第7話
ヴェルガの後ろをついて街の中を進んでいくと大通りに出たらしく、あっちこっちのお店から活気のある呼び込みの声が引っ切り無しに上がる。
肉が焼かれる匂いに釣られてコガネが俺の腕から抜け出そうとするのを止める。
「ダメ。大人しくしてて」
「シュ!」
「後で買ってあげるから――いたっ! おい、噛むなよ!」
「シュ!」
余程食べたいのか引こうとしないコガネに俺は軽く溜息をついた。
「分かったよ……買ってくるから大人しくしてくれよ」
「シュ」
コガネは頷いてくれた。
先に行くヴェルガを呼び止めて少し待ってもらった。
コガネを連れて串焼きが売っている店に並ぶ。待っている間、そわそわしているコガネをひたすら宥めた。
「いらっしゃい!」
「おじさん、串焼きください」
「はいよ!」
店主にお金を渡して熱々の串焼きを詰めた袋を受け取った。
ヴェルガの所に戻り、コガネが串焼きをあげると美味しそうに食べ始めた。
ヴェルガにも串焼きを渡して食べ歩きしながら大通りを進んでいく。しばらくすると長屋みたいな建物の前に到着した。
俺は横にいるヴェルガに聞く。
「ここってヴェルガの家?」
「一応家かな? 同僚と共同で使ってるけどね。今相方いないからどうぞ」
「うん。お邪魔します」
家の中はそこそこ広く最低限な家具が置いてある程度だ。少し殺風景だなと思ったけど本人には言わない。
椅子に座って待っているとコガネが串焼きを要求してくる。仕方なくあげることにした。
お茶を淹れてくれたヴェルガは俺の向かい側の椅子に座り話し始めた。
「それじゃ説明するね。さっきハルナがしたのはテイムと言って、モンスターとの間に絆が生まれると仲間に出来る現象の事だよ」
「モンスターとの絆?」
「ハルナの場合は最初の時のゴブリン戦とさっき言ってたロングエイプ戦でのスパイダーとの共闘かな? それがきっかけだと思うけど」
それで、とヴェルガは続ける。
「テイムすると、効果とか威力とか弱体化しちゃうけどテイムしたモンスターのスキルが使えるようになるんだ」
「弱体化は痛いけど、それはそれで便利だね。他にはないの?」
そう尋ねるとお茶を一口啜ってからヴェルガは口を開く。
「ハルナ、メニュー画面を開いてくれる? そこからその子のステータスが見れるようになっているんだけど……」
ヴェルガに言われた通りにメニュー画面を開くとテイムの項目が増えていて、そこからコガネのステータスやスキルが確認できた。
更に目を通していくと進化の項目を見つけた。
コガネを中心に線が伸びているけど、条件が満たされていないからか選択することが出来なかった。
この条件が揃えばコガネはスパイダーから別の何かに進化するってことだよな。そう思うと見てみたい。
「どう? 見られた?」
「え、あ、うん。育成要素があるの面白いね! でも、なんでサイトとかに載ってないんだろう。てか、なんでヴェルガはテイムのこと色々知ってるんだよ」
広告を見てから公式サイトとかひと通り見たけど、一切テイムに関しての記事はなかった。
だけど、NPCのヴェルガは知っている。不思議に思い俺は尋ねる。
「ごめん、それ以上は言えないんだ」
「そっか。了解、隠し要素だと思って楽しむよ」
いつの間にか眠っていたコガネを優しく持ち上げる。
「色々教えてくれて助かったよヴェルガ。そろそろ帰るよ」
「分かった。あ、そうだ。その子に向かって戻れって言ってみて」
「? 戻れコガネ」
そう言うと眠っているコガネが光の粒子になり紋章に吸い込まれていった。
「へぇ~出し入れ出来るんだ」
「分からなくなったらいつでも聞きにきていいからね」
「わかった。それじゃ、お邪魔しました」
ヴェルガに見送られ家を後にした俺は広場に戻りログアウトした。