第256話
「ニア……なんだよな?」
『私以外に何に見えるの? 記憶は戻ったけど、私は私よ』
「そうか。じゃあ変わらずニアっ……ってなにしてんだよ」
ニアは後ろから抱きついて頭を撫でてくる。
『いつも撫でてくれたから、お返し。嫌だった?』
「嫌……とかじゃないんだけど、なんか調子が狂うって言うか……」
『? はっきり言わないとわかんないよ』
俺は困って頬を掻いた。
厳格なイメージがあったティターニアのこんな姿が見れるとはなんか複雑な気持ち。
「なんでもない。ほら、行くぞ」
「ハルナ、ちょっと待って」
頭を撫でていた手を上に掲げると激しい音がして、見上げるとトオルさんの攻撃をニアが受け止めていた。
「なんでボスモンスターが復活してんだよ! ハルナ! 今のうちに逃げろ!」
「トオルさん待って――」
俺が制止する前にニアは掌から蔦を生やしトオルさんを捕らえようとする。
トオルさんは抵抗するも数が多く捕まってしまい、そのまま落下していく。
アオガネの頭から身を乗り出して確認すると、クランメンバーが下の方で受け止めていて、俺は胸を撫でおろした。
「ニア……これ、誤解を解くのかなり面倒になったんだけど?」
『あっちが先に攻撃してきたんだもん』
「もんって……」
俺は深いため息をついた。
「あとで謝りに行くからな。ああ、でも謝り行ったらその流れで戦うことになりそう……まぁいいや。今はオベロンだ」
『ハルナ、巨樹の中心にオベロンが居るはず』
「大体の場所は把握している感じか?」
ニアは頷いた。
「アオガネ、【共鳴】してくれ」
俺が飛びあがるとアオガネは球体と一体となり、特殊なブーツになる。
「ディルたちも【共鳴】をしてくれ」
ディルとヘイムンダ、テオクエとウシャスラの四体は共鳴をして余っている黒い球体と一体になる。ニアと同じく球体にはそれぞれの虫のマークが見える。
「動くな!」
ディオガさんの声で他のプレイヤーに囲まれていることに気が付く。
「事と次第によってはお前を倒すことになるぞ」
他のプレイヤーたちが武器を構えた。
俺はジト目でニアを見る。
「ほら……面倒くさいことになったじゃん……」
『ハルナ、時間も無いしここにいる人たちを拘束すればいいよね?』
「はあ? え、ちょまっ!」
俺が止める前にニアは【共鳴】をして、周囲に黒い蝶が舞い踊る。
黒い蝶はプレイヤーたちの方に飛び、触れた瞬間、黒い球体に閉じ込めた。
俺は手で顔を覆った。
「デジャヴなんだけど……大丈夫なんだよな、これ?」
『平気平気! ハルナの知り合いだから手加減はしておいたよ。脱出するのにちょっと時間はかかるけどね』
「そうですか……」
俺はまた深いため息を吐いてから翅を展開して飛び去る。
巨樹に近づくにつれて、攻撃が激しくなっていく。
「やっほ~ハルナ~。遠くから見てたよ~」
箒に跨ったエレナさんと飛行しているグレンさんたちが集まってくる。
「お前、『黒白』に喧嘩を売るとはな。かなり面白かったぜ」
そう言いながらもグレンさんは切り倒していく。
「揶揄わないでくださいよグレンさん。頭痛いんですから……」
「もし敵対するようなら俺たちはお前の味方だ」
「ベオルさん……! かっこいいっす!」
「か、揶揄わないでくれ……」
ベオルさんは巨大な盾でモンスターを払い照れ隠しをする。
「春名! お待たせ、って勢揃いじゃん!」
春名と海都、ルーシャさんの三人も合流した。
「おし、さっさと終わらせて打ち上げパーティーをすっぞ!」
グレンさんの言葉に全員は頷いて速度を上げた。
攻撃を捌き、更に近づくと、マザーアントに似た土人形と、俺が見たことない巨大な蠅に、巨大な蚊に、巨大な……あれ? あの見た目って……
「「巨大なゴキブリ!?!?」」
エレナさんとリリアスさんの悲鳴が重なった。
あれ、やっぱりゴキだったか……俺も苦手な方だけど、巨大にしなくてもいいと思う。
『自分の眷族をここまで弄ぶなんて……!』
ニアから怒りの感情が伝わってくる。
「春名! あの四体は俺たちで引き受けるから行ってくれ!」
マザーアントを颯音とルーシャさん、巨大な蠅を海都とリリアスさんとミライさん、巨大な蚊はグレンさんとエレナさん、巨大なゴキはベオルさんとユリーナさんが対処してくれたことで道が開き、一気に抜けた。
『ハルナ、準備はいい?』
「いつでもいいぞ!」
周囲に飛んでいた黒い蝶が集まり、巨大な槍に姿になっていく。
「【共鳴技・グングニル】」
黒槍は飛翔して巨樹に突き刺さり、結晶に覆われたオベロンが姿を現す。
共鳴していたディルたちが解除して巨樹を囲うように配置する。
『いい加減に目を覚まして、オベロン!』
ニアから黒いオーラが放たれると、ディルたちも共鳴して黒いオーラを放ち巨樹を包み込んだ。