第262話
人混みを避けるために建物の屋上を伝って急いで偵察蜂兵の後を追うと下層の通路に飛んでいく。その先にもう一体の偵察蜂兵と合流した。
「行きましょう、グレンさん、エレナさん」
「二人より早いから先に行ってるわよ」
箒に跨っているエレナさんが屋上から降り、合流した偵察蜂兵を一体連れて通路に入っていく。
俺とグレンさんも屋上から降りて、残った偵察蜂兵と一緒に下層に向かった。
しばらく偵察蜂兵の後を追っていくと、煉瓦で作られた倉庫みたいな建物が集まったところに着いた。
建物の上にエレナさんが手を振って呼んでいる。俺とグレンさんも建物を登ってエレナさんと合流。
無言でエレナさんは窓を見るように指示をする。
中の様子を窺うと牢屋に入れられているウィルを見つけた。それと、子供が数人捕まっていた。
小声でエレナさんが聞いてくる。
「ねぇ、なんかのイベントなの、これ?」
「安全である街でNPCが捕まっているなんて、イベントしか考えられないだろう」
「それにウィルが巻き込まれた感じか……」
中を見わたすと武器を持った人たちが数人いる。逃げないように見張りなんだろう。
見張りの人たちの名前の所に海賊と記載されていた。
「海賊か……倒しておかないと被害が拡大するから潰さなきゃ」
「潰すなら特大の魔法をぶっ放す? それなら一瞬で――痛い!! なんで殴るのよ!」
「バカ! 中に捕まっている奴らも吹き飛ぶだろうが!」
「殴んなくてもいいじゃん……」
グレンさんに頭を殴られてエレナさんは涙目になってしまった。
「グレンさん、エレナさん。入口の海賊たちの注意を引き付けて貰ってもいいですか? その間に全員救出します」
「おう、任せてくれ。行くぞエレナ」
「後でケーキを奢ってもらうからね!」
エレナさんは少し怒りながらもグレンさんの後を追って降りて行った。
俺はコガネとヒガネを呼び出して状況を説明すると、ヒガネが聞く。
『ウィルは平気なの?』
「今のところは大丈夫みたいだけど、のんびりしてはられない」
『僕が引っ掻き回すから、ヒガネは悪い奴らを』
『私がやるから、コガネはハルナと共鳴してて』
『ええ!! 僕がやりたい!』
ヒガネはじっと見つめて笑顔になり、コガネが身震いする。
『……こ、今回だけだよ……』
『ありがとうコガネ。今回は譲るね』
『う、うん』
コガネはヒガネに頬をすりすりされてちょっと嬉しそうだ。
コガネもヒガネと番になったのかな? なんも言わないしわかんねえ。
『じゃあ行ってくる』
「無茶するなよ」
ヒガネは器用に前足で窓をくり抜いて中に入っていくと悲鳴が聞こえ、しばらくすると静かになった。
コガネと共鳴をして窓を壊し中に突入した。
中では泡を吹いていたり、肌が変色したりと惨いことになっていた。でも、微妙に体力が残っているな。
見渡しているとヒガネが肩に乗っかってくる。
『全員動けないようにしたよ』
「そ、そうか。話し聞きたかったからサンキューなヒガネ」
瀕死だから動かないと思うけど念には念を入れて糸で縛った。これで大丈夫だろう。
牢屋の前に行くとウィルは怯えている子供たちを庇っていた。
「ウィル、大丈夫か?」
「ハルナさん!!」
声をかけると凄い勢いで振り返ったウィルはどこか安心した表情をしていた。
「海賊たちの悲鳴はハルナさんの仕業だったのか……」
「俺じゃないけどね、まぁいいや。ちょっと離れてくれ」
ウィルが鉄格子から離れたのを確認してからヒガネに頼み、紫色の液体で鉄格子を溶かした。
「おお~、ヒガネて鉄も溶かすことも出来るんだ~」
「その液体、指も溶けるから触んなよ」
触ろうとしていたウィルの手が止まった。
「ウィルお兄ちゃん……」
女の子が震えながらウィルの袖を引っ張る。
「この人は味方だから安心して」
ウィルは優しく頭を撫でて落ち着かせた。
「ウィル、この子達は一体……」
「海賊に拐われた子供たちです。たまたま目撃して、追跡したら逆に捕まっちゃって……ごめんなさいハルナさん。相談もしないで勝手に行動しちゃって」
「すげぇ心配したんだからな。そこは反省してくれ」
「ごめんなさい……」
「まぁ、それは置いといて。お前のおかげで子供たちは助かった。ウィル、よくやった」
少し落ち込んでるウィルに言葉を掛けると嬉しそうな表情を浮かべた。
コガネとヒガネを戻して、子供たちを連れて外に出た。