第258話
ログアウトした俺たちは部屋からこっそり出てリビングに行く。
スマホのライトで照らしながら、颯音と海都がリビングのテーブルをそっと退かして、布団を敷いていく。
俺は颯音に聞く。
「颯音、何時帰るんだ?」
「夕方に帰ってくるって言ってたから、そこまでは居ようと思うけど」
「俺もそれぐらいに帰るよ」
「わかった、それじゃあおやす――」
パチンと照明のスイッチの音が聞こえると、リビングの明かりが付く。
恐る恐る、顔を向けると兄ちゃんが腕を組んで立っていた。
「なにこそこそしているんだ?」
「あ、いや……その……」
「どうせ、この時間までゲームしてたんだろう? 怒らないから正直に言いなさい」
俺は二人の顔を見てから頷いた。
「えっと、その……どうしてもやらなきゃいけないイベントがあって……」
「イベント? ふーん、あんまり夜更かしすんなよ」
そう言って兄ちゃんは部屋に入っていった。
颯音が小声で言う。
「冬真兄は許してくれた感じ?」
「そうかも」
「よかった……怒った冬真兄は怖いからなぁ~」
颯音が安堵しているとスマホが鳴り、兄ちゃんからメッセージが来てて俺は颯音に伝えた。
「颯音、兄ちゃんから。颯音は明日までに課題を終わらせることだって」
「ええええ!? 俺だけ!?」
「いんや。俺と海都は終わってるから颯音の手伝えって」
「巻き込まれた。なんで課題終わってないんだよ颯音」
「俺のせいなの!?」
「夜中なんだから静かにしろ。明日手伝うから死ぬ気でやれよな」
「うぅ……はーい……」
リビングの照明を消して自室に戻り、直ぐに眠りに就いた。
――次の日。
「颯音、そこ間違ってる。この公式を使って」
「う、うん」
「ここのスペル違う」
「え、ど、どこ……?」
昼手前に起きた俺たちは昼飯を食べてから、二人掛かりで颯音の課題を手伝って一時間経った。
そろそろ休憩を挟まないと颯音がオーバーヒートしちゃうそうだけど、あと少しだし頑張ってもらおう。
そこから一時間経ってようやく課題が終わった。
「お、終わった……!!」
課題を終えた颯音はソファーに倒れ込んだ。
「お疲れ様~うーん、見た感じ大丈夫かな。海都の方は?」
「こっちも問題ない。お疲れ~」
颯音はうつ伏せのままサムズアップして力尽きた。
俺は立ち上がって台所に菓子を取りに行くと玄関の方から「ただいま」と出掛けていた兄ちゃんの声が聞こえる。
少しして兄ちゃんがリビングに来て、燃え尽きた颯音を見てから俺を見る。
「なんかあった?」
「兄ちゃんが課題を終わらせろって言ったからついさっきまでやってたんだよ」
「終わらせたんだ……颯音、起きろ」
兄ちゃんがそう言うとむくりと顔を上げる颯音。
「いつ帰るんだ?」
「え? あー夕方かな」
「夕方ねぇ……」
兄ちゃんはスマホを取り出して、凄い速さで指を動かす。何してんだろう?
「よし、颯音のお母さんに許可が取れた。課題を終わらせたご褒美に夕飯をご馳走するよ」
「え、いいの! わーい! 頑張ってやってよかった!」
「海都君もどう?」
海都は首を横に振った。
「ごめんなさい、雫恩から夕飯を一緒に食べようと誘われてて……」
「雫恩は海都の婚約者なんだよ」
俺は兄ちゃんに補足説明した
「その歳で婚約者が居るのか! それなら仕方ないな。今度うちに来た時にご馳走するよ」
「ありがとうございます。楽しみにしてます」
「じゃあ、時間になったら呼ぶわ」
それだけ言って兄ちゃんは部屋に入っていった。
夕飯が外食になったのは別にいいけど、グレンさんたちに連絡しなくちゃだな。
「ちょっとグレンさんたちに連絡してくるから、先にログインしてるよ」
「俺はもう少し休んでから行くよ。ついでにトイレも行きたい」
「台所にある菓子なら勝手に食べていいからな」
「わかった。行ってら~」
颯音を置いて、俺と海都は先にログインした。