第46話
下の階層に行くにつれ潮の香りが強くなってきて波の音も聞こえてきた。
「おお! 船がいっぱいある!」
隣の颯音は港に係留している沢山の船に驚いている。
大きさも様々で形も色もバラバラで凄い光景だ。
「なぁなぁあの大きい建物が組合所かな?」
周囲の建物よりも大きく目立つ建物を指さして颯音が言う。
「行ってみるか」
組合所と思われるところに向かって進んでいるとモレルさんからメッセージが届いて足を止めた。
『ハルナ君今どこにいるの?』
「今は船がいっぱいある階層に居ますよ」
『下層にいるんだね。手伝いが終わったから私も一緒に行ってもいいかな?』
俺は颯音に聞いてみると食い気味にいいよと言われた。
「構いませんよ」
『ありがとう。そっち向かうから少し待ってて』
モレルさんとメッセージを終わらせ、颯音と雑談をしながら待っていると俺たちを探しているモレルさんを見つけた。
「モレルさーーーん!」
名前を呼ぶと俺たちを見つけたモレルさんはこっちに走ってくる。
「お待たせ」
「いえ、全然待ってないです!」
「モレルさん、装備を新調したんですね」
黒のインナーの上から青のラインが入った白の革ジャンみたいなアウターを纏い、それに合わせてなのか青のラインが入った白のショートパンツと同じく青のラインが入っているブーツも身に纏っていた。そして、頭にはゴーグルが装着されている。なかなかかっこいい服装だな。
「うん。ハルナ君がログインしてなかった期間に新調したよ」
「似合ってますよ」
「本当! ありがとう!」
「めちゃくちゃかっこいいですモレルさん!」
「ハヤト君もありがとう」
「モレルさんも来たし、組合所に行きますか」
俺がそう言うと二人は頷いて組合所に向かった。
「ねぇ、二人は何時までログインする予定なの?」
「明日も学校あるから零時前にはログアウトしますよ」
「そっか、二人とも学生さんだもんね」
「モレルさんは社会人なんですか?」
颯音がモレルさんに尋ねる。
「そうだよ。こう見えて社会人だよ~」
なんとなく察していたけど社会人か。ということは俺たちよりも年上なんだ。
そんなことを話していると組合所に到着した。
「ここで船を借りられるんですよね?」
「うん、そうだよ。日数と船の大きさで値段はバラバラだけどね」
「日数ってログインしてない時もカウントされるんですか?」
もしカウントされるなら行きたい時に借りないと損すると思って俺はモレルさんに尋ねた。
「ううん。使用している時間でカウントされるよ」
「そうなんですね。なら、今借りても問題ないんですね」
「そうだよ」
「じゃあ借りに行きますか」
「ならさ、船のデザインとかは俺が選んでもいい?」
「うーん、俺は特に拘りないから任せるよ」
「やった! 任せて!」
俺たちは組合所の扉を開け中に入る。中の作りは、はじまりの街にある組合所と大体一緒だった。
モレルさんを置いて俺と颯音は受付に並んだ。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
NPCの受付嬢が尋ねてくる。
「船を借りたくて」
「畏まりました。代表の方のプレイヤーカードをご提示お願いします」
颯音に視線を送ると、春名がやってとアイコンタクトしてくる。
俺は軽く溜息を吐いてプレイヤーカードを提示した。
「ありがとうございます。では此方の用紙にご記入をお願いします」
渡された用紙には借りたい日数と船の大きさや機能、オプションなどの項目が書かれていた。
俺は颯音と一緒に考えることにした。
「何日にする?」
「下に大体の値段表があるから、それを参考にすればいいんじゃない?」
「そうだな……一週間の方が安いしそうするか。……あとは颯音にパス」
「おう、任せろ」
ペンを颯音に渡し全てを託した。
「春名、終わったよ」
颯音から用紙を受け取り俺は受付嬢に渡す。
「少々お待ちください。こちらが合計金額になります」
受付嬢の人は金額が表示されている半透明なウインドウ画面を見せてくる。思っていた金額よりも高いんだけど……
「颯音、どれだけ機能とか付けたんだよ」
「あればいいなって思った機能を付けたけどやっぱり高くなったか……お金足りそう?」
「颯音はいくらある?」
「装備作ったから少ない……」
「合わせたらギリギリで足りるな……これで行くか。後で請求するからな?」
「うぅ……わかったよ……」
俺は颯音から全額受け取ってから受付嬢にお金を渡した。
「ありがとうございます。こちらが借用書になります。直ぐに船を受け取りますか?」
「あ、はい」
「では、ご案内します」
受付嬢が案内してくれるのか席を離れ、カウンターの奥に案内する。モレルさんを呼んで俺たちは受付嬢の後をついて行った。
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