第261話
大変遅ればせながら明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
「颯音~そろそろ家に着くから起きろ~」
兄ちゃんとの豪華な夕飯を済まして車で颯音の家に向かっている間に寝てしまった颯音を起こすと、ゆっくりと目を覚まして伸びをする。
「……夢の中でも飯食べてた……はぁ~……思い出しただけで涎が垂れそう」
「垂れそうっていうか垂れてるぞー」
「え? あ!」
颯音は服の袖で急いで拭いた。
そんな会話をしていたら車のスピードが徐々に遅くなり、颯音の家の前に到着した。
「冬真兄、また泊まりに行ってもいい?」
「両親の許可が取れていれば構わないぞ」
「はーい。じゃあ二人共おやすみ。春名はまたあとで」
颯音が家に入っていくのを見届けてから車は動き出し帰路に就く。
風呂を済まして部屋に戻る頃にはもう夜の八時。グレンさんたちまだログインしていればいいんだけど。ヘッドギアを付けてログインをした。
ログインしてからフレンド一覧を確認しているとウィルが隣にやってくる。
「おかえりなさいハルナさん。ハルナさん以外の人たちは先に来て何処かに出掛けて行きましたよ」
颯音はコクヨウ、海都はリュウテイ、雫恩は海都に付いて行った感じかな。
「そうなんだ。教えてくれてサンキューな」
返事しながらグレンさんにメッセージを送った。
「ハルナさんもお出掛けですか?」
「そのつもりだけど……頼み事?」
「あ、はい。新しい本を借りてきて欲しくて……」
「あー……ちょっと待ってな」
グレンさんに海原エリアで会えるか聞くと「大丈夫だ」と返ってくる。
待ってもらってるウィルに伝える。
「海原エリアに行くから連れて行くよ。自分で選んだ方がいいだろう?」
「え、いいんですか? やったー!」
「あ、船で行く? 空から行く?」
「うーん、じゃあ空で!」
「了解」
クモガネとアカガネを呼び出して翅を展開して、ウィルを抱きかかえ拠点を飛び立った。
数分、空を飛んで街の上層の広場にクモガネのスキルを使って姿を消して降り立つ。
「ハルナさん、一人で行けるからここで大丈夫」
「俺も中層だから途中まで一緒に行こう。あ、そうだ。これ付けなきゃ」
インベントリからケモ耳のカチューシャを取り出して付ける。
ウィルはくすくす笑う。
「似合ってますよハルナさん」
「そういうのいいから、ほら行くぞ」
「はーい」
ウィルと談笑しながら中層に繋がる通路を進んで行く。
グレンさんに遅れるとメッセージを送り、結局オピオさんの店の前までついて行った。
「閉まってるな」
「閉まってますね」
オピオさんのお店はシャッターが降りていて休みのようだ。
「悪い……先に見てくればよかったな……」
「僕は気にしてないので、謝んないでくださいハルナさん。それよりも、ハルナさんの用事の方は大丈夫なんですか?」
「ルーシャさんの店だからウィルも来るか?」
「うーん、もうちょっとこの辺り見て回りたいから終わったら行きますね」
「……わかった。それなら……はい、これ渡しておくよ」
ウィルにお金が入った財布を渡す。
「これぐらいで足りる? もうちょっといるなら――」
「だ、大丈夫です! これぐらいで十分。むしろ、渡し過ぎ……」
「好きなもん買ってくれ。じゃあ楽しめよ~」
「はい!」
ウィルは財布を大事にしまい人混みに消えていった。
って言ったもののすっげぇ心配だな。
俺はシロガネのスキル【偵察蜂兵】を数体召喚した。
「ウィルになんかあったら守ってくれ」
隠密蜂兵達は姿を消してウィルを追っていくのを見届けて、急いでルーシャさんの店に向かった。
「ハルナ君、グレンさんなら部屋に案内しているよ」
「ありがとうございます」
レジにいるモレルさんに部屋に居ると言われ、従業員の通路を取って部屋に入った。
「グレンさん、お待たせしてすみません」
「大丈夫だ」
「やっほ~ハルナ~」
グレンさんだけ待っていると思っていたら、エレナさんが隣の席で座って待っていた。
俺は向かい側の席に座った。
「エレナさんも来てたんですね」
「俺がこの店に行くって言ったら付いてきたんだ」
「だって、ここの洋菓子美味しんだもん!」
「それは同意するけども。まぁいいや。こいつはほっといて話しを始めるぞ」
「はい」
「都合が悪い日あるか? もしくは、時間帯」
「今は夏休み期間なんで予定がなければいつでも、時間帯は夜中じゃなければ大丈夫です」
「夏休みいいなぁ~長期休暇取ろうかな~」
「話に割り込むな。奢ってやるから洋菓子を頼んでこいよ」
「マジ?! 行ってくる!」
凄い勢いで席から立ち上がりショーケースに向かった。
「グレンさんたちはいつなら大丈夫なんですか? 仕事ありますよね?」
「夜中じゃなかったらいつでも大丈夫だ」
「それなら、木曜の夜はどうです? 金曜は十八時からメンテだし、メンテ後は新エリアに行ったりで忙しいと思いますし」
「そうだな。明日にしよう。場所はどうする――」
――ドンドン!
グレンさんと話していると急にドアが凄い勢いで叩かれ、俺とグレンさんは警戒して立ち上がる。
「エレナ、悪い冗談は止せ」
グレンさんが語り掛けても返事は返ってこない。
俺は近づいてゆっくりドアを開けると、何かが胸に飛び込んでくる。
それは、俺がウィルにこっそりと護衛に付けていた偵察蜂兵だった。
「え、偵察蜂兵? なんで……ウィルに何かあったのか?」
そう聞くと蜂兵は頷く。
「グレンさん、すみません。ウィルがピンチみたいだから、俺行きます」
「俺も行こう。一人より二人の方がいいだろう。ついでにエレナも連れて行く」
「助かります。案内をしてくれ」
ショーケースで選んでいるエレナさんをグレンさんが首根っこを掴み連れて行き、急いでウィルの元に向かった。