第63話
「颯音、言っておきたいことがあるんだ」
「なんだ?」
「所持金ほとんどなくなった」
「はぁ??」
颯音は体を起こし驚く。
俺は颯音に新しく変形させた魔導書の仕様を伝えた。
「春名って昔からここぞっていう場面で外すよな~」
「うっせぇー」
俺と颯音が笑いあっているとルーシャさんが走ってこっちに向かってくる。
「ハヤト、体力は……?」
「体力ならシロガネのおかげで回復しました」
「ビー!」
颯音のコートの中からシロガネが返事をする。
「そう……」
颯音の言葉を聞いてルーシャさんは安堵する。
「さっきの魔法、ハルナ?」
「ええ。所持金ほとんど消えましたけど……」
「どういうこと?」
颯音にもした魔導書の仕様をルーシャさんに伝える。
「一文無し」
「あはは……まぁアイスゴーレム倒せたし結果オーライで」
「ふふ。あ」
ルーシャさんはインベントリから両腕で抱える程の大きさで透き通った球体を取り出す。
「アイスゴーレムの核。さっき拾った。これ売れば大儲け!」
サムズアップするルーシャさん。
「へぇー高く売れるんですね」
「大きいモンスターからたまに取れる。運良かった」
「じゃあそれを換金して山分けですね」
そう言うとルーシャさんは首を横に振る。
「私、ほとんどなにもしてない。二人にあげる」
「そんなことないですよ。ルーシャさんも時間を稼いでくれたじゃないですか。だから、ルーシャさんも受け取ってください」
「そうですよルーシャさん! 受け取ってください」
「うぅ……わかった……」
俺と颯音の説得のおかげでルーシャさんは受け取ってもらえることになった。
「なんか、人が集まってきてるっぽいから移動した方がいいかも」
「そうだな」
颯音の意見で俺たちは移動することにした。
しばらく歩くと凍り付いた木々が生えている森に到着する。
「あった!」
一本の木に近づくルーシャさんは根本をガサゴソ探り戻ってくる。
「フローズンベリー」
ルーシャさんが見せてくれたのは凍り付いた苺のような実だった。
「これを探していたんですか?」
俺が尋ねるとルーシャさんは頷く。
「どれくらいの量がいるんですか?」
「沢山ほしい」
「じゃあ手伝いますよ」
「おう!」
「ありがとう! 木の根元にあるから」
「そんじゃ手分けしてやりますか」
俺たちは三方向に別れそれぞれフローズンベリーを探すことにした。
根元を探してみると、意外とフローズンベリーは生えていてそれなりに収穫はできた。
「シュ!」
コートの隙間からコガネが顔を覗かせ足を器用に使い指さす。
「あっちになんかあるのか?」
「シュ」
頷いたコガネは直ぐにコートの中に引っ込む。
コガネが指した方に行く途中の木の根元にフローズンベリーが生えているのを見つける。
「……ん?」
もぞもぞとなにかが動いた。フローズンベリーの近くで動いている気がして俺は慎重に近づく。
周りの雪景色に溶け込んでいるけどモンスターいるな。
モンスターの名前はフロストモス。レベルは20。見た目はシロガネが幼虫の時よりもやや短い感じだ。
モスって何だっけな~蛾でいいんだっけ? 帰ったら調べよう。まぁとりあえず蛾の幼虫か。こんな近くでまで来ても攻撃してこないし、敵対モンスターじゃないみたい。
フロストモスは俺が取ろうとしていたフローズンベリーをむしゃむしゃと食べる。なんか可愛いなこいつ。
フローズンベリーを食べ終わったフロストモスは次の実を探しに動き始めるけど、すっげぇ移動が遅い。シロガネが幼虫の時を思い出すな。
俺はインベントリから収穫したばかりのフローズンベリーをフロストモスの前に置く。
すると、フロストモスはもしゃもしゃと食べ始めた。
「ビー!」
「シュ!」
コガネとシロガネが顔を出す。
「お前たちも食うか?」
フローズンベリーを出すとガシガシとコガネとシロガネは食べ始める。
この実、意外と硬いのかな?
試しに齧ってみたら硬くて食べるのを諦めた。
「ムキュ!」
よそ見をしていたら、いつの間にかフロストモスは足元にいて登ろうとしていた。
俺はフロストモスを持ち上げ近くの木を背にして腰を下ろして、胡坐を組んで上にフロストモスを乗せフローズンベリーをあげた。
何度もフロストモスにせがまれて俺は仕方なく与え続ける。
こいつ逃げないし、テイム出来んじゃね?
そう思った俺はフロストモスの額に手を翳してパッと思いついた名前を呟く。
「……クモガネ」
名前を呟くと右手にある紋章が光りだし、フロストモスが光の粒子になって吸い込まれて行く。
「成功しちゃったよ……」