第59話
街に着く間に俺は颯音に一部始終を伝える。その間は船は自動操縦にしている。
「で、そのシーセンチピードはどこへ行ったんだ?」
「一緒に海には落ちたと思うけど、戦闘に夢中だったからわかんね。まぁまた会うでしょ。その時は色々と文句は言いうけどね」
そんな会話をしているとようやく街の水門が見えてくる。門の前で待っているとゆっくりと門が開いて、ようやく街に戻ってこれた。
桟橋に船を止め、船から降りる。颯音が降りたのを確認してから船を回収してインベントリにしまう。これで、船が出せるところであればどこでも出せれる。
「街に戻ったし、組合所で素材を換金するか」
「おう」
俺たちは潮の香りが漂う道を進んで行き組合所に到着。受付に並び今回の冒険で手に入れた素材を全て換金した。
「かなりお金が手に入ったな」
「俺の分も春名が預かっておいてよ」
「構わないけど、なんかお金がいるときは言ってくれよ」
「おう」
組合所を後にした俺たちは現在中層に行ける道を進んでいる。
これから行くところはモレルさんの友人の洋菓子店。頑張ってくれたコガネとシロガネのご褒美にケーキを買うためだ。
洋菓子店に着いて店内に入ってみるとレジのところに獣の耳を付けて赤い髪をした女性店員さんが立っていた。名前が見えないってことはプレイヤーだよな。モレルさんの友人かな?
「お決まりですか?」
可愛らしい声では注文を聞く女性店員さん。
「えっと、これと、これと……あとこれを下さい」
俺は前にモレルさんが選んでくれた洋菓子を女性店員さんに伝える。
「畏まりました」
女性店員さんは俺が頼んだ洋菓子を箱に詰めていく。
そんな様子を見ていると颯音が耳打ちをする。
「なぁどれもモレルさんが選んでくれたものだよな」
「コガネとシロガネが気に入ってるからな」
「そうなんだ」
「お待たせ、しました」
女性店員さんから箱を受け取り代金を払うと女性店員さんが尋ねてくる。
「あの、お二人はモレルの知り合いなの? モレルの名前が聞こえたもので……」
「あ、はい」
「もしかして、貴方がハルナ?」
「そうですけど……モレルさんのご友人の方ですか?」
「うんそう。私ルーシャ。いつもモレルがお世話になってます」
「いえいえ。こちらこそあの火力には助かってます」
「モレル、脳筋だから」
「あはは……」
どう返せばいいのか分からず思わず空笑いをする。
「あ、これ。渡しとく」
俺と颯音はルーシャさんからプレイヤーカードを渡された。
「それなら俺と颯音の分も」
「ありがとう」
箱をインベントリに仕舞って俺たちはルーシャさんにお辞儀してからお店を出た。
ぶらぶらと歩いていると颯音は話しかける。
「なんかモレルさんは美人って言葉が似合うけど、ルーシャさんは可愛いって言葉の方が似合うな」
「そうだな」
「あの赤髪もそうだけど、ケモ耳気にならない?」
「なんかの装備じゃね? 知らんけど」
「適当だな」
「これ、装備の一部」
突然、後ろからルーシャさんに声を掛けられ、俺と颯音はビクッとなった。
「ル、ルーシャさんいつからそこに?」
「? ハヤトが可愛いって言葉の方が似合うなってところから」
「ほとんど聞かれてた!」
そう言われて颯音は赤面する。
「忘れて! ルーシャさんさっきの言葉は忘れて下さい!」
颯音は涙目になりながらもルーシャさんに忘れてほしいと懇願する。
「嫌。嬉しいから忘れない」
「……そう、ですか……」
二人の会話を聞いていた俺は少し恥ずかしくなり、無理矢理話題を逸らすためにルーシャさんに尋ねる。
「なんでルーシャさんはここに?」
「二人の後を追いかけてきた」
「なにか用でも?」
ルーシャさんは頷く。
「二人とも冒険に行く?」
「街に戻ってきたばかりで特に予定はないですけど」
そう言うとルーシャさんはしょんぼりする。俺たちと冒険行きたいのかな?
「春名、時間もあるしどっか行こうよ」
「そうだな。ルーシャさん、冒険に行くんで一緒に行きませんか?」
「うん!」
ルーシャさんは嬉しそうな表情をした。
「行きたいところとかあります?」
「海原は飽きた。他エリアに行きたい」
「他エリアか……」
「俺は構わないぜ春名」
「颯音がいいなら、他エリアに行ってみますか」
「雪原エリアがいい! あそこでしか取れない木の実があるの!」
「じゃそこにしますか」
ルーシャさんとパーティーを組み雪原エリアに行くために街の中心にある転移門に向かった。