第207話
眩い光が収まると割れた卵から蜻蛉の幼虫が姿を見せる。孵化したのはドラゴンフライの卵だったようだ。
小学校の時にプール掃除した時に見たヤゴの姿まんまだな。ただ、デカい。そして、名前のところにディルロスと表記されていた。孵化して名前が付いているのは初めて見たな。
なんで孵化したんだろう……
「濡れているな……」
氷像を飛ばす際に水が掛かったんだろう。これが孵化の条件? 触っただけじゃダメだったか。ちょっと怖いけど他の卵にもやってみるか。って言ってもコガネとヒガネ、アインたちはいないけど。まぁ俺がやればいいか。
そんなことを考えているとヤゴは卵から抜け出しインセクトクイーンの卵に近いて、卵をカリカリと引っかきだす。だけど、卵に傷一つ出来ないことにヤゴは諦めしゅんとする。
俺はヤゴの背中に手を乗せる。
「心配するな、直ぐに孵化させるよ」
『気安く触るな人の子よ。……頼んだぞ』
「言われなくてもクモガネ、アオガネ、アカガネ、クロガネ。威力弱めで卵に向かってスキルを使ってくれ」
クモガネは【凍てつく風】を、アカガネは【蛍火】を、アオガネは【ウォーターブレス】を、クロガネは【ストーンバレット】のスキルを使う。
『何をしているのだ?』
「孵化条件が分からなくてさ、とりあえず属性系スキルを使って反応するか試しているんだけど」
そういうとヤゴは溜息をつく。
『それでも女王様の加護を授かった者か……』
「そう言われても分かんないもんは分かんないんだよ」
『……仕方ない、力を貸そう。レディバグは光と水と回復。マンティスは土と闇と氷。グラスホッパーは植物と風と雷をそれぞれを同時に当てるのだ』
「ちょ、ちょっとまってメモするから待って!」
俺は教えて貰った条件をメモ機能使って書き留めていく。
条件が三種類とは予想外。道理で孵化しない訳だ。
「んじゃあヤゴ……じゃなくてディルロスの孵化条件はなんだったの?」
『……我は水と氷と火だ。気安く真名を呼ぶな。むず痒い』
氷像を吹き飛ばした際に水で濡れ、氷像の破片が当たったのは分かるとして火? 考えられるのはアカガネの飛んでいる時に舞っていた火の粉ぐらいだと思うけど……偶然重なったのかもしれないな。ラッキーだな。
「なんて呼べばいいんだよ?」
『好きに呼べ。ただし、真名以外でだ』
「えーじゃあ……短くしてディルって呼ぶわ」
『……さっさと孵化してくれ』
「分かってる。シロガネ……あれ? シロガネは?」
辺りを見渡してもシロガネの姿はなかった。
アオガネがマントを引っ張って上を見る。釣られて見てみるとシロガネが蜂兵を使ってなんかしていた。
「シロガネ! 降りてきてくれないか!」
『ちょっと忙しんだけど!』
「少しでいいんだ!」
『仕方ないわね!』
少し怒りながらシロガネが降りてきた。
『それで用件は?』
「卵に回復をしてほしんだ」
『それだけ?』
シロガネは小さくて緑色の蜂兵を召喚した。
『その子に指示出してくれれば回復してくれるから。後よろしくね』
蜂兵は頷く。そして、シロガネは元の場所に戻っていく。
何してんだろうなあいつ。
「まぁいいや。それじゃアオガネ、タイミング良く水をかけてくれ」
『わ、わかった……』
俺はフュンのスキル【フラッシュ】を使ってレディバグの卵に光を当てる。
「今だ!」
指示通りにアオガネは水をかけ、蜂兵は回復してくれた。
すると、卵は光り始めて、段々と光は強くなり、ピキピキと音がして卵が割れた。
卵の中から黒い体に黄色の斑点がある幼虫が出てくる。テントウムシの幼虫って初めてみるな。
ディルと同じくヘイムンダという名前があった。
『あら? ディルロス! あの戦いぶりね!』
『相変わらずだなヘイムンダ』
『あなたが私を起こしたの?』
『我じゃない、こ奴だ』
ヘイムンダが見てくる。
『あらあら! 女王様の寵愛を受けし小虫ちゃんじゃない! あなたが起こしてくれたのね、ありがとう』
「頼まれた事なんで気にしないで。それよりも……」
ディルが足で突っつき小声でいう。
『誰彼構わずああ呼ぶんだ、彼奴は』
「そうなんだ」
俺が聞こうと思っていた内容をディルが答えてくれた。小虫って言われたの初めてだな。それもテントウムシの幼虫に。内心苦笑した。
『なんの話をしているのかしら?』
ディルはワザとらしく咳払いをする。
『さ、残りも頼むぞ』
「はいはい」
ディルから教えてもらったやり方を行なって、残りの卵も孵化させた。