第58話
『急いで船に転移するぞ!』
そうメッセージを送ると颯音は頷く。
急いでメニュー画面を操作して船に転移した。
「はぁ……はぁ……何とか間に合ったな」
どうにかシーセンチピードとボーンシャークの群れが来る前に転移できたことに安堵する。
「だね。こっちに来るの予想外」
「急いで離れようぜ」
「了解。操縦席行ってくる」
颯音が操縦席に向かうとすると近くで水飛沫が上がる音が聞こえ、ドカンと船先のデッキからなにか重たいものが落ちた音がする。
「俺が様子を見てくるから、颯音は操縦を頼む」
「わかった。気を付けろよ」
俺は念のためにコガネとシロガネを呼び出して船先のデッキに向かった。
「やっぱりあいつか」
船先のデッキには海水から上がったばかりのシーセンチピードがいた。
さっき俺と颯音がいたところから船まではそんなに離れていない。てことは、海中でみたシーセンチピードがこいつだったなら……
「やばっ! 颯音! 急いで船を動かせ!」
近くにあるスピーカーから操縦席に居る颯音に指示を出す。
すると、ゴンゴンと船になにかがぶつかって船を揺らしだす。
直ぐに船は動き出したけど 海面から骨で出来た背ビレが姿を現す。くそ、シーセンチピードを追いかけてボーンシャークの群れもついてきたか。
「コガネ、あの背ビレに向かって【ビリビリの糸】だ」
「シュ!」
コガネに指示を出すと口から電気を帯びた糸が吐き出された。
ボーンシャークは糸を避けようとせずに突っ込んでくるが、コガネの糸によって痺れて少し距離が開く。今のうちに距離を離さなきゃな。
『春名、もう少しスピードを上げるからしっかり掴まってよね!』
グーンと船のスピードが上がり、俺はコガネとシロガネをしっかり腕で抱えて手すりに摑まる。
「シ、シャ!?」
「え!?」
目の前にシーセンチピードが飛んできて避けれなかった俺はコガネとシロガネとともに船の外に投げ出された。
「ぷはっ……! はぁ……はぁ……!」
「シ、シュ……!?」
「コガネ!」
泳いで溺れているコガネに向かっていると足に何かが噛み付き海水に引きずり込まれ凶悪な面をしたボーンシャークと視線が交わる。
俺は必死にボーンシャークの顔面を蹴るもびくともしない。やばい呼吸が……
インベントリから颯音から予備で貰った呼吸機械を咥える。
いい加減に離せこの骨鮫が!
盾を回転刃に変形させてボーンシャークの顔面に攻撃を入れる。ボーンシャークは一瞬ひるんだ隙に俺は脱出して沈んでくるコガネを受け止め、もう一個予備で渡された呼吸機械をコガネに咥えさせる。
コガネはゆっくりと目を覚ました。よかった。呼吸はできているみたいだな。とりあえずは一安心だけど、ボーンシャーク五体に囲まれた状態だな。
このまま船に転移しても追いかけてくるのは間違いない、戦うしかないな。ボーンシャークたちのレベルは30と俺より少しだけ上だけどコガネもいるしどうにかなるでしょ。
俺はコガネの頭を突っついてこっちを向かせ、【共鳴】を使ってもらうようにジェスチャーをする。
コガネは俺の意図を汲んでくれたのか光の粒子になって武器と一体となり特殊な革手袋に変わる。
『ハルナ! 全力でいっていいよね!』
頭に直接コガネが語り掛けてくる。俺は頷き返す。
指先から電気を帯びたワイヤーを伸ばし展開する。ボーンシャークの一体が突っ込んでくるがワイヤーでぐるぐる巻きにしてダメージを与えていく。
他のボーンシャークが助けようと噛み付こうとするが、そんな攻撃じゃ俺の共鳴技は突破できないぜ。
更にワイヤーを展開して逃げ回る残りの四体を捕縛して体力を削り倒し切った。
辺りを見渡して他にモンスターがいないのを確認してから浮上した。
「ビー!」
浮上したらシロガネが飛んできて頬を擦り寄せてくる。ずっと上空で探してくれていたのかな。
「心配かけたなシロガネ」
「ビー!」
『春名ー!』
拡声された颯音の声が聞こえてきて、そっちに視線を向けると船が近づいてくる。
「颯音こっちだ!」
俺は大きく手を振って居場所を知らせた。
船は近くで止まり、俺は後部デッキから船に乗り上げた。
「春名、無事か?」
「おう、なんとかな」
「急に投げ出されたからビビったよ……」
「話しは後でするから、街に戻ろう」
「わかった」
エンジンが掛かりゆっくりと船は動きだし街がある方角に進んで行く。