第209話
グリーンキャタピラーを放置してディルたちは話し合いだす。
『これ、どうすんだよディルロス? なんかいい案ない?』
『我に言われてもな……ヘイムンダはどう思う?』
『私に聞かれても分からない。お手上げ状態』
『それなら王を復活させては……』
『『『それだけは反対!』』』
見事に三体の声が重なる。
王様……ティターニアは女王だもんな。居てもおかしくはないけど、この反応は何だろう。
四体の話し合いは長引いているせいでみんなは飽きて遊び始めた。
俺はグリーンキャタピラーの隣に座ってディルたちを見守っていると、グリーンキャタピラーが少しずつこっちに近付いて来るのに気が付く。
そのまま行動を見ていると俺の膝に登ってくる。登りきると満足気な表情をするグリーンキャタピラー。
「よくできました」
そう言いながらグリーンキャタピラーの頭を撫でる。
『……ハルナ……?』
「え……なんで俺の名前を……?」
『ハルナ! ハルナ!』
記憶を失っているはずのティターニアが俺の名前を連呼していることに驚く。
「俺のことを覚えて……」
グリーンキャタピラーは首を傾げる。
『ハルナ! ハルナ!』
名前しか覚えていないっぽいなこの反応。
『何故こ奴のことは覚えているのだ!?』
ディルは頭を抱えて嘆いている。
『お主……何をしたのだ……』
「俺は何もしてない。覚えているの俺の名前だけっぽいよ」
『ふむ……』
ディルは考え込むと、テオクエが俺の肩に乗る。
『なぁ特に案がないならこいつについて行くのはどうよ。諸々の事情知っているし、元の姿になるまで協力してもらおうぜ』
『……テオクエ、本音は?』
『ここ以外の場所に行ってみたい!』
テオクエが本音を正直に言う。
基本的にモンスターはエリア移動できないもんな。
『私も賛成よ』
『自分は先輩方の意見に従います』
ヘイムンダは乗り気で ウシャスラはみんなに合わせるみたい。
「仲間が増えるのは嬉しいから俺は別にいいけど……テイムした後、解放できるか分かんない――」
『ハルナ! ハルナ!』
「はいはい、少しおとなしくしようね」
膝の上で暴れるグリーンキャタピラーを抱き上げてあやした。
「話を戻すけど、テイムしたモンスターを解放? 逃がす? とか、したことないから出来るか分かんないぞ?」
『お互いの同意があれば可能だと、女王様から聞いておる』
「へぇー、そうなんだ。初めて知った」
ディルは深いため息を吐いた。
『……仕方ない皆に合わせよう』
「改めてよろしくなディル」
握手を求めるとディルは渋々と足を乗せてくれた。
「そんじゃ早速、テイムするけど……」
今の名前の方がいいんだよな
俺は順番に額に手を翳して、名前を付けていく。四体は光の粒子になって、右手にある紋章に吸い込まれていった。
四体は無事に成功したな、後はティターニアだけだけど。名前はそのままじゃ他のプレイヤーにバレる可能性あるし少し変えようか。
額に手を翳して呟く。
「ニア」
ニアも光の粒子になって紋章に吸い込まれていった。
一気に五体も仲間になったな。まぁ元の姿に戻るまでだけど。
「ん?」
目の前にウィンドウ画面が現れた。
そこには【女皇蟲の加護】が【女皇蟲の祝福】に変化したお知らせだった。
効果は変わらず俺が攻撃しない限り、フィールド上にいる虫系モンスターから襲われないに加えて、ダンジョン内も襲われないのと、一日に一回進化を超えた進化を行える効果に変わった。
進化を超えた進化? うーん、よくわかんないな。もう時間ないし、今度試してみよう。
「みんなー! 帰るぞー!」
そう叫ぶと、それぞれで遊んでいたコガネたちは俺の元に集まってきて全員を戻した。
そのまま俺は拠点に飛んだ。
家に入ると開いた本を胸に置いてソファで寝ているウィルを見つける。すぐそばには読み終わったかもしれない本が積み上がっていた。大分読んだんだな。
「ウィル、風邪を引くぞー」
「ん……あ、ハルナさんおかえりなさい」
ウィルは大きな欠伸をする。
「ちゃんと部屋で寝ろよ。じゃあまた明日な」
「はい、おやすみなさい」
俺はログアウトした。
水を飲みにキッチンに向かった。
「あああ! ヴェルガのことすっかり忘れてた!」
俺は急いで部屋に戻ってログインし直した。