第60話
俺と颯音、ルーシャさんは中層にある転移門の待機列に並んでいる。
「雪原エリアってことは寒いんだよな」
「颯音の格好は肩出てるし寒そう」
「あっちで、暖かい装備売ってる」
「なるほど。先ずはそれを買いに行かないとだな」
「おう」
「ルーシャさんは持っているんですか?」
「うん、一応持ってる。お店出すとき下見に雪原エリア行ったとき買った」
そんな会話をしていると順番が来て転移門の前に並んで、雪原エリアに選んで俺たちは転移門を潜った。
転移門を潜ると潮の香は消えて、代わりに灰色の空からぱらぱらと雪が降っていた。
雪原エリアの街は外壁に囲まれ濃いめの青色の煉瓦を使った建物が多い印象だ。
まぁそんなことよりも。
「「寒っ!!」」
寒すぎて颯音と声が重なる。
周りにいるプレイヤーをみるとモコモコで暖かそうな毛皮のコートを着ていた。
「お店こっち」
白い毛皮を着たルーシャさんが先導してお店に案内してくれた。
店内には色とりどりで様々な見た目をしたコートがずらりと並んでいた。
「このお店、雪原エリアに初めて来た人は半額にしてくれるの」
「へぇー、そうなんですね」
「私ここにいるから」
「分かりました」
俺と颯音は別れて店内を見て回る。
俺は無難に茶色の毛皮のコートを選ぶ。
「颯音、どれにするか決めたのか?」
「一応決めたけど動きづらい……」
俺はそこまで動かないからいいけど、颯音の戦闘スタイルだと重たい装備は逆に邪魔なんだろう。
街中は寒さでダメージを受けないからいいけど、街の外は寒さでダメージを受けてしまう。なんかいい方法があればいいんだけど。
「それならいいのがある」
いつの間にか近くに居たルーシャさんが颯音の手を掴んでカウンターに向かうと執事服を着たNPCの男性店員さんが対応する。
「いらっしゃいませ」
「装備投影お願いします」
初めて聞く言葉に俺はルーシャさんに質問した。
「ルーシャさん、装備投影って?」
「見た目と効果一つだけ、別の装備に投影できるの」
「ああ、それを使えば颯音の動きも阻害されず、寒さ対策になるってわけですね。よかったな颯音」
「おう。じゃあさっきのコート持ってくる」
俺と颯音はそれぞれ選んだコートを購入して装備投影をした。
俺もこのマントを外したくなかったからちょうどよかったぜ。
お店を出ると上空から機械の球体が飛んでくる。
「雪原エリアにようこそ! 私案内役を努めさせて頂きますカルチと申します」
「プレイヤーカードを見せればいいんだっけ?」
俺と颯音はカルチと名乗る案内役の機械の球体にプレイヤーカードを見せるとスキャンしていく。
「ご協力感謝します。説明が不要かと思いますが、なにかお困りなことがあればメニュー画面にあるヘルプを押して頂ければ飛んできますので。それでは良い旅を!」
カルチは再び上空に上昇して何処かに飛んでいった。
「春名、クラーケンの触手について海原エリアの案内役のカルタに聞けばよかったんじゃね?」
「あー確かに。カルチを見るまでは忘れてた。今度海原エリアに行ったら聞くか」
「モレルから話は聞いてる。今度行くとき私も誘って」
「あー……その件なんですが……今日ログインしたら島が消えてしまってて……」
「そう、なんだ……モレルは知って……ないか。今日来れない」
「そうだったんですね」
「リアルでも会うから私から伝えとく」
「それならお願いしてもいいですか?」
「任せて」
話も一段落した俺たちはフィールドに出るために外門に向かう。
「そう言えばルーシャさんのジョブって剣士なんですよね。盾役どうします?」
ルーシャさんのジョブはプレイヤーカードを交換したときに剣士と分かった。
剣士には剣と盾を装備しているジョブだ。どっちが盾役やるか尋ねる。
「攻撃スキルしかないから盾役できないよ?」
「え、でも剣士って盾装備してませんでしたっけ?」
「盾捨てて剣一本でやってる」
モレルさんも脳筋だと思っていたけどルーシャさんも結構脳筋だったか……口には出さないけど。
「じゃあ盾役は俺に任せてください」
「うん、よろしく」
しばらく進んで行くと外門に到着し、門を潜り俺たちは白銀の世界が広がる雪原に足を踏み入れた。
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