第208話
「よし、残りの二つも無事に孵化が出来たな」
小さなカマキリのウシャスラと、同じく小さなバッタのテオクエの二体が孵った。
カマキリとバッタの幼虫ってそのまんまなんだな。
『ディルロス先輩とヘイムンダ先輩、それにテオクエ先輩もお目覚めで』
『ウシャスラも元気そうでよかった』
『全員がいるってことは女王も復活? てか、ディルロスとヘイムンダのその姿懐かしい((笑))』
『様を付けろテオクエ。まったく……』
溜息をつくディル。
会話聞くなりカマキリのウシャスラは全員の後輩なんだろう。
バッタのテオクエはなんか軽い感じがする。
『人の子よ、女王様を連れて付いてきてくれ』
そう言って四体は歩き出すけど、歩くの遅い。まぁ仕方ないか。
「全員を呼び戻すからちょっと待ってくれ」
俺は急いでレベル上げに遠出しているコガネとヒガネ、ビートル隊六体にもどってくるように念話を飛ばした。
先に戻ってきたのはコガネとヒガネ。そのあとにアインたちが戻ってきた。
全員レベルが上がっているな。コガネはもうすぐでカンストしそうだ。
「おお、ヒガネが進化している」
少し紫色がかっているいるなと思っていたらヒガネはポイズンスパイダーに進化していた。前の姿のアシッドポイズンスパイダーになるにはもう一回進化しないとなれないみたいだな。
「おめでとうヒガネ」
『ふふ、コガネに協力してもらったんだ』
「へぇー、やるじゃんコガネ」
『それよりも、どっか行くの?』
「お、おう。ティターニアの眷族を孵化したんだよ。それで……これからどこ行くんだ?」
ディルに目的地を尋ねる。
『女王様の祭壇だ。そこでしか女王様は孵らないのだ』
ディルたちはとことこと歩き出す。
「そんな条件があったんだ。アイン、ツヴァイ、卵を運んでくれるか?」
『『了解!』』
「ドライとフィーア、フュンとゼクスはあの四体を頼む」
アインとツヴァイは協力して卵を持ち上げ、残り四体はディルたちを持ち上げる。
ディルがジト目で見てくる。
「こっちのが早いだろう? 案内してくれ」
『……そのまま真っ直ぐ進め』
ディルの案内で不自然に出来た道を進んで行くと綺麗な水が流れていて、青空が見える開けた場所に出た。
真ん中には蝶の翅模様の祭壇がある。あそこに置けばいいのか?
『あの祭壇に置いてくれ』
「わかった。アイン、ツヴァイゆっくり降ろしてくれ」
アインとツヴァイはゆっくりと祭壇の中心に卵を置く。
「アイン、ツヴァイご苦労さん」
『我を北にある小さな祭壇に』
『私は西ね』
『俺はひっがしー』
『自分は南にお願いします』
ディルはドライに運ばれて北に。ヘイムンダはフィーアに運ばれて西に。テオクエはゼクスに運ばれて東に。ウシャスラはフュンに運ばれて南に行き、それぞれの祭壇に降ろされた。
『『『『支配と慈愛を司る女王よ。我らの声を! 願いを! 聞き届け給え!』』』』
四体の声が重なって響き渡ると空が暗くなっていく。すると、周囲の花や水溜りから淡い光の筐体が無数に発生した。
俺はその幻想的な光景に見惚れた。
淡い光は祭壇に置かれた卵にどんどん集まって吸収されていく。そして、卵は少しずつ揺れ出し、段々と激しく揺れ、殻に罅が入り始めた。
罅から激しく光が溢れ俺は目をつぶった。
光が収まったのを感じて目を開ける。
『『『『女王様!』』』』
四体が祭壇に駆け寄ろうと動き出すけど、うん、遅いな。
俺はドライとフィーア、フュンとゼクスに指示を出して、運んであげた。
俺も気になって駆け寄った。
卵の中を覗くと、緑色の芋虫がいた。
グリーンキャタピラー……あれ? 他の四体と違って名前がない……
『だれ?』
小さくて可愛いらしい声が頭に響く。
『女王様! 我ら四眷族集まっております』
ディルたちは頭を下げる。
『だれなの?』
『我らを覚えていないのですか女王様……!』
グリーンキャタピラーは頭をこてっと傾ける。
どうやらティターニアの記憶が失われている様子だ。名前がないのはこういうことだったんだな。
ディルたちは相当ショックを受けているようだ。これからどうなることやら。