第255話
蛇のように襲い掛かってくる木の根を俺は飛行しながら刀で切り裂いていった。
颯音は空中を駆けながら殴り、ルーシャさんは滑りながら切り裂き、海都は注意しながら俺たちの援護をしてくれた。
「あれは……」
回りを見ていると前方で斧部分を回転させながらバッタバタと切り倒していくカレンさんをみつけた。
相変わらずの火力だ。これが終わったら声を掛けよう。
今はこっちに集中だ。
「おめぇらーー! 喰らっても知らねぇぞ!」
トオルさんの声が聞こえてくると、二つの大剣の輪郭が光りだしたのが視界に入る。
トオルさんは大剣を大きく振ると黒い斬撃が飛翔して、木の根を一掃すると、オベロンまでの道が切り開いた。
一斉に全員が動き出し、オベロンに近づくと地面からとてつもない量の根が生えてオベロンを飲み込み、空を覆う程の大樹になった。
驚愕していると、大樹の隙間から大量のモンスターが落ちてくる。その中に、避難していたクイーンビーと護衛の蜂モンスターも混じっていた。
他のプレイヤーが攻撃しようとしているが見えて、俺は盾を飛ばして【ラウンドフォース】を展開し防ぐ。
急いで飛んでいき声をかける。
「クイーンビー! 大丈夫か?」
『助けてくれて感謝する、ハルナ』
「おい、お前! モンスターを庇うつもりか!」
攻撃を防がれたプレイヤーが睨んでくる。
「大事な友人を守るのは当たり前だけど?」
「友人? モンスターがか? 頭おかしいんじゃねのか?」
プレイヤーは鼻で笑う。
『ハルナ、こいつやっちゃっていい? やっちゃっていいよね?』
『ハルナに許可を取らなくていいよ。僕がやる』
『氷漬け?』
『燃やそうよ、あいつ』
シロガネとコガネが危ない方に話を進め、クモガネとアカガネも話に乗っかる。
相手に聞こえないからって言いたい放題だな。
内心苦笑しているとトオルさんがやってくる。
「プレイヤー同士争うな! 今はボスモンスターだけ集中しろ!」
プレイヤーは舌打ちして去っていく。
「で、そいつは? お前さんの知り合い……っていうのも変だけど、そうなんだろう?」
武器を仕舞ったトオルさんが聞いてきて、俺は頷いた。
「戦闘に巻き込まれないように避難させてきます」
「急いで戻ってこいよ」
俺はクイーンビーたちを連れて地上に降りた。
『ここでよい』
「わかった。じゃあ俺は戻るけど、ちゃんと避難しててくれよ?」
俺は赤と白の翅を展開すると、爆発が起きて大樹が燃え上がった。
そんな光景を見ていると、目の前にウィンドウ画面が現れ、ディルたちが呼び出し可能のお知らせだった。
俺はニアとディルたちを呼び出した。
『どうなっているのだ……』
変わり果てた樹海を見て、動揺するディルたちに状況を説明した。
『そう……王が暴走したのね。女王様はまだ幼いし、私たちも力不足……王を封印なんてできないわ』
ヘイムンダが暗い表情で呟くと、三体は俯いた。
『ハルナ……なんか、ここがちくちくする……』
ニアは自分の胸を指差す。
記憶を忘れてても体が覚えているんだな。
俺はニアの頭を撫でる。
「ディル、一体だけだけど当時の姿に戻れるかもしれない」
『そんなこと可能なのか?』
「勿論デメリットもある」
俺はディルたちに【女皇蟲の祝福】の説明した。
先に口を開いたのはヘイムンダだ。
『それなら私にして。 ハルナのスキルが本物なら私が適役よ』
テオクエが口を挟む。
『はぁ? 俺だろ、俺! あんな奴、俺が蹴り飛ばせば一発だ!』
『これだから頭が筋肉は……』
『やんのか?』
『いいわよ? テオクエ、私の鉄壁を一度でも超えたことがあるかしら?』
『お二方は争いは……!』
慌ててウシャスラが止めに入る。
『やれれ……』
頭を抱えるディル。
『ハルナ、私につかって。みんなをたすけたいの……』
少し悲しそうな表情を浮かべるニア。
「ニアがそうしたいなら俺は叶えるだけだ。てことで、ニアにするからそこ喧嘩しない」
いつまでも口喧嘩をするヘイムンダとテオクエを注意した。
俺の肩に止まったディルが言う。
『女王……いや、ニアよ。そなたが行くなら我らも共に行こう』
ヘイムンダとテオクエ、ウシャスラも頷く。
『ありがとうみんな。えへへ』
ニアは名前で呼ばれたことに喜んだ。
「そんじゃ行く――」
『ハルナ』
クイーンビーに呼ばれ振り向くと、木々の隙間から虫系のモンスターが集まっている。よく見ると、虫系のモンスター以外もいた。
『この森を、どうか救ってくれ』
「おう、任せてくれ!」
俺は飛び立った。
まずは炎が燃え移った樹海をどうにかしないとだな。
俺はアオガネの共鳴を解除してもらった。
「アオガネ! 広範囲に【雨降らし】!」
アオガネは口を上空に向けて水球を飛ばすと、空が段々と暗くなり、雨が降り出す。
雨のおかげで炎は徐々に鎮火し始める。樹海はこれで大丈夫だな。
「ニア、行くよ」
『うん!』
ニアの進化項目を開き、前回と同じ表示が目の前に現れ、俺は『YES』とボタンを押した。
眩い光を放ちながらニアの姿が変わっていく。
光が収まると、腰まで伸びている黒髪に黒のドレスを身に纏い、背中には幾何学模様の翅を持った容姿端麗な女性――ティターニアが微笑んでいた。