガネ、【共鳴】を頼む」
「……」
コガネは俺の顔を見上げているだけ動こうとしない。
俺はインベントリから串焼きを渡すとあっという間に平らげると、光の粒子になって武器と一体になってくれた。毎回要求してきそうだな。
ワイヤーを伸ばし一気に屋上に上がる。俺の後から颯音がついてくる。そのまま、屋上を伝って移動する。
中層に行くための通路手前で路地裏に降りて辺りを見渡す。
「春名、そいつらいる?」
「居ないみたいだけど用心に越したことはないな。スキル使うから颯音は俺の前を歩いて他のプレイヤーにぶつからないようにしてくれ」
「わかった」
コガネを戻し路地裏から出て作戦通りに進んで行く。今のところはいないみたいだな。
通路に入った俺たちは少し早足で進む。しばらく進むと前方から俺の後をつけてきたプレイヤーたちが見えてくる。颯音に教えると警戒しそうだから言わないでおこう。俺は心の中で謝る。
そのプレイヤーたちとすれ違ったけど、どうにかバレずに済んで通り抜けた。
人通りが少ないところで俺はスキルを解く。どうにか体力は持った、危なかったけど。
「よし、体力は全快したけど……時間か……」
時間を見ると零時間前だった。
「春名、今日はこれぐらいにして明日にしよう」
「これ以上やったら兄ちゃんに没収されちゃうし、しゃーない。そんじゃ明日」
俺と颯音はログアウトした。
「……なんか疲れた」
部屋の明かりを消して俺は直ぐに眠りに就く。
翌日、学校が終わり俺と颯音は速攻家に帰宅する。
「ただいま!」
玄関を開けるなり俺は部屋に戻る。
「春名? そんな慌ててどうした?」
兄ちゃんがドアを開けて部屋に入ってくる。
「ちょっとやることがあって。兄ちゃん夕飯は後で食べるよ」
「……冷蔵庫に入れとくから温めて食えよ」
「うん、わかった」
俺はヘッドギアを手に持つ。
「あんま遅くまでやるなよ~」
そう言ってに兄ちゃんはドアを閉めていく。
ちょうどいいタイミングで颯音から連絡が来て俺もログインした。
「春名、準備はいい?」
「おう」
スキルを使って颯音に前を進んでもらって俺は後ろからついて行く。
転移門の列に並ぶ俺たち。今日は人が少ないし間に合うな。
「今日も見つからないな」
「他のエリアに行ってるのかもしれない」
俺たちの後ろに例のプレイヤーたちが並んだ
嘘だろう、なんで後ろに並ぶんだよ!
颯音の顔バレは避けないといけない。やるしかないか。後で颯音に怒られるな。
俺は小声で颯音に伝える。
「振り向かないで聞いて」
颯音は静かに頷く。
「囮になるから絶対に俺の名前を呼ぶなよ。説教は後で聞くから」
スキルを解除して俺は姿を見せる。
「あ、こいつ!」
案の定、例のプレイヤーたちは目の前に現れた俺に驚く。
「火山エリアまでついて来いよバーカ」
颯音を押して転移門に近づいて火山エリアを選んで転移門を潜る。
「あっつ……」
想像以上に気温が高くて額から汗が垂れる。
直ぐに転移門から離れ隠れた。
「どこに行きやがった……!」
「探すぞ……!」
例のプレイヤーたちは俺が隠れている方とは逆の道に向かう。
俺はプレイヤーカードの颯音を選択して転移する。
転移したら颯音はすっごい形相をしていた。
「俺に言うことあるよね?」
「すみませんでした!」
俺は土下座して謝った。