第64話
呆気なくテイムしてしまって呆然としていると雪を踏む音が聞こえ振り向くと颯音とルーシャさんがこっちに来ていた。
「こんなところにいたんだ春名、探したよ~」
「何してるの?」
ルーシャさんが首を傾げて尋ねてくる。
「え、あ~……なんか新しいモンスターをテイムしました」
「「えええええ!?」」
近くで驚かれて耳が痛くなった。
「凄いじゃん! これで三体目? 羨ましい!」
「見せて見せて!」
「それじゃ……クモガネ」
右手の紋章から光の粒子があふれ、雪の上に真っ白な幼虫フロストモスが姿を見せる。
「また虫かよ!」
「なんか餌付けしたらテイムできたんだよ」
「餌付けって……そんなでテイムの出来んの? 俺もしてみよう」
「敵対しないのが大前提だけど頑張れ」
「おう」
さっきから静かにしているルーシャさんに視線を向けると顔を青ざめていた。
「ルーシャさん、大丈夫ですか?」
「え……! う、うん……大丈夫……」
ルーシャさんはゆっくり後退して木の後ろに隠れた。
「あの……もしかして、幼虫系苦手なんですか?」
俺がそう聞くとルーシャさんは凄い勢いで首を縦に振る。
「ご、ごめん。芋虫は苦手なの……」
「了解ですー」
俺は足元にいるクモガネの頭を撫でる。
「一旦戻すよ。戻れクモガネ」
クモガネは右手の紋章に吸い込まれて行く。
「もう、いない?」
ゆっくりと近づいてくるルーシャさん。相当苦手なんだな。
「芋虫がダメなだけで、蝶とか蛾とかは平気で?」
「それは平気」
平気ならクモガネが進化するまではルーシャさんの前ではなるべき呼び出さないようにしないとな。
「そう言えばフローズンベリーは大分集まったんですか?」
「うん! これぐらいあれば問題ない!」
「それじゃ海原エリアに帰りますか」
凍り付いた森を抜け俺たちは三十分程掛けて街に戻った。
転移門に行く前に組合所に立ち寄りアイスゴーレムの核を換金する。ルーシャさんが言ってた通りに高額で売れて懐が一気に潤った。本当にありがたい。
ルーシャさんにもお金を渡し転移門に向かう。
「あ。颯音、ルーシャさん。ちょっと立ち寄りたいところがあるんで、一旦パーティー離れますね」
「どこに行くんだ?」
「最初の街。直ぐに戻ってくるよ」
「わかった」
転移門から伸びる列に並び順番を待つ。
順番が回ってきて転移門の前に行き、俺は樹海エリアを選んで門を潜った。
「うーん、なんか久しぶりに来たな」
変わらない街並みになんか少し安心する。
そんなことよりもヴェルガを探さないと。自宅に居ればいいけど。
街の中を走りヴェルガの家に到着する。玄関のドアを叩くと「はーい」とヴェルガの声が聞こえ、ドアが開くとヴェルガが出てくる。
「久しぶりヴェルガ」
「ハルナ! 久しぶりだね!」
「今、時間ある?」
「ああ、大丈夫だ。立ち話もなんだし」
「じゃあお邪魔します」
ヴェルガの家に入りリビングに案内され椅子に腰かける。
ヴェルガはお茶を俺の前に置いてから向かい側の椅子に座る。
俺は一口啜ってからインベントリにあるクイーンアントの卵をヴェルガに見せる。
「それってモンスターの卵?」
「ヴェルガなら孵化の仕方知ってるのかなって思って」
「一応知っているけど今は出来ない。用意しておくから今度の白の日、この時間に家に来れるかい?」
白の日はリアルで言うと日曜のこと。今の時間は……え、もう朝の五時なの!? ゲームをしていると時間が過ぎすのは早いな。
ちなみに、月曜は黒の日、火曜は赤の日、水曜は青の日、木曜は緑の日、金曜は黄の日、土曜は橙の日だ。
てことは、日曜の五時にヴェルガの家か。問題ない、かな~。
「大丈夫だと思う」
「じゃあ決まりだ」
約束もしてクイーンアントの卵をインベントリに仕舞い、まだ温かいお茶を口に含む。
「そうだ。もう他のエリアに行ったの?」
「あ、うん。海原エリアに雪原エリアには行ったよ」
「そうなんだ。NPCは他のエリアに行けないからさ、ハルナの冒険談を聞かせてくれないか?」
「俺の話でよければ」
俺は時間が許す限り、ヴェルガに今までのことを話し尽くした。